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【中学受験シリーズ】夜に見る夢

私の中学受験を主導していたのは母親でした。私の志望校を決め、勉強を細かく管理し、生活も管理していました。

眠れない生活


当時の私の生活生活には、いろいろなルールがありました。

例えば、小学校が終わったらすぐに帰ってくること。このルールを守らせるために、母は、学校が終わる時刻になると、学校が見渡せるベランダに仁王立ちになって、私を待っていました。

また、食事のときは教科書を持ってきて、勉強しながら食べること。

さらに、母親がその日に課した勉強内容が終わるまで眠らないこと。そして、指示される勉強内容はもちろんその日に終わるような量ではないのです。例えば、「今日は社会は教科書の○ページから○ページを覚える」「その後テストをする」「算数は問題プリントの○枚を解き、持ってくるように」「国語は…」などなど。母親の、「成績をあげさせたい」という希望がそのまま出される課題になるのですから、量が半端ではありませんでした。

「教科書の○ページから○ページまでを覚える」という課題の場合、私が覚えたと言ったら、母親がその場でテストをすることになります。当然、覚えていないところもあり、答えられない質問もあるのですが、その場合、ひとしきり暴力を振るわれたあと、

「覚え直し!」

ということになります。この「やりなおし!」「覚え直し!」は毎日繰り返されて、そのたびに私は「まだ終わらないのか」と絶望していました。夜の12時などはとうに過ぎているのです。

母親がその日「もう寝て良し」というまで、とにかく眠れない。勝手に寝る支度をして寝ていても、母親がドアをバン!と叩き、

「何寝てんだよ!」

と、毛布を蹴飛ばされて、起こされました。

夜1時まで勉強している、なんてざらでした。でも、そのように長時間勉強していて、効率が良いはずはないのです。小学生なので眠すぎて頭は働かないし、母親が出した「課題」は終わる量ではないので諦めている。

「勉強しているフリ」

をして時間が経過するのを待ち、夜1時を過ぎて母親が根負けして

「もう寝てよし」

というのを毎日ひたすら待っていました。

朝2時の夢


ある日、どうしても眠くなった私は、夜の1時ごろ、母が見ていないスキを見計らって、自分のベッドに一瞬だけ横になりました。

その日寝る許可が出ていなかったので、寝るつもりはありませんでした。母が寝室に引きこもった(課題が終わらなかったので寝る許可はなかった)好きに、ただ一分くらい横になって起きようと思い、目を閉じました。

次の瞬間、はっと目が覚めて飛び起きたら、夜2時をすぎていた。

「寝てしまった」

青ざめた私は、そそくさと起き上がって、まるでずっと勉強していましたかのように何事もない顔をして、机に向かって勉強するふりをした。母は朝の3時ごろ、トイレに行くように起きだして、私の様子を見に、パジャマでやってきました。

その時、母は機嫌が良かったのでしょう。勉強している私に声を掛けました。

「そうそう、そうやって、眠い時はぐっと短い間寝て、ぱっと起きるんだ。そして勉強を続けるんだ」

そして自分の寝室に、戻って眠り始めました。「もう寝てよし」という許可を出すことなく。

私は、母の寝室の前まで忍び足でいき、閉じられたふすまの隙間から母の寝息が聞こえてくるのを確認して、自分の部屋へもどりました。

寝ている私を見たはずなのに、母は怒らなかった。それどころか、「そうそう、その調子」と褒めてくれた気さえしました。

そのときの私の安堵と承認された喜びは、悲しいことに、とても甘い感情で、私はその後安心して、机につっぷしたまま、泥のように朝まで眠りました。

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