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英語ができないのに国際関係の仕事に携わっている

社会に出て早くも10年以上になるが、その半分くらいの時間を国際関係の仕事に携わっている。

そう言うとなんだかカッコ良いなと思うのだが、その実情、私は英語が話せないし、何か特別なスキルを持っているわけでもない。
私の業界はドメスティックなので、国際関係の仕事というと多少輝かしいイメージがある。
周りからも「楽しそうだね」「羨ましい」という言葉もいただく。
しかし、私に関してはそのキラキラ感が一切ないと言っても過言ではないと思う。
ただ、地味にキャリアとして長くなってきた。シンプルに言えば、ある時の人事異動の際にそのポストに配置されたから、なんだかんだでここまで来た、ただそれだけなのだが、英語が話せない自分でもなんとかなっている実情と、なぜそうした仕事に携わっているのかを言語化してみたいと思う。

英語は出来るに越したことはない、ただし出来なくてもなんとかなる

国際関係というと、まずイメージされるのは「英語の資格が無いといけないのではないか?」「TOEIC○○点以上必要なのではないか?」という疑問かと思うが、弊社の場合、これに関してははっきり言って「英語は出来るに越したことはない、ただし出来なくてもなんとかなる」が答えである。

まず、英語が話せなくても、そのスキルは外注できる。これがなんとかなる最大の理由である。
打ち合わせはもちろん英語で行われるので、通訳を外注している。
メールについても、ビジネスメールが打てる人に打ってもらっている。
ただし、これに関しては近年DeepLをはじめとした自動翻訳機が優秀なので、文明の利器を頼ることも多い。
英語ができないとは言っても、若いころにそれなりに勉強はしていたし、今もずっと軽い勉強は続けているので、全く分からないわけではない。ざっと意味を掴むことはできる。
英語ができないことで仕事がやりづらいなと感じるときはあるが、英語ができないから仕事ができないと思うことはない。

また、ここが国際関係の仕事が勘違いされている部分だとも思うが、逆に言えば、英語ができるだけでは仕事にならない。

つまり、英語の資格を持っていても必ずしも国際関係に携われるとは限らないのだ。
私がなんとかなっているので、そこが仕事の本質ではないと感じている。

海外のカウンターパートと仕事をするにあたり、必要だなと思うスキルは大きく2つある。

必要だと思うスキル①:折衝

と言っても、これも私が抜群にコミュニケーション能力が高いわけではない。むしろ、コミュ障の類である。
ただ、ある程度は仕事なのでと割り切り演じられるタイプではあると思う。
例えば、仕事だからと土日に営業先に顔を出したり、営業先のニュースリリースや情報をチェックして細かくご連絡を入れたりイベントに出席したり、営業先の使った言葉を取り入れて顔を立てるようなことは積極的にするしあまり苦にならない。
これは仕事だからするのであって、プライベートでは一切やらず、どちらかと言えばテイカーになりがちなタイプである。
また、コミュ障なので、常に「どうしたらこのコミュニティに入っていけるか」といった俯瞰的かつ打算的な視点は持っている。これは「仲良くしたいな」といった情緒的かつ私的な感情とは違い、あくまでも「仕事の取引先」という関係性を掘り下げていくにはどうしたらいいかという考えである。
そういうところは、海外のカウンターパートと関係性を作っていくうえで役に立っているかもしれない。

どの国の人も、仕事を円滑に進めていくためには、まずはその人としっかりと関係性を作ることが大事である。このとき、「どうしたら『仲が良い』という設定が作れるか」という打算は意外と使える。
このため、相手との関係性作りにおいて、「私はあなたのことを気にしていますよ」感は必ず出すようにしている。これを一番大事にしているかもしれない。
相手がイベントを主催しようものならラッキーとばかりに足を運ぶし、時に相手の感情に訴えかけるようなエモーショナルなメールを、上司をCCから抜きこっそり送ったりしている。

また、海外こそ「仲間意識」が大事な時もある。特定のコミュニティに認められていないければ話が進まないというのはよくある話だ。
だからこそ、その国の日本人コミュニティのさまざまな人にアプローチし関係性を作るのは意識的にやっている。
自分一人では仕事はできない。関係性で仕事をしていく。とにかく人を巻き込んでいく。
きっかけを見つけてはご挨拶と称し、積極的にアプローチしていく。
この意識は割と強いタイプであり、結果的にそれが海外とのやり取りの際に役に立っているような気はする。

必要だと思うスキル②:体力

スキルと言うか、身も蓋も無いのだがシンプルに体力である。私の場合はこれがすべてかもしれない。
でも、時差がある場所の人たちと仕事をしていくうえで、体力はマストだ。

ヨーロッパの場合は夕方から夜、アメリカの場合は早朝に打ち合わせが設定される。これをこなしていかないといけない。
一緒にイベントをやろうものなら、その直前は日中、日本時間で通常業務をこなし、夜から深夜にかけて相手時間で相手方と連絡を取り合っていくという、休みなんて無い地獄のような日々を過ごすことになる。
幸か不幸か、私はこうした長時間労働には耐えられるタイプではある。

体力で言えば、海外出張も体力が求められるイベントである。
「海外出張」なんて聞こえは華々しい。帰国後、「良いな、観光できた?」がお約束の質問であるが、残念ながら出張は仕事であって旅行ではない。

個人的に、仕事で海外に行くときに最も楽しいのは往路の飛行機の中だと思う。
飛行時間が長ければ長いほど良い。
出張前は大抵、深夜残業をこなしながらの準備。家に帰ってもスーツケースの念入りなパッキングが待っている(出張は何があるか分からない、現地で準備する時間が無い可能性もあるため、無駄になるかもしれないものも持っていく)。
久しぶりにゆっくりと過ごす自分時間。これが往路の飛行機である(ただし、機内で出張先に関する勉強はマスト)。
現地の空港について「海外に来ましたね」と同僚と言い合っているときがピークかつ最後の楽しい時間ではないか。
滞在中はほとんど時差ボケで終わるため、睡眠時間がほとんど取れない。夜は遅くまで眠れないし、朝は早くに目が覚める。日中は眠い。
出張するのだから当然現地の訪問先にアポイントを入れているのだが、海外出張の場合、どんなに必死に連絡を取ってもなぜか渡航前にすべてのアポイントが取り終わらないのもありがちだ。
予定が前日まで確定していないなんてザラで、行程は都度都度変わっていく。臨機応変に対応しなければならない。

こうした中、海外出張中に食事が食べられなかった経験は一度や二度ではない。
あまりの疲労に、ホテルに着いた瞬間にベッドに倒れ込んでしまい、そのまま朝を迎えたことも何度かある。

そう、お分かりいただけるだろうか。
華々しいイメージの一方で、国際関係の業務は意外と泥臭い。でも、個人的にはそこが好きだったりする。

国際関係の仕事の魅力

それでも、国際関係の仕事には魅力がある。
私にとっての一番の魅力は、気付きが多いことだと思う。

言語も文化も考え方も違う人たちとの仕事なので、上手くいかないこともある。
自分では想定しなかったところでハレーションを生むこともある。
それらは大きなストレスだが、でもどこか「そういう考え方もあるんだな」「日本人とは捉え方が違うのだな」と新しい気付きを得ている自分もいる。それは楽しい体験である。

私は、仮にこうした業務に携わらなかったとしても、仕事の大部分が「折衝」や「調整」なのである。
それならば、せっかくならば楽しい「折衝」の方が良いし、人生を豊かにしてくるのではないか。
国際系業務が魅力的なのは、仕事を通じて、自分の世界を広げてくれることである。

また、今後、日本で生きていく上で、どんな職業であったとしても、大部分の人たちが何かしらの形で海外と関わらざるを得なくなるのではないかと思う。
日本の市場は右肩下がり、どんどん縮小していくわけで、どんな企業も何かしらの活路を海外に求めていくことになるのではないだろうか。
そのときに、自分が今携わっているこの経験を少しでも生かすことができるのではないか。
英語ができないけれど、海外と仕事をしている。
こうした人が、今後増えてくるのではないかと思う。

最後に:一番大事なスキル

ここまで筆を進め、国際関係の仕事で一番大事なスキルを思いついた。
「できなくても、とりあえずなんとかしよう、なんとかやってみよう」というガッツである。

英語が話せない? だったら翻訳機能を使おう、ポケトークに頼ってみよう、まずはジェスチャーで話してみよう。
相手との関係性を作りたい? だったら相手の国の言葉で挨拶してみよう。いくつか大事なフレーズだけは暗記してみよう。
海外に発送が必要? とりあえず、まずは郵便局からEMSで送ってみよう。

こうした「自分で一歩を踏み出してみよう」「それが正解ではないかもしれないけれど、まずはできることをやってみよう」
このように思えること、そして思うだけで終わらず、実際にやれることが、最も大事なスキルだと思う。
簡単なようだけど、「分からない」「知らない」「できない」で終わらず、まず「自分でやってみよう」と思えることはとても大事なのである。そして、実際に手を動かすところまでやれる人は意外といない。
やってみる。もちろん失敗する。でもその中で学び、ネットワークを作っていく。
この繰り返しが、着実な仕事につながっていく。
うん、やっぱり泥臭い。

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