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そしてラストデイ 退職エントリ⑤

夫の実家自営での勤務を辞めた記録です。

三月三十一日。ついにこの場所での最終日を迎えた。

いろんな思いをした。

そのほとんどは、悔しい思いだったかもしれない。今振り返ってみると、率直にまずそう思ってしまう。

始めてこの事務所に足を踏み入れたとき、その場の乱雑さ、片付いていなさに衝撃を受けたことを覚えている。広くも狭くもない平屋建て、すぐ裏には舅姑の住む家。自宅と会社の区別のついていないというか、自宅で舅が使用している髭剃りが中央のテーブルに置いてあったり、物を捨てられない姑が数十年分のお天気記録表とカレンダーを自分の席の後ろに積み上げていたり。給湯室の流しでは再利用するつもりのプラ容器が満タンに入ったビニール袋がいくつも並んでいたり。

ここを使って、と支給された事務机は机上も引き出しも荷物でいっぱい。

それでも、なんとか片付けて自分のエリアを作りその部分の清潔を保ってなんとかここで過ごしてきた。
引き出しに入れておいたノートがなくなっていたり、明らかに誰かが座って落花生を食べたあとのゴミがあったり、舅が自宅で飼っている猫の足跡と毛が机上にいっぱいあったり、おかしなことはしょっちゅうあったけど。

最後まで、この場所を好きになることはなかった。残念だけどこれが本心だ。

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午後イチでパワハラ舅が事務所にいて、気に入りのソファにどっかと腰を下ろし、そのあとすぐに姑も来た。

三人で過ごす時間が何よりも嫌だった。他人の悪口、自分の過去の栄光。何度も聞いたつまらない話を延々と。姑の的外れで素っ頓狂な声の相槌も、全部大嫌いだった。

好きにならなきゃ、と無理をし続けてきた。この人たちが辞めるまでの辛抱だと。でもきっと、この人たちは辞めない。それがよくわかった。わかるような出来事が、数えきれないくらいあった。

それなら自分が去る。パワハラを受けてまでこんな場所に自分を縛り付ける必要はない。

こんな時間も今日かぎり、これで最後だと、呼吸困難になりながら耐えていると舅姑はそろって外出していった。

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残り一時間。彼等の帰りはまだ。ひとりで事務所のフロア掃除をして、ここにはもう二度と来ないことを誓った。夫ともう一人の男性社員は出かけていて不在。残りの時間で何が起こるかな。

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残り四十五分。誰も帰ってこない。もう一度フロアの掃除をした。舅姑がこのまま帰ってこない方がいいのか来た方がいいのか自分でもよくわからないけれど、どっちにしても最後まで気分の悪い人たちだなと思う。

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残り十二分。まだ誰も帰ってこない。せめて夫と男性社員だけでも帰ってきたらいいのに、とは思うけど。

自分のデスク周りを片付けて、さようならの準備。

今までありがとう、さようなら。

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帰宅後の追記
外に出ると、ちょうど帰ってきた舅に出くわす。いろいろありがとうございました。これで失礼します、とあいさつすると。ああ、とかうん、とか。経営者ならさ、今までお疲れ様ぐらい言えないもんかね。この人には無理か。これですっきり。ちっちゃいな、と感想をポツリと口に出し自転車に乗っていつもの道を走り、最後の景色を眺めた。



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