高円寺「BONY」(閉店)
高円寺。音楽、ファッション、酒場、幾多のサブカルチャーが渦巻く街。
そして、私が生まれ育ち、青春時代を過ごした街。
18歳のときに弾き語り活動をスタートし、いつしか日本各地をツアーでまわり歩くようになった私が高円寺「BONY」の存在を認識したのは2019年6月のことであった。
地方へ出向くたびにその町の喫茶店に足を運び、ひとつひとつを心のアーカイブの中に加えてきた。なのに、灯台下暗し。おらが街にもこんなお店があったなんて...。
自分の故郷の喫茶店で過ごすと、嬉しさがこんなにも倍増される。メニューに染み込んだ年季よ。
壁に大きな世界地図、そしてコーヒー豆の敷き詰めれらたテーブルのある喫茶店にヨワい。インテリアのランプひとつとっても、そのどれもがヴィンテージの趣で、今までどれだけのお客さんを見送ってきたのだろうと思わされる。
それから約2年半が経った2020年11月。「BONY」がひっそりと閉店し、すでに内装の工事も始まっていることをSNSで知る。
時代も街も変わっていくもの。この世は無常。頭では分かっているはずだが、こういうときのやりきれなさや喪失感はいつになっても慣れない。それが自分の故郷とくれば尚更だ。
またいつかどこかで、「BONY」を初めて知った時のような感激に、そこで過ごした永遠とも思える穏やかな時間の流れに出逢えるだろうか?
写真撮影をお願いしたときのママさんの優しい笑顔、包みこむような暖かな灯りが今でもはっきりと思い出される。
さようなら、BONY。またいつか。
(2019年6月28日訪問)