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求職中の発達障害当事者だが、転職活動に真面目に取り組むほど会社勤めが合わない気がする。

これは、職を探せば探すほど、会社勤めに向かない自分を発見する、とある障害者の話だ。
とはいえ自分のことは自分ほどわからないと言うから、これを読んだあなたのコメントをたいそうお待ちしている。

手書き履歴書を書けないので、合わない気がする

障害者には就労支援という制度があり、ここで就職や職場、ソーシャルスキルやストレス対策などについて学ぶ。
その中に、「よほどの書字障害がない限りこうでなくてはならない」と徹底されることがある。

履歴書は手書きでなければならない。

……馬鹿なの?
と私としては心から思ってしまうのだが、支援側は真剣だ。
読みやすい字で、ていねいに、まっすぐ書けない人は定規で線を引いて、鉛筆で下書きしてからペン入れして消しゴムをかけて綺麗にして、汚したり間違えたりしたら最初からやり直して、履歴書と封筒の宛名を手で書かなくてはならない、と。

唯一PCでの制作を許されたのは、脳の障害で字がほとんど書けない人だけ。
私は読める字を書く行為が「できなくもない」ので、練習も合わせて10枚くらい手書きで履歴書を書いた。
5社応募して4社落ちた。

ナンセンスだわあ、と全力で思ってしまうので、会社勤めに合わない気がしてならない。

毎日同じ時間に同じ場所に通うことが苦痛なので、合わない気がする

これは学校時代からある。
義務教育のときは、親が送り出すように流れをすべて組み立てていたので、逆らいようがなかった。
不登校という概念も、まだ一般的とは言えなかった。

変わったのは高校からで、悪化したのは大学のときだ。
親の目を離れ自由を得たことで、押さえていた苦痛が爆発した。
もともと自律神経から体調を崩しやすかったので、思いたったらすぐ休む、という行為もサボりと思われにくかった。
成績も良かったしね。

さて、そんな行為も会社ではさすがに許されにくい、とはわかってくる。
私はどうにか通おうとした結果、ある日突然体調が狂って起きられない、という症状に見舞われ、病休で有給を使いつぶしたあげくに欠勤で給与が減る、なんて生活を10年くり返した。
おかげで確定申告に手慣れてしまったが、病因は今でもわかってない。

最初の1年は通えるのだ。
2年目以降が苦痛で苦痛でたまらない。
バーチカルの手帳を開いて、平日9時から6時まで仕事、なんて書いていくのがもう、幅広の布でぐるぐる巻きにされていくみたいで嫌だった。
どれほどがんばっても昇給しないことが決まっているのも、拍車をかけた。

これはおそらく、私の障害特性である「こだわり」のひとつなのだと思う。
この「こだわり」というやつは大変に理不尽で、どうしてそうなのかわからないうえに、2歳児より理屈が通じない。
嫌だと言ったら嫌なのだし、耐えられないと思ったら耐えられないのだ。
自分が障害者だと実感するひとつである。

しかし、かといって、じゃあ転勤族ならいいのか、というとそれも困るのだ。
なにせ私は家事ができない。
家庭科の成績は5だったが、家事はできない。
ひとりで暮らすと、家事だけで1日が終わるのだ。それも買い物と夕飯と洗濯だけで。

もともと、寝食や清潔の優先順位が下落しつづける「こだわり」があるので、気がつくとシャワーも浴びぬまま空腹と寝不足で倒れていたり、徹夜で動こうとして朝9時に寝落ちたりする。
さらに自律神経が弱いため、徒歩5分の会社に行って帰るだけで、冷蔵庫も空けられない状態にすらなることがある。
親に家事をすべて押しつけて、勤務と食事以外の時間は全部寝ることと瞑想に当てて、ようやく週5日通えるのである。

そんなわけで、同じ時間に同じ場所へ通いつづけることが、体調と精神状態を悪化させるほど苦痛なので、会社勤めに合わない気がしてならない。

ご飯はひとりで食べたいので、合わない気がする

会社のデスクでご飯を食べるのが苦手だ。
高い仕切りがあればまだ平気なのだが、島全体が見えていて、複数が喋りながら食べる、その空間が苦手である。
勤務中から続く人の熱に、気配に、吐き気がするほど酔いそうになる。

これで何が困るかというと、社内政治である。
私的なことに関する情報、誰が何日に有給を取っているか、異動や昇進の噂話、仕事上で誰が危険なのか──
なんてことの情報が、まったく入ってこなくなるし、こっちの情報も渡らないのだ。

おかげで困ったことが、私は3回ある。
ある同僚の休みを私以外知っていて、伝えたものだと思い込まれたこと。
仲のいい同僚の婚約をひとりだけ知らなかったこと。
退職のときにもらったものが、全然好みでなかったこと。

割としんどい。

ようはコミュニケーションが上手く回らなかったのだが、当時その仲介をするべき担当者は、私とそりが合わなかった。その上の上司はどんどこ異動したので、チェンジすらできなかった。
最後の半年くらいなんて、なかば敵視されてたもんな……

そんなわけで、社内政治に興味を持てないし、昼食はデスクから離れてひとりで食べたいので、会社勤めに合わない気がしてならない。

大勢いる事務所が疲れるので、合わない気がする

前述したが、私は人に酔いやすい。
正確には、人の大勢いる屋内が、気配と音と熱がこもって苦手だ。
ビッグサイトくらい天井が高ければ平気なので、コミケなどはよほどぎゅう詰めでない限り、全然気にならないのだけれど。

そこで困るのが、事務処理を集積しようとする流れと、電話応対の問題だ。

障害者の雇用が義務づけられるような大手企業は、事務処理だけを固めた部署を作ったり、事務所を設置したりする。
そういう職場の人数は、3桁を超えることが多いのだ。
詳細は口にしないが、2度もやると懲りた。ひと部屋に5人以下が望ましい。もしくは高いついたて。

しかしそうすると、今度は電話応対が必須の色を帯びてくる。
実は私、電話からの声を聞き取りづらいのと、聞きながらメモをとるのが「やれなくはないけど」難しい、という障害特性も持っている。
……めんどくさいだろ、私が一番そう思ってるよ。

障害者雇用のデスクワークといったら、9割9分事務職だ。
そして事務職といったら電話応対で、会社によっては必須と言い切るところもある。
たいていは相談次第と言うのだが、職場の人数が少ないほど、電話応対を求められる傾向は、どうしてもある。

しかしこの「やれなくはない」が曲者だ。
6割やれば及第点のところを、5割7分しか出せないので、ちょっと頑張って残りの3分を埋めないとならない。
たとえるなら、毎日フロアを移動するたびに、つま先だけで歩く感じだ。

できなくはない。
しんどいけど。
電話嫌になりすぎて親の電話全無視して怒られたけど。メールして。

そんなわけで、人が多いと政治とストレスで胃腸壊すし、人が少ないと電話応対で足切りの可能性が高まるので、会社勤めに合わない気がしてならない。

生産性のない繰り返しが苦痛でたまらないので、合わない気がする

地方の障害者雇用にはちょっと牧歌的なところがあって、

いっつも笑顔でいてくれたらそれだけでいいよ!

という理由で就職が決まった障害者がいたりする。
まあ、大半は働ける人を求めているし、なんなら正社員レベルの健康体を求めるところも多いけれど。

そう、健康さ。
毎月フルタイムで働いて、急に休んだりすることもなく、有給を使い込むこともなく、日々安定して稼働する脳と肉体。
手書きの履歴書と同じく、会社は当たり前にそれを望む。
障害者雇用において身体障害者が比較的人気なのは、頭にはほぼ問題がないからだと私は思っている。
逆に精神は信用が薄い。試用期間が他の倍あるくらいには。

閑話休題。
まあそんな様子なので、事務職=ほぼアナログだ。
紙の使用量を減らしましょう、と言いながら、判子のためだけに印刷する世界。複数ページのPDFを1ページずつにするために、プリントアウトして再スキャンする世界。
先方の都合で仕方がないとはいえ、伝説のExcel方眼紙作りを見たときには、正直顔が引きつった。これでも効率化の一環なんだぜ。

私はPCを触るのが好きだし、仕事でプログラミングをしたこともある。
英語もちょっと旅行に行くくらいなら何とかなってたし、それで海外に出張に行ったこともある。
MOSのマスターも持っていて、差し込み印刷はもちろん、関数もピボットテーブルも(復習は必要だけど)使うことはできる。

Accessのクエリも自分で組んでいたし、ルーチン作業を限界まで効率化して、最大3時間縮めたこともある。
VBAもかじらされたことがあるし、バッチファイルも簡単なものならよく作っていたから、復習すれば多分できる。
サーバーを借りるところから始めて、Wordpressでブログも運用していた。謎のトラブルで更新止めちゃってるけど。

でも、それらはすべて、職務経歴書に書くなと言われた。
事務職をやるには関係ないから。
当時の私は、事務職そのものは未経験だったから。

下手に有能さをアピールすると、一般の社員と変わらない働きを望まれて。
障害への配慮を、私の不安定さを、受け入れにくくなることがあるから。

その結果が、社員の障害名すら把握していない、社内政治と非生産的な作業づくしの職場環境だったわけだけれど。
……いや、改善はしようとしてたよ。私も今思うと悪かったことあるよ。
でも、無理でした、いろいろ。

そんなわけで、半端にエンジニア知識があるうえに責任を持たせにくい体で、従事することも意見をすることも体を壊すほど難しいから、会社に合わない気がしてならない。

障害への配慮がないと働けないので、合わない気がする

障害者雇用は、月給13~14万くらいがちょうどいい、と言われたことがある。ちなみにフルタイムでの支給額だ。
当時私が未経験だったのもあると思うが、これより金額が高いところは、一般の正社員並みの働きを求められる=残業や無理をすることも望まれる、と言う。人気も高いがひどく狭い門でもある。

また、支給額が最低賃金という会社も多く、生活させる気ないんだな? とどうしても思ってしまう。
厚生年金を払っている障害者は、障害年金の申請がまず通らないというから、なおさらである。……症例や地域にもよるようだが。

医療費がかかるのもあり、フルタイムで働いても貯金はゼロ。
いっそ障害を隠して一般枠で求職してはどうか、と友人などには言われるのだが、支援者には止められている。
これまで書いてきた通り、私の障害は、日常と折り合うのが難しいところから来ているからだ。

「飴乃さんは仕事だけなら、どこでも何にも心配ない」
「知能は平均より高いし、働く能力は十分以上にある」
「ただ、感覚過敏と、ストレスで体調すぐ崩しちゃうのがね……」
「面接程度では障害者に見えないから、余計に配慮が伝わりにくいしね……」

というのが、うちの支援者のおおまかな総意である。

端的に言うと、地方には受け皿がまだないのだ。
私のような「こだわり」の強い、刺激に弱くて日常が自力で送れない、学歴だけは高いが突出したスキルもマネジメント経験もない、半端もののアラフォーの受け皿が。

会社が望むのはあくまで、日々安定してフルタイム稼働し、昇給しなくても正社員になれなくても会社のために成長していく、低賃金で雇える社員なのだ。
私だって経営者ならそういう社員が欲しい。防御が紙な低レアは手がかかるし運用が面倒だ。わかるとも。わかられるなよ。

あと私がぼろくそ言った会社だって、福利厚生は支援員が褒めるほどだった。賞与があって有給が好きにとれて盆暮れに別に休みがある、こんな条件はなかなかない、と。
……どんだけブラックなのよ地方の障害者雇用。

閑話休題。
別に私も配慮ばかり要求しているわけではない、というのは言っておきたい。

会社に通うためだけに、ご飯を食べ、入浴し、薬を1日約20錠飲み、親が流すテレビとTwitterの話題で憂さを晴らし、0時には眠るよう全身でブレーキをかけ、掃除を捨て、ゲームを捨て、洗濯物の片付けを捨て、創作を捨て、学びを捨て、読書を捨て、好きなものを買う自由を捨て、眉毛を整える時間を捨て、スキンケアと髪を乾かす時間を捨て──

最終的に、寝食以外全部捨てないと無理だ、と結論した。
洗顔や歯磨きすら余力がない。
食べて寝る、生存のための最低限の行為以外、全部。

時に夕食後に寝落ちし、時に眠れぬ夜は瞑想し、毎週末に20時間以上眠って、月曜にはもうストックがつきた。
仕事の負荷が上がるたびに、人生の一部を削り続け、ようやく週5日通うことができた。月2~3回くらいは。

仕事がきついなら勤務時間を減らせばいいじゃない、と思うだろう。
私も思った。けれどその時にはもう、勤務時間を減らしたら、生きてるだけで赤字確定だったのだ。
それほど医療費が上がっていた。大半が内科的症状だったので、自立支援も使えない。同じ理由で、傷病手当では赤字確定がわかっていたので、休職もできなかった。

結局辞めた後は、半年動けなかった。
役所も行ったし家事も手伝ったし原稿も書いたけれど、未来のために動く気には、全然なれなかったのだ。
ひたすら横倒しになったので、筋肉がずいぶん落ちた。

そんなわけで、細かい配慮を受け続け、かつ勤務のためだけに他すべての人生を捧げないとまともに通えないので、会社勤めに合わない気がしてならない。

それでも働かねばならないので

働ける人間は働かなくてはならない、とこの国は言う。
相対的貧困だろうと、条件にかからなければ生活保護はない(それ以前に親が嫌がるが)
フルタイムで働けていた人間に、障害年金はほぼ受給できない。
仮に受給できても、それだけでは生活費と医療費の片方しかまかなえない。

副業をするには体力がなく、起業するにはネタとスキルもなく、ライター記事を書こうとすると勝手に吐き気がして血の気が引く。その前に筆が遅い。
ここまで書いて、そろそろ7時間を越えるところだ。5500字程度なのに。

会社勤めに合わない理由をここまで書き綴ってきたが、結局のところ、今の私には会社に勤めるしか道がなかったりする。
働きながら人生を変えるには、物理的に時間が足りない。通勤時間、昼食後の15分すら、目を閉じるようにしないと正直きついのだ。
週5で会社に勤務するためだけの人生。
むなしくってたまらないが、これだって、私のわがままでしかないんだろう。

開始8.5時間、約5800文字。
あと3ヶ月で人生が変わると信じるには、私は自己啓発を読みすぎたよ。

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