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ハウスパーティーと、ネットで脳が退化することについて

わたしが今住んでいる家は、converted flatという。もともとは一家庭が住んでいた家を、フラット(アパート)に改造したもの。下の友人夫妻はもう25年ほどここに住んでいて、年に1度か2度家の住人たち(全員ではないが)を集めて、ディナーパーティーをする。

リーナのラム・ミートボール。リーナはユダヤ系ロシア人で、料理は東欧とアジアの中間的なのが好きらしい。彼女はほかにも、チキンのオーブン焼きと、ミックスグレインのサラダをつくってきてくれた。ダンナのカズは、ソレルとかワイルドガーリック(ガーリックの葉)とかいろいろ珍しいリーフをマーケットなどに行って買ってきて、ドレッシングも自分でつくり、毎日2時間かかってサラダを準備する(その間肉を焼いたりするけれど、サラダにいちばん時間がかかるとか)。今日も得意のサラダを、持ってきてくれた。

わたしはサーモンとオリーヴのパイ。ローストした松の実とレモンの皮でフレーバーをつけて、溶かしバターとカイエンヌペッパーで味つけしたもの。

こちらはマット(写真真ん中)のガールフレンドのモニカ(写真左)がつくった、ボルシチみたいなスープ。東欧系のレシピらしい。写真では入っていなけれど、クレームフレーシュcrème fraîcheという、サワークリームみたいなものを入れて、食べる。

ポーランド人のモニカは、ブレグジットにとてもおびえている。ジュリアンは結婚すれば、と言ったが、かれらはその気はないらしい。モニカは歌手で、ミュージシャンのマットと一緒に、ユニットを組んでいる。マットはコンピューターで音楽を作るので、ミュージシャンは自分だけ。

ボニーのティラミスも、絶品。イタリア人のボニーはアーティストで、シェフでもあった。もう88歳というのだが(写真右)、まったくそんなふうにはみえない。配偶者のジュリアンは、ロンドンにミュージカルのシカゴがきたとき、その主役をやったという俳優。このふたりはうまく資産をまわしていて、イギリスのシーサイドと、マドリードと、たぶんほかにも、家があって、しょっちゅう家を移動している。

シーサイドの家には野生のキツネが入ってきて、いろいろなものを盗んだり、食べ物を食べたりするらしい。動画を見せてもらったけれど、犬みたいでとてもかわいい。平然とテーブルの上に乗ってくる。盗むといっても、口にくわえて庭へ持っていき、穴の中に置く。さすが野生動物。

ジュリアンは時間があれば、インターネットで動画を見ているという。勉強にトラウマがあるのか、もう頭にチップを埋め込んだらこの知識が入る、というような世界になるのではないか、などと言う。ネット依存で本を読まない人が増えるのは、人類の将来(現在)としては危機だとわたしは思うのだが。レーナはwhispering ladyとかいう、ささやき声で話す、催眠術みたいな動画を、みんなに見せる。

マットはまったく逆で、スマホのアプリの、本当に必要なもの以外を全部削除したら、自分の頭で考えるようになった、と主張。モニカは、このネット社会で人類の頭は小さくなるわね、と言っていた。ネットワークが働かなくなるということだが、まあ比喩として。

ジュリアンが帰ったら、急にみんなで本の話をしはじめたので、わたしの危機感はとりあえず回収された。カズは10歳のとき初めて本を1冊読んで、それがドストエフスキーの『罪と罰』だったというから、びっくり。レーナは、トルストイやドストエフスキーがいかに奥さんを虐げていたか、そしてかれらの小説に出てくる女性がいかにみじめかということについて、熱っぽく語っていた。アンナカレーニナはどういう女性だったのか(バカ女だったのか?など)というネット討論の場があって、入って議論していたとか。まあこれも、ネットですけど。

かなりアート度の高いメンツだと思うのだけれど、それでも動画を結構見るらしく、話を聞きながら、ショック感はあった。わたしは動画はリサーチ的に見るのが多く、ダラダラなんでも見るということは、あまりない(するときもある)。たしかにYou Tubeやネット配信の映画を見ていると、頼んでいないのにすぐに次のが始まって(そしてその広告が)、いつも本当にうるさい。マクドナルドで「ポテトはいかがですか?」といわれて頼んでしまうのとおなじように、生活がコントロールされていく。それを受動的に見つづけていたら、時間をどんどん消費させられていく。

現在進行形でどんどんすすんでいることではあるが、そうして人類の脳が退化していく一方なのだとすると、それはやはりかなしい。

#インターネット #スマホ #ディナー #ハウスパーティー #読書 #田中ちはる

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