タレとスープのバランス考察
絶妙なバランスがラーメンの命。
だけど…アンバランスもまた、ラーメン
「スープ素材の中でブレにくいのがタレ」というのが僕の持論ですが、タレだけを突き詰めていったら、それはそれでブレてしまう。これがラーメンの面白く、そして難しいところです。
スープは静かに寝かせているだけでも変化していきます。火にかけていると濃度がグングン変わっていき、そのままの状態では煮詰まってしまうこともあるでしょう。豚骨を大量に使って仕込むラーメン店では、ブリックスを調整するために寝かせたスープに若いスープを足すなど、繊細な調整を行っています。『田中商店』『誠屋』などはそうやって作っていますね。豚骨ラーメンに限ったことではないですが、細やかな技術がなければ仕上がりのスープの状態を一定に保つことはできません。
僕のラーメンで言うなら、それはタレとスープのバランスになります。変化の速いスープに対して、タレの量が同じでいいはずはない。日々、スープの状態によってタレの量を変えるといった工夫を重ねています。
スープが薄くてダシが効いていなかったら、例えば追いガラをしたり、追い節をしたりして、スープを強化する。あるいは、タレに手を加えたり、香味油の量を増やしたり。タレ・スープ・油それぞれにチューニングして、トータルバランスを考えていきます。レシピ通りに作って、タレ●●cc+スープ●●●ccといった単純な足し算でできるものじゃないんです。
上記のような微妙な調整を行って、一定の範囲の中で、点数で言うなら75~95点の間でおさめていくのがラーメン職人だと思います。行列を作り続け、お客様に長く支持されるお店は、どこもそんな努力を重ねているものだと思います。
タレ・スープ・油。
この3つの要素がお互いに作用し合ってラーメンはできている、と前のエントリーで書きました。ラーメン作りはそれだけ複雑です。だからこそ、いつも同じようにラーメンを作れるお店なんてない。そう僕は思います。タレや香味油の量からスープの温度に至るまで、寸分たがわぬような一杯を作り出すことはできません。だから食べ手の人にも、そんな一回性の魅力を味わってほしい。ぶっちゃけて言えば、ブレすら楽しんでもらえたらな、ということです(笑)。
僕はここ最近、ラーメン二郎にハマって2か月で15杯ほど集中して食べ歩いたんですが、あの驚異の盛りを平らげながら、「ラーメンの楽しさって、もしかしたらブレなのかもな」と思ったんですよ。
というのも、麺の状態一つとっても、太さ、厚み、固さ、ちぢれかストレートか全然違う。スープでも乳化、非乳化、微乳化と店によってビックリするほど幅があります。同じ店でも、日によって麺の柔らかさが違ったりする。これはある意味でブレまくりですよ。だけど、僕は食べ手として、そんなブレすら好ましく思えているんです。
いつも同じものを作ることはできないのが作り手ですが、食べ手も同じように、いつも同じように味わうことはできません。味覚は体調によって大きく左右されますし、その時の気分、天候、状況によってもまったく異なってくるでしょう。たとえば、行列に並んで味わった一杯と、空いている時にふらっと立ち寄って食べた一杯では、味わい方が変わるのは当然じゃないでしょうか。
ラーメンは一期一会のもの。だからこそ一回で印象、評価を決めてしまうのは残念だと思います。「自分の評価では70点だからもう来ない」というのではなく、「次に行ったら合格点をあげられるかも。美味しく食べられるかも」と受け取ったほうが、心豊かに食べ歩きができるような気がしませんか?
ラーメン好きなら、5回、10回と通っていく中で店主とのやり取りが生まれたり、お店の空気感を味わったり。そんな楽しみ方ができるようになるのはお分かりだと思います。
明らかに傷んだり、当たっちゃったりしているスープは別、問題外ですよ。だけど、ある程度のブレは受けとめ、楽しめる。そんな余裕があったら、もっともっとラーメンライフがエンジョイできるんじゃないかな。僕はそう思っていますね。
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