巡るロンドを抜け出して|ミュージカル憂国のモリアーティOp.3より、巡れ輪舞曲(ロンド)と最後のはじまりについて

*円盤発売に伴い加筆しました(1/31)


はじめに

こちらは「モリミュはパンフに歌詞が載らないので、円盤発売まで歌詞の余白を楽しめるのが好き」という話をさんざんしているので、1月26日の円盤発売前にOp.3の楽曲について考えたことをまとめてみようという試みです。お手元(脳内)に歌詞をご準備のうえどうぞ。
まとめてみようと言いつつ書いたのはタイトルの通り「心の輪舞曲(ロンド)」「最後のはじまり」の2曲のみなのと、要は「答え合わせの前に遊べるラストチャンス!」くらいのノリなのでふんわりさらっと読んでください。

▼以下注意書き
・音楽的素養が皆無の人間がうんうん唸りながら書いています。書いた本人は大真面目ですが何か間違っていたら鼻で笑ってください
・一部過去ツイやらふせったーやらの再掲
・当然ながら歌詞はすべて耳コピです。円盤発売後に読んでる方、間違っていたら以下略
・単行本収録済の範囲での原作匂わせがあります。あとアニメとステの話を最後の方にちょろっとします


巡れ輪舞曲(ロンド)

というわけでまずは輪舞曲から。
いやおまえが揺られる方なんかい!そしておまえも踊るんかい!と盛大につっこんでしまいますが、まあマリオネットという絶好のモチーフを投入しながらお気に入りの人形を思い通りに踊らせて楽しむという方向ではなくデュエダン(概念)方面にいくんだ、という話は既に各所でさんざんされていると思うのと、今回はあくまで曲について考えたいのでこの際置いておくこととします。

■なぜロンドなのか
モリミュのやべーところはこの曲がガチのロンドなところだと思うんですが、そもそもなぜロンドなのか?
「犯罪卿に踊らされている探偵の図」というのはもちろんあると思うのですが、それだけだとロンドである必然性はないんですよね。
印象的なフレーズが「"心の"輪舞曲」なのとシャーロックのソロで始まる曲なので、当初は「犯罪卿を捕らえるべきか否かシャーロックが心理的に輪舞している状態」を示しているのかな~くらいに思っていました(そもそもそれまでのダメージに畳みかけられたマリオネット演出とデュエダン概念でそれどころではなかった)。

ここからは書いてる人の音楽的素養がゼロのためふわっと読んで欲しいのですが、ロンド形式とはそもそも冒頭で奏した旋律(主題部)が異なる旋律(挿入部)を挟んで繰り返す形のことです。

(補足)
輪舞曲でいうと、「巡り巡る/君を想う」で始まるサビっぽい部分と「全ては輪舞曲に乗せて」で終わるAメロっぽい部分が同じ旋律(多分)かつ、サビっぽい部分が異なる旋律の間奏を挟んで繰り返されるのでこの3箇所が主題にあたります。

このため、挿入部でどれだけ曲が展開しても主題の旋律に戻って終わる、要は初めと同じ旋律に戻ることになっています。 
つまり歌詞にある「どれだけ追っても朧に消えるお前の姿を」という意味で、このふたりは物語的にも今まさにロンドを奏で踊っている最中なんです。

そして問題はこの輪舞曲、主題に戻って終わると思いきや最後にもう一度旋律が変わるという点。いやさっき主題で終わるって言ったじゃんって感じなんですが、最後に奏された主題の後に付される独立した旋律(終結部)をコーダというらしいです。終結部なのでもちろんこの後にまた主題へ戻ることはありません。
学生終盤でのやり取りがウィリアムからシャーロックへの最終試験だとすれば、亡霊+狂騒曲は犯罪卿がシャーロックに課した最終試験にあたり今がその真っ最中なので、このタイミングでコーダのあるロンドをやるのは必然だったのだな……と思います。

■捕えたいのか、捉えたいのか
前置きが長くなりましたが、挿入部➀、ウィリアムの「君にはわかるかな」にシャーロックの「お前をとらえたい」が重なるところ。
物語全体を通してというか、Catch me if you canやらOp.2ラストナンバーやら学生でのやり取り等を踏まえてエンディングに向けて考えれば「捕えたい」一択なんですが、

  • 曲中に「相手の見えないダンス」「どれだけ追っても朧に消える」「お前の姿 掴む時まで」など視覚的なフレーズが多い

  • 直後に「美しき謎 解き明かしたい」というフレーズがあるが、「真相をとらえる」で用いるのは「捉える」の方

この2点を考えると「捉えたい」でも意味が通るのが面白いなと。
すごく良い意味でどちらでも良いし平仮名の可能性すらある。何度も言いますがパンフに歌詞が載らないおかげで観劇時点では(なんなら今も)どっちなんだろう、どっちもかな、と考える余地があるのがすごく好きです。

(1/31追記)
「捕えたい」の方でしたね。
まだ「お前の姿掴む時まで」の段階であることを歌詞ではっきり示した上で、それでもこっちの字が採用されるんだ〜!とめちゃくちゃ興奮しました。ゴールは謎を解き明かし真相を捉えることではない、お前を捕えることなんだな〜と。

■「乱れ 揺られ 舞い踊る」
主題②③で繰り返し出てくる「S乱れ W揺られ 舞い踊る」というフレーズ。
まずウィリアムについて。ご存じの通り原作ウィリアムのイメージモチーフはバラ(アニメだと白百合※こっちは断定してはいけない)(どっちにしろ花)ですが、それと心の部屋(仮題)の歌詞全般に輪舞曲の

  • 「揺られ 舞い踊る」(孤独の部屋にでも「髪を揺らす」という表現は使われてましたね)

  • 孤独の部屋にと共通して出てくる「風」

このふたつのフレーズを合わせて考えると、時の止まった冷たく寒い心の部屋にいつからか吹き込むあたたかく静かな風に揺られる一輪の花なの……そう……という……

次にシャーロックの歌とウィリアムの歌の違いについて。

  • 主題②③の「S乱れ W揺られ 舞い踊る」
    シャーロックの歌う「乱れる」は能動態で自動詞だがウィリアムの歌う「揺られる」は受動態なので、相手がいないと成立しない

  • シャーロックにはソロがあるがウィリアムはソロがなく全てのパートがシャーロックと重なる

ということで、バイオリンはピアノがないと音を取れないけどこの瞬間シャーロックがいないと歌えないのはウィリアムの方なんですよね。

お前のリードに導かれるまま巡り巡るロンドの中、どれだけ追ってもその姿は見えないけれど、いつかその姿を認める日を迎えられるように。
貴方の手を取ることはできないけれど、さいごのときを迎えるその日まで貴方の旋律で私の心に風を吹かせて、私が終幕まで歌えるように。

この輪舞曲を狂騒曲にぶつけてきたミュ、ミュージカルという媒体の利を最大限に活かしていて本当に強い。

ロンドの時間はもうすぐ終わり、ふたりの物語は次の曲へ。シャーロックがウィリアムの手を掴むその日を、心待ちにしています。


最後のはじまり

さて輪舞曲が思いのほか長くなりましたが本来こっちが今回の本命。とにかく音の厚みからなる圧が凄まじかったねとか、「君がいるから」のあかりの抱き方が東京と大阪で違い過ぎて最早えぐいとか、色々言いたいことはありますがそっちは今回も置いておきます。
余白という楽しみ、その最たるものが今回この曲に詰まっているなと思います。

■行くのか、往くのか、征くのか
曲の頭、「I will… 僕はゆく」の部分です。
これ輪舞曲の「とらえたい」と同じでどれでも意味は通るのが今度は困りもので、何が困るって彼の定めた道の先にあるのは「死」であることがわかっているので……
素直に「行く」だとしても既にしんどいんですが、「悪魔が往く」が「往く」だったことを考えるとそれが最有力候補になるかと思います。
「往く」は「行く」同様、目的地に向かって進むという意味のほか、前に進む、死ぬという意味があります。繰り返しになりますがどれを取っても意味が通ってしまうのが苦しい。アニメ1クール目OPでも「There is no turning back」という歌詞があったなあと。
なお、可能性は低いと思いますが「征く」だと「行く」よりも遥か遠い場所へ進むというニュアンスがあるそうです。定めた終幕(死)はウィリアム的にはもうすぐそこですが、死後の世界そのものはこの世からは遥か遠い場所と言えます。ないと思いますが「逝く」も「ゆく」ですよね。

(1/31追記)
ここは素直に「行く」でしたね。ウィリアムが見ている道の先が死であることには変わりないので良くはないけど良かった。
それよりもうわあ……となったのはこの直後、「さだめの道を」です。孤独の部屋にも同じく平仮名表記なんですよね。定めで運命。自分で決めた(定めた)運命なので。こころを抱いてのアルバートも「このさだめに導いたのは私」なので余計に拍車をかけてくるやつ。

■この世か夜か
「Wかなしきよに S狂ったよに W君が Sお前が 生きてる」の部分。
どちらでも意味は通るしどちらでも問題ないのですが、君が/お前が生きてるのはこの世界なのか、夜という暗闇なのかどちらなんでしょうね。シャーロックの方は直前に「荒んだ世界に」とも歌っているので「世」に軍配が上がるような気もしますが、このあとにあるのは運命の夜明けということもあり……
そもそもシャーロックとウィリアムで同じ字とは限らないのがもうめちゃくちゃに面白い。日本語は最高。個人的にここがいちばん答え合わせが楽しみかもしれません。答え合わせのあとに絶対もう1回考えたいじゃんこんなの。

(1/31追記)
どちらも「世」。いやこれいくら考えてもまとまる気がしないのですが、ここまでキービジュでも歌詞でも演出でも夜を強調しながら君が/お前が生きてるのはこの世界なの、味わい深いなあと思います。
モリミュにおける夜って結局なに?と考えた時、不条理が蔓延る英国であり、それに憤りや絶望や様々な負の感情を抱く人達の心でもあると思っているんですが、ウィリアムの心の部屋について言えばシャーロックは部屋の中に入ってくるわけではなくただ風を吹かせるわけじゃないですか。だからここは「夜」ではなく「世」なのかなあと思ったりしました。
これは永久にこねくり回していたい。

■明かりと灯り
「かなしきよに/狂ったよに 君が/お前が 生きてる」の直後の「僕の/この俺の 彼方に揺れる"あかり"」なので、お互いの存在の暗喩なのは間違いないと思うのですが、辞書を引いても違いがいまいちわかりませんでした。「明かり」が光そのもの、「灯り」が光源、かな……?
「明かり」の場合はそのままお互いの存在がこの世界にorこの闇夜にさした光ということになる気がします。もともとウィリアムがシャーロックのことを「光」と歌ってきたのでその流れでいくならこちらでしょうか。
「灯」は「ともしび」とも読むため、あかりという意味に加えてなんとなくあたたかさを感じるのは私だけですかね。冷たく寒いウィリアムの心の部屋同様、彼らのいる世界であろうと夜であろうとどこかにあたたかさがあれば良いなと思います。
そしてこれも普通に平仮名もあり得るんですよね。如何せん辞書引いても掴みきれなかったのでこちらも円盤出たらまた考えたいです。

(1/31追記)
「灯り」でしたね。キービジュやら特典ブクレやらがとてつもなく効いてきます。
ウィリアムにとってシャーロックは冷たく寒い心の部屋に温かく静かな風を吹かせる存在なだけではなく、灯のようなあたたかさそのものなんだろうな〜と思ってしまいました。そしてシャーロックにとってのウィリアムもそう。お互いのあたたかさを心に抱きつつ運命の夜明けを迎える曲だったのだなと、半年越しの答え合わせで胸がぎゅっとなりました。

■風の吹く場所
「W孤独な心に S荒んだ世界に 風が吹く」について。Op.3の楽曲テーマは本当に風でしたね。
孤独の部屋にでも輪舞曲でも、冷たく寒いウィリアムの心の部屋に一陣の風を吹かせたのがシャーロックであることは示されてきましたが、そのシャーロックの世界に風を吹かせたのもウィリアムなんだなあと。

(1/8追記)
某誌のインタを読んだら「そういえば孤独の部屋にでは風を吹かせるのがシャーロックとは一言も言われていないな……!?」となりました。失礼いたしました。それにしても上手過ぎて改めて唸りました。

■最後のはじまり
最後に曲名について。ここは本当にただの感想なので読まなくて良いやつです。
これ、Op.3のラストナンバーであると同時に学生という教授と探偵としての最後の時間を終えて、犯罪卿と探偵として新章へ向かうよって曲じゃないですか。漫画でいえば最終頁のあおり的な。なので私の中での仮題は「運命の夜が明ける」でした。そしたら「最後のはじまり」ですよ……
ここで突然ステの話をするんですが、11月にこの曲名が判明した時、もしステにそういう立ち位置の歌があった場合(無理のある仮定)、それこそ運命の夜が明けるとか、新章につながる系のタイトルになるんじゃないかなーと思ったんです。あの握手を初めて観た日は本当に少年漫画の新章を待つ時のようなワクワク感がありました(個人の感想です)。
でもミュは違うんですよね。新章であることには違いないけど、向かう先は終章ですを前面に出してきた。たしかに「君が/おまえがいるから」と歌いながらもすれ違う姿、その瞬間のウィリアムの表情を思い出すと納得せざるを得ない。わかる。わかるけどさあ……!

あと今回改めて歌詞をさらっていて思いましたが、「君が/お前が」って3回歌ってるんですよねこの曲。シンプルにびっくりしました。
お互いを静かに、けれど滾るほど激しく想う心を抱きつつ、初演から散りばめられてきたワードである「夜」がとうとう明けます。その果てで君と、ですね。


おわりに

というわけで、しっちゃかめっちゃかではありますが「心の輪舞曲(ロンド)」「最後のはじまり」についてつらつら考えていたことのまとめでした。好きな漫画のミュージカル化できゃっきゃしてたらレファレンスカウンターでロンドについて知りたいって相談することになるとは思わなかったよ。
終幕に向かい運命の夜が明けるのを待つのみのこの時間、各々が定めた道を歩くこととなるOp.4が怖さもありつつ楽しみでなりません。願わくはその道にあたたかい風が吹き続けますよう、最後までそのあたたかさを感じていられますよう。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。円盤発売後に再考するのが目的なので後日色々追記するかと思います。
半年間楽しませてくれて、半年がかりでのたうち回らせてくれてありがとうございました!

▼参考
「標準クラシック音楽用語事典」(ドレミ出版社、2001年)
「新編 音楽中辞典」(音楽之友社、2002年)
円満字二郎「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社、2016年)
洗足オンラインスクール総合音楽講座 https://senzoku-online.jp/synthetic_chair/index.html
Weblio辞書(大辞泉ほか) https://www.weblio.jp/
広辞苑無料検索(日本大百科、三省堂類語辞典ほか) https://sakura-paris.org/dict/
毎日ことば(毎日新聞校閲センター) https://mainichi-kotoba.jp/
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