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SORANOIROの限定ラーメンはこう作る!

SORANOIROでは毎月、各店で限定ラーメンを提供しています。僕が自ら創作して試食したり、店長からあがってくるアイデアをチェックしたりしています。そこで、今回は「限定ラーメンを作る上でいちばん大切なこと」を考えてみましょう。

僕は、限定ラーメンで最も大切なのは「コンセプト」だと思っています。スープやトッピングに用いる食材など、ラーメンはいろいろな要素から構成されますが、それらがとっちらかっているようでは、いくらオリジナリティがあっても、限定ラーメンとしてお客様に出すことはできません。

季節、そして彩りを考えながら、さまざまなパーツに統一感を持たせるもの。それこそがコンセプトなのです。

スタッフに「味噌ラーメンを考えてみよう」と課題を出したときをケーススタディに、限定を完成させるまでのプロセスを紹介してみましょうか。

まず、「味噌ラーメンで何か限定を考えよう」というお題を出したところ、スタッフが提案してきたのは、味噌ベースのスープに小松菜、赤パプリカ、もやしを乗せた「野菜味噌ラーメン」でした。

「緑、赤、白の色味があって綺麗だと思って」と具材を選んだようですが、「この限定のコンセプトは?」とたずねたら、ハッキリとした答えは返ってこなかった。

ボツ! ということでダメ出ししたら、次に出てきたのが「豚汁ラーメン」。名前通り、見た目は豚汁っぽい。そこに小松菜、もやし、キャベツをトッピングしている……う~ん、「豚汁に麺を入れた」以上の何かがあるのかな? 食べるお客様に刺さるものが感じられなかった。

豚汁を再構築して、自分が考える豚汁ラーメンを表現、プレゼンできるなら、それはあり。だけど、一本筋の通ったコンセプトがないから、ラーメンにする意味が感じられない。だったら、普通に豚汁を食べたらいいんじゃない? という話になります。

よし、ということで僕が仕上げたのが「沖縄もとぶ牛の牛スジ味噌ラーメン」(2018年提供)。

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まず、冬の季節の食材として「味噌」を主軸にすえました。次に選定したのがテーマ食材です。それが「沖縄もとぶ牛」。僕がプロデュースをした沖縄の田仲そば店は系列でステーキ店を運営しているんですが、そこでは牛すじ肉が余ってしまうとのこと。「これ、何かに使えるかな?」と提案されたので、この珍しいブランド牛をテーマ食材にしました。

「沖縄もとぶ牛」をメニュー名の筆頭に掲げることで、東京のお客様は「何これ?」「聞いたことない!」と興味を持ってくださるでしょう。ただの味噌ラーメンじゃない、という点で引きができます。

沖縄の牛を合わせたので、麺は沖縄そば風の麺を採用。そして、考えたのは調理法です。今回は牛すじ肉なので煮込んでみることにしました。そうなったら、必然的に牛煮込みと相性が良い厚揚げ、コンニャクという具材も固まりますよね。

「野菜をたっぷりトッピングしてみよう」「豚汁をラーメンにしよう」というのはジャストアイデア、思いつきにすぎません。それを限定ラーメンとして仕上げていくためには、根っこにしっかりとしたコンセプト、考えがなければならない、と僕は思うのです。


食べないやつは信用できない
食材探しも常に真剣勝負


ケーススタディでは「沖縄もとぶ牛」がテーマ食材になりましたが、フックになるキーワード、トレンドの食材をラーメンに掛け合わせるというのも一つの選択肢です。

たとえば、「女性に向けた限定ラーメンを作りたい」のであれば、チーズ、豆乳、エビ、アボカドなどなど……ターゲットに合った食材があがってくるでしょう。

だけど、そこで食材が次々に出てこなきゃダメ。アンテナを常に張り巡らせて、「今、女性がいちばん食べたい食材は何だろう?」「今の東京の人は何が食べたいんだろう」と、コンビニに行っても、街を歩いていても、考え、感じるようにしなければいけないでしょう。

自分が知っている食材を詰め込んだだけでトレンドとは何の関係もなく、旬でもない。それでは刺さる限定ラーメンは作れません。

たとえば表参道から外苑前、裏道を抜けてみるだけでも、女性客が絶えないカフェ、流行っているベーカリー、スープ屋、蜂蜜屋など、気になる店はいくらでも見つかります。流行の発信地に足を運び、時代の空気を感じることは誰にでもできることです。

僕の師匠である一風堂創業者・河原成美は「食べないやつは信用できない。食べないやつはラーメンを作れない」と言いました。師事していた11年間は和食、フレンチ、イタリアン……その言葉を守り、僕はひたすら食べ続けていました。その経験値がラーメン作りの礎になっています。

昨今は「限定」も乱発されがちですから、どことなく簡単にできそうな、キャリアのないスタッフでもアイデアが出せそうな気がするかもしれません。

だけど、そこで問われるのは自分のセンスや技量だけじゃない。どれだけのレストランで食べてきたのか? どれだけ本を読んできたのか? どれだけの食材を知っているのか? そして料理して使ったことがあるのか?

料理人としてのこれまでが問われる、ということです。一朝一夕にできるものじゃない。多くの職人がしのぎを削り、工夫しながら一杯のラーメンを創り出している。そこに挑むには、それなりの気概、そして経験が求められると僕は思います。

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