魅力を感じる登場人物のおはなし

ありがとうございます。
マシュマロにてこのような質問をいただきました。

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 表現媒体や作品のスタイル等により違ってくるでしょうし、重視する要素や好みも関わってくる問題だと思います。
 あくまでわたしの場合は、になってしまいますが、少しでも参考になりましたら幸いです。


「掘り下げられている」とまず感じるのは、その人物の核、軸、根幹……言い方は何でも構いませんが、「その人をその人たらしめている重要な部分」に触れたときです。未だ囚われる過去、追い求める理想、貫く在り方、抱える生きづらさ、誰かとの約束、重い罪の意識、秘めた想い、根深いコンプレックスなど、人により様々でしょう。ひとつとも限りません。
 またそれが、本人にどのような影響を与え、どんなかたちで表れているのかも惹かれるところです。あの言葉はこの経験から来ていたのかとか、笑顔の裏に本当はこんなことを隠していたんだとか、繋がってゆくのが好きです。

 重大な事柄に限らず、性格や考え方、好み、癖など、その人らしさ全般が「どんなかたちで表れているのか」には興味があります。言葉遣いや仕草、持ち物や服装、部屋の様子などなど。
 何もかもが反映されるとは言いませんが、表に出ているものから、その人を窺い知る。垣間見る。その感覚が好きですし、だからこそ内面を知ったときに、外と内のズレや、奥深くしまい込んだものに気づかされて引き付けられることもある。
 傍目には何の変哲もない仕草や癖が、本人にとっては重要な意味を持っていたとか、根幹に結びついていたと明らかになる展開は、表層から深層へと潜るようでもあります。

 登場人物を見せるのにエピソードを活用するという話を、漫画の描き方で見たことがあります。「彼は大食らいだ」という設定を、実際にたくさんの料理を平らげる姿で示すというような。そうすると印象に残るし納得しやすい。
 設定がエピソードや言動など目に見えるかたちで表れたとき、惹かれることが多いのですが……それは、登場人物を単に「知る」のではなく「感じられる」からかもしれません。


 ところで、登場人物の個性や魅力というのは、それ単体で成立するものではないと感じています。詳細に決めたり、設定を突き詰めたりも大事ではありますが……それが発揮される場や状況、引き出す相手などが重要だからです。外にある要素との関わりによって、動きや反応が生じる面は少なからずあります。そして“外にある要素”が違えば、生じるものも変わってくる。
 家と職場では、立場も役割も異なるでしょう。本人の立ち居振る舞いも変われば、持たれている印象や向けられる目も違う。同じ人物でも、妻にとっては夫、子にとっては父となり、親からすれば息子という風に変わったりします。
 世話好きという設定の人物がいたとして、厚意を素直に受けられる相手と、干渉を嫌う相手とでは、展開の仕方も築く関係も別物になるのではないでしょうか。そしてそれが本人にもたらす影響もまた違う。
 人物のどの面が覗くかは条件次第ですし、異なる条件下で浮かび上がる人物像を重ね合わせてゆくことで、多面的に、立体的に人物は捉えられてゆくのではないかと思います。
 また、同じ条件下に別の人物を置くことで違いが浮き彫りになる、という場合もあります。比較対象がいることで、それぞれの個性が際立つ結果にもなるでしょう。

 同一、差異、対などは人物の関係や物語の構造において、効果的な手法のひとつだと考えています。
 わかりやすいのはバディものでしょうか。各々を構成する要素を取り上げてみると、何が同一で、どこに差異があって、どの点が対なのか、見えてくるんじゃないかと思います。中には、「親子関係に問題があった」点は共通しながら、一方は「ネグレクト」でもう一方は「過干渉」という風に、同一の点であり差異である場合もあります。
 敵対する人物同士が、実は根源に同じ想いを抱えており、ただ手法が違っていたという展開もありますね。
 父との間に確執のあった人物が息子との関係に問題を抱えたとき、「父親」である今を父と、「子ども」だった昔を息子と重ね合わせるのも、同じ立場で並べているのだと言えるでしょう。そして比較の中にまた、同一や差異を見出すはずです。


 人物に強く惹きつけられたとき、わたしは張り巡らされた網を目の当たりにしている感覚を抱きます。その人が持つ種々の要素が、結びつき、絡み合っている。そして糸はその人の外にある別の人物や物語の舞台、世界設定、ストーリーなどとも繋がってゆき、巨大なネットワークを見ているようなんです。
 物語を読み進めるうちに浮かぶ、数々の要素。それらが次第に結ばれ、広がりを増していく。あるいは、密度を高めてゆく。
 質問にあった「人物の背景」や「掘り下げ」、「深み」などは、もしかしいたらこの網の目と関係があるのかもしれません。

 その逆、深みや興味を感じない人物については……そうですね……。
 他の人物との差異化に意識を向けるあまり、独特な外見や口調、突飛な設定に頼り切っているもの……でしょうか。
 そうしたものを使うこと自体の否定ではありません。人物の内面や個性が見えてくるには時間が掛かるぶん、わかりやすい特徴で印象づけるのは、方法のうちだと思っています。それらだって掘り下げ、深めてゆくことは可能です。
 ただ、「他と区別するための特徴」を除いたとき、「その人らしさ」「その人であるための重要な部分」はどれくらい残るのか。それが気になってしまうのです。
 物語における役割によっては、奇抜であること自体に意義があり、内面の重要性が低いキャラクターもいるかもしれないので……難しいところなのですが。

 人物の掘り下げが大事とは言っても、文字数やページ数の都合で登場人物すべてを詳しく描くことなんてできない! という声も当然あると思うんですよ。
 すべての人物を描く必要はないし、人物のすべてを描く必要もない。そう考えています。
 物語において重要なのは誰か。人物にとって大事な要素は何か。どれを優先しどこを見せるのか、選ぶことも大切なことだと思います。

 ここまでお読みくださりありがとうございました。
 書きながら探っていったところがあり、読みにくい、分かりにくい部分もあったのではないでしょうか。
 それでも何か、ヒントになるものがあったならば嬉しく思います。