表現者の体
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表現者の体

音楽家というのは、実は体力と運動神経が必要不可欠な職業です。

「感受性」「表現力」無論これらは最も大事ですが、それを音として実体化するのは全てこの体。

私はソロからオーケストラまで全て弾くので、その日自分の役割によって大きく変わりますが、今回は主にソロや、室内楽を演奏する時の話。

ほとんどの場合私は、本番スポットライトの下で舞台に登場する時、既に疲れ切っています。ドレスリハーサルで一通り弾いているからというのもありますが、体力温存の為に本気では弾きません。そもそもエネルギーを使っているのは、体を動かすことだけではないからです。その時の心理状態と、脳の活動具合が、エネルギー消費に大きく関わります。

心理状態:緊張している

緊張している、というと「ガクブル」な状態と思われるかも知れませんが、それとは実は全然違います。人前で表現するという時、適度な緊張は必ず必要で、その緊張感が私たち演奏家を最高の集中と、時に「ゾーン」に導いてくれます。その「集中」に使われるエネルギーもまた半端ない。

脳みその活動具合:フル(時にモーターが故障しそうになるほどに)

私時々思うんです。ヴァイオリニストのくせに、人の演奏見ながら、時に自分の演奏見ながら「どうやってこんなに速く指動かしてるの?」て。ものすごく客観視してしまうことがあります。当然、幼少期の頃から訓練積んでますから、それはやっぱり「動くもの」なんですが。(ハイフェッツみたいな人はまた別の次元の人だと考えてください。)

ふと、この疑問が、コンサートで演奏している時に私の脳内を駆け巡ることがあります。

「次のパッセージ、私弾けるの?」

いつもではありません。でも、調子が100%でない時、「ゾーン」に入れていない時、もう一人の私が脳内で囁く時があります。

その時、脳みそモーターが火花を散らしてフル回転します。普段は疑問無く動くその指に、ライブで演奏しているまさにその瞬間、一音一音を作り出しているその指に、脳みそは指令を出し続けます。「はい人差し指、はい中指!!」

これを確実に成功させるために、私が絶対的に気を付けていることがあります。

本番前に物を食べない。

演奏する時にこれだけ沢山のエネルギーを費やすわけですから、沢山食べとかなきゃ!と思われるかも知れませんが、この究極の状態の時、120%演奏だけに使われていなくてはいけない私のエネルギー社員達が、物を食べてしまっている状態だと、

60%くらい、胃の中の食べ物の消火活動に派遣されてしまっているのがわかるんです。半分になってしまっているエネルギー社員達だけでは、これが笑えないくらい間に合わない。

なので私は1時間前までに、一本のバナナを食べ終わるようにします。(もしくはおにぎり一個)それ以外は、お茶か水しか口にしません。


ただ、これも音楽家全員ではありません。

同級生のチェリスト、G君は、本番前に爆食いします。トリオで共演した時にこう言ってました。

「沢山食べて、頭がぼーっとした状態の方が弾けるんだよねー!」

・・・・やっぱり彼は天然でしょうか。あまり参考になりませんでした。


そんな中先日、無謀な挑戦をしたことがありました。

1日に2回公演のリサイタル。しかも、1部、2部、曲目は全て違うもの。

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後半、経験したことのない境地に至っておりました。多分私の意識は4、5回くらい宇宙に行っていたと思います。

当然、1部の前にリハーサル、2部の前には2部のリハーサルをしております。コンサートはいつだって、✖️2 なんです。

余っていない力を振り絞るといのは、大変です。だって絞っても出てきませんから。

じゃあどうやって弾いたんだろう?分かりません、動いていた体に自分でもびっくりです。

終演後はこんな状態。

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表現しきれていませんが、「もう無理」のポージングです。


演奏は、計画的に。


そもそもどうして、こんなチャレンジなコンサートをしたかというと、私滝千春と、今回のパートナー斉藤龍は、「ベートーヴェンウィーク」と題して、ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲配信を行います。

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https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2067529

12月16日はベートーヴェンの誕生日とされています。その日を含んだおめでたい1週間です!


4年間にわたり、ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲プロジェクトを行なっていた私たちは、この記念すべきベートーヴェン250周年記念の年に、一気に全曲配信する事になりました。


コンサートはやっぱり生がいいです。こんな宣伝をしておいてなんですが。お客さんがいてからこそ演奏側が入れる「ゾーン」があります。時差無くお客さんとシェアできるその空気に私たちはいつも萌えているんです。

でも、配信だからこそ、そのカメラワークでしか見えない表情、目線、息遣い、そんなものもきっと存在すると信じています。

また今回は、私たちのトークも収録しております。曲に対しての個人的な意見、様々なエピソード等交えた二人のやり取りも見どころです。

「収録」は「コンサート」とはまた違う脳を使っているということを、今回痛感致しました。そんなところもまた、見どころでしょうか?果たして映像を通してそれは見えるものでしょうか?


ご期待ください!


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ヴァイオリニスト。ソロ、室内楽奏者として国内外で活動中。 2019年からミュンヘン放送管弦楽団のコンサートミストレスとして短期就任。