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父の夏と秋刀魚。

今日、夕飯で秋刀魚を食べた。


息子と夫が
「じぃじにも食べさせてあげよう」
そう言うから
写真をソファに持ってきて
その前に秋刀魚を置いた。


悲しかった。

父に秋を知らせたくなかった。


夏の暑い日に亡くなった父。


季節が移るにつれて
父が遠くに行ってしまう。

そんな気がした。


雨が降るたびに冷たくなっていく空気と
長くなっていく袖。


それに逆らうように
半袖を着ていた私は
今日、咳がとまらなくなった。


『もう、秋になるんだよ』


風も太陽も雲も
秋刀魚もエアコンも
プールも洋服も。


もうやめてよ。
秋を知らせないで。


お父さんを遠くに連れて行かないで。


そう思うのに、
咳が止まらない。


ああ、もう、夏が終わるんだね……


昨日は、息子の9歳の誕生日だった。


9月1日。


9年前も、ちょうど
暑さと涼しさの入れ替わりだった。


『かんた、誕生日おめでとう。
いと。もう秋だな。

前に。
前に進んでいくんだぞ。』


父の声が聞こえる。


分かったよ
お父さん。

前に進んでいくから、
見ていてよ。


お父さんの夏にしがみついていたいけれど、
秋に進むときがきたね。


ね、お父さん。

サポートありがとうございます。東京でライティング講座に参加したいです。きっと才能あふれた都会のオシャレさんがたくさんいて気後れしてしまいそうですが、おばさん頑張ります。