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刑事ヴァランダー

Wallander(イギリス/2008~2015)

舞台はスウェーデン。スウェーデン人をイギリス人が演じ、語る言葉は英語。
表記される文字や名前はスウェーデン語。

北欧の高い湿度と仄暗さに、イギリスの重々しい空気が融合した不思議な刑事ドラマです。

被害者の身に起こったことを我がことのように感じ、いつも憂鬱な目をしているヴァランダー。
ときに加害者の青年に好意と親近感を抱いてしまい、被害者の犯した罪に憤り、事件を解決した自分自身に「もうこんなことは無理だ」と涙しながら、「自分はなぜこの仕事をしているのか」と自問自答して、いつもくたびれ果てている、そんな、イギリスドラマには珍しいタイプの刑事です。

パーソナルスペースの広さに定評のあるスウェーデンの特色が随所に見られて、イギリスドラマにありがちな刑事仲間とパブで飲む、という場面はありません。葬儀の後ですら、仲間達は個人的な理由から、三々五々、去っていきます。
当然、仲間意識は淡く、それぞれ個人行動が多いです。

それならば、ヴァランダーが突出したヒーローか、というと、そうでもありません。
すぐに捜査に行き詰まり、不摂生から糖尿を患い、捜査に集中し過ぎて着替えや入浴もおろそかになってしまい、「くさい」と娘に指摘され、火災現場から子供を救出した、と思ったら人形だった、容疑者尾行中に転んで大きな音を立て、逃走犯を追いかけながら息切れし、――と、何だかとっても頼りないのです。
「主任警部アラン・バンクス」と同世代かと思うのですが、アランのダンディさや華は、ヴァランダーには一切ありません。

刑事物の王道を見事にそれた、こんな刑事。見たことがありません。

ええっ?そんなドラマ、おもしろいの?

というと。ええ、なかなかおもしろい――というか、淡々と、やがて、じわじわとしみてくる作品なのです。

被害者を悼み、胸を痛め、その苦しさに眠れぬ夜を数え。
主人を失った白馬の美しさに見とれ、その死にまた、深いダメージを受け――。
事件を解決しながらも、蓄積していく、犯罪現場から受ける傷。父親の病気に重く沈んでいく心。
どこまでも荒涼とした風景。
ヴァランダーはいつも、憂いに満ちています。

そういう一切が、身近に迫ってきて、とても生々しいのです。

犯罪被害者の遺体を前に、感情を乱すことなく、クールにかっこよく職務を遂行していく刑事。犯人を射殺して、事件解決だ、と祝杯をあげる刑事。そんな、ヴァランダーとは正反対の刑事がドラマにはよく登場しますが、実際にそんな刑事がいたら、ちょっと肌寒いものを感じると思います。

好みのはっきり分かれる作品でしょう。

静かな夜に、じっくりと考えながら鑑賞する。
そんな時間が欲しいときに、オススメのドラマです。

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