シェアハウスでブラジャー盗まれたらどうする?

 その日私は外出する用事があり、少し遅めの時間にシェアハウスへ帰ってきた。入れ違いで居酒屋のバイトに行く男性住人C氏を見送り、風呂に入る。ゆっくり浴槽に浸かり、上がってからが問題だった。

 用意しておいたブラジャーがない。

 まずはどこかに落としていないか、洗濯機の裏などをチェックした。ない。

 干してあるのを取り忘れたか? いや、今までそんなこと一度もなかったし、現に一緒に干してあるパンツはある。

 私は恐る恐る、脱衣所の鍵を確認した。

 こんな日に限って、いや、こんな日だからだろうか。閉め忘れていた。なんて日だ。

 頭の中で悪い予感が次々と咲き誇り、私の脳内を黒い花弁で覆いつくす。

 なんのために? 需要あんの? ……そもそも、誰が?

 私はとりあえず風呂へ入る前に着けていたブラジャーを装着し、残りの服も着て、緊張しながら脱衣所を出た。

「ただいま~」
「ア゙゙ッ⁉ ……おかえり」

 A氏、シロ。外出からさっき帰宅のためアリバイ成立。

「Bさんの容体は? 大丈夫なん?」
「わ、わかんないけど、うめき声は聞こえる」

 B氏、シロ。急性の腰痛のためベッドに伏しており、犯行は困難と判断。
 そしてC氏、シロ。前述の居酒屋バイトのためアリバイ成立。
 私は玄関をそーっとうかがう。下駄はまだなかった。D氏はまだ帰ってきていないようだ。
 D氏、シロ。仕事のため日本中を飛び回っており、アリバイ成立。

 男性陣の犯行は不可か。よって犯行が可能なのは……女性陣だ! なんたる盲点!
 私ははやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと階段を上って女性部屋に向かう。
 そこには……二段ベッドの上下ですやすやと眠る女性二人、そして取り忘れていたブラジャーがあったとさ。とっぴんぱらりのぷう。

 というわけで、私の勘違い劇場オチで終わった一件だったが、この事件(事件と呼んでいいのかわからない、単なる私の早とちりだもの)は私に大きな影響を与えた。

 善良な住民たちを一度でも疑ってしまった、という事実は私の中でかなりのショックだった。よくよく考えたら、下着ドロをしそうなメンツ、いないよ。

 実は他のシェアハウスで盗難があったりとかは噂で小耳にはさんだりするのだが、すごくしんどそうだった。盗られたものより、「住人全員を疑わざるを得ない」という精神的負担の方がはるかにキツいみたいだ。

 まずは無理やりでも外部の犯行を疑うべきだったなあと反省している。でも、咄嗟の判断ってなかなか変えられないよね……どうしたもんか。

 後は普通にうっかりをやめようね、という話だ。鍵を閉め忘れていなければ、早々に自分のうっかりミスだと気が付けるはずだった。いやまあ、鍵を閉め忘れない人間は干してあるブラジャーも取り忘れないだろうな、とかそういうことは置いといてさ。

 みんなも、自分の過失で人を疑うのやめような! まず確認! 私のピエロっぷりをぜひ教訓にしてくれ!

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