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キューブリック展@デザイン・ミュージアム 詳細レポその2

キューブリックは、映画のためのストーリーをどこで見つけてくるのか?と聞かれて、「たいていの話を見つけるようにさ」と答えている。それはどういうことかとさらに聞かれると、「単なる運だよ(Sheer chance.)」。創造の友はセレンディピティというわけ。

たとえば『時計じかけのオレンジ』は、ジョン・バージェスの小説が原作だが、これはキューブリックの奥さんがバージェスファンだったので、いやいや読まされたものだった。

セレンディピティによってアイディアを得たら、テーマについて研究し尽くし、夜中に電話をかけまくり、徹底した調査をすることはいうまでもない。そしてかれが見込んだ一流デザイナーに、デザインを発注。徹底的に注文をつけ続け、修正をさせ続ける。

かれは自分の映画を全て自分でコントロールできた、類まれな映画監督のひとりである。『2001年宇宙の旅』という伝説的な作品を生み出したキューブリックには、さすがのスタジオも、文句をつけることができなかったのだ。

『博士の異常な愛情』で、狂った将校が核兵器を落とそうとするのを食い止めようと、合議しているアメリカ政府のセットは、あまりにもリアルだったので、スパイを送ったのではないかという疑いを、かけられるくらいだった。当事者に電話をかけまくって、聞き出したのだろう。

編集も全部自分で見て、全部自分で決める。編集作業を進めている間、かれが部屋にいないことは1秒たりともなかった。用を足しに出るときは、作業を止めさせたということだろう。その編集機。

そしてカチンコ。


展示は映画の年代順ではなく、テーマ別にならべられている。

時計じかけのデザイン。


シャイニングのセット模型。

アイズ・ワイズ・シャットの仮面。

そしてなんといってもというか、結局はやはりというか、『2001年宇宙の旅』の撮影に使われたデザインや大道具が、ラストに置かれている。

ひとつめのは、人類のあけぼののデザインの絵。

最後はキューブリックの言葉で。

監督はアイディアとセンスのマシンのようなもの。映画とはひとつづきの創造的および技術的な決断。そしてできる限り頻繁に、正しい決断を下すことが、監督の仕事である。

キューブリックが生涯に撮った映画は、13本。そのうちかれの名前を不滅なものとする円熟時代以降の作品を、かりに『博士の異常な愛情』以降とすれば、7本。そのすべてが、他の誰にも真似のできない、圧倒的なデザインの完成度を、誇っている。

どの展示からも、そういうかれの細部に至るまでこだわり抜いた仕事ぶりのオーラが、感じられる。没後20周年に、母国といえるイギリスで行われているこの展覧会では、具体的なたくさんのモノたちが、キューブリックの人となりを雄弁に伝え、次代の仕事人たちに、ハッパをかけている。

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