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「見えているものだけがすべてではないのです」
と、今夜の大河ドラマで高畑充希さん演じる中宮定子さまがおっしゃっていました。
そのセリフで不意に思い出した風景がありました。
もうずいぶん前のことですが、とある検査でちょっと「?」という数字が出たため、念のため入院をしたときのことです。
数字の不安だけで、わたし自身はいたって元気。初めての入院を楽しんでいる感じさえありました(結果、なんでそんな数字が出たのか判明することなく退院できました。なんだったんだろう(笑))。
入院した部屋は4人部屋。最初の挨拶だけ軽くしたものの、その後はみんなカーテンを閉めてほとんど会話もなく、それぞれ個室のように過ごしていました。
ときどき、カーテン越しに他のベッドの見舞客との会話が聞こえてきます。
私のベッドは、部屋の入り口側で、隣の窓際のベッドには年配の女性。そこには、ご主人と思われる男性がちょくちょくお見舞いにいらしていました。
このご主人、ちょくちょくいらっしゃるのは良いのですが、いつもこのご婦人のことを叱っているのです。
詳しいことまでは聞き取れなかったのですが、普段から口うるさい旦那さんなんだろうなあという感じ。
他人事とはいえ、誰かが文句を言われたり叱られたりするのを聞かされるのは嫌な気分になるもので、「早く帰らないかなあ」といつも思っていたものです。
この穏やかな女性は、なんでこんな人と結婚したんだろう?とか私ならこんな人とは一緒に暮らすのは無理だな、とかかなり勝手なことを考えながらいつもそのご主人が早く帰らないかなあと思っていたものです。
何日かして、いつものようにご主人がお見舞いにいらした時に、女性が何かを告げました。すると、いつも怒り気味のご主人がおいおい泣き出したので私はびっくり。
ご主人は泣きながら「よかったなあ…よかったなあ…」と繰り返していました。
ああ、きっとご病気のことで、何か嬉しい結果が出たんだな。
それにしてもあのご主人が、こんなに子どもみたいに泣いちゃうなんて…
私の中では、穏やかな奥様に対して(しかも入院中だというのに)しょっちゅう怒っているご主人はいわば「最悪の存在」でした。
そのご主人が泣き崩れている光景は、「私が今まで(カーテン越しに)見ていたものはなんだったんだ?」と自分に問い直したくなるものでした。
夫婦のことはその夫婦にしかわからないとよくいうけれど、本当にその通りだと思ったし、それは夫婦だけでなく親子だって、恋人だって、ただの隣人だってそうなのかもしれません。
見えているもの、聞こえているものだけがすべてではない。
カーテン越しに出逢ったこのご夫婦のことはもう顔すら思い出せませんが、まだ30歳そこそこだった私にとっても大切なことを伝えてくれました。
自分の価値観や固定観念なんて、この世界のうちのほんの一部、小さな小さなひとかけらを見て出来上がったものに過ぎないのかもしれない。
だからこそ私たちは、生きている限りこの世界の中にいつでも奇跡を見出すことができるのだと思います。
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