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26|全ての建材はどこかからやってきた

排水システムが傾斜土槽法に決まったところで、水周りの設計図面提出日まであと10日のタイミングになっていた。わあ。

図面は夫にお任せだが、それまでに床や壁の素材やら照明やら水栓やらも決めないといけない。全然決まってない。そもそも、お風呂ならお風呂、脱衣所なら脱衣所が、どれだけの要素で成り立っていて、何をどこから選べばいいのかも、わかってない。

わかろう。ということで、洗い出していく。

たとえばお風呂場は、床、壁、天井、窓、バスタブ、シャワー水栓、タオルかけ、照明、換気扇、排水溝、扉、ドアハンドル、蝶番、必要であれば鍵、湯沸かしリモコン、室外に電気スイッチ、スイッチカバー、給湯器、ベントキャップ、でできている。(見えないところまで含めれば配管、基礎、防水方法はFRP防水か防水シートか、シートのメーカーと品番とか、それはもう限りない)。

これらすべてを、このメーカーのこの商品で、と品番指定するらしい。同様に脱衣所と、洗面所と、トイレも。え、あと10日で?

たとえば、排水溝ってどこから選ぶんだろう。「排水溝」と検索しても思うものが出てこない。

夫は建築事務所で働いていたことがあり、建築士の免許も持っているが、専門はコミュニティ研究で、実際に形になる家の設計をまるっとするのは今回が初めてである。かつての担当物件は保育園やオフィスで、その規模になると設備は設備設計者の担当になるそうで、建築の考え方はわかっているが、水栓やら換気扇やらには詳しくない。こういうのは実務として家を設計している人にきかねば。

ということで、 友人のミキサトーアーキにオンライン相談、ひとつひとつのパーツについて、どの会社からどうやって選んでいるのか教えてもらった。

もう、とにかく参考になった。視界が一気にクリアになった。聞けば聞くほど、すべてのパーツはどこかのメーカーのものであり、すべてにそれを選んだ理由があるのだった。

考えてみれば、部屋を構成する要素の全て、どこかで誰かがつくっているんだよね。今住んでいる賃貸住宅の、この壁紙も床材もシーリングライトもカーテンレールも火災報知器も、これをつくる仕事の人がいて、今日もどこかで、きっと、これかこれに近いものをつくっている。

どこで誰がつくってるんだろう。原料までたどっていくと、小さなこの箱のような部屋にも、きっと世界中の素材と仕事が寄せ集まっているのだろう。レンズを合わせると、それが何からできているかわかり、産出した場所の風景が浮き上がる、製造過程がみえる、そんなメガネがあったら欲しい。

発想としてはそれに少し近いのがTECTUREというサイト。まあ、販売促進の要素が強いけど、施工事例写真がたくさん載っていて、パーツにカーソルを合わせると、その水栓やら照明やらがどこのメーカーのなんていう商品で価格はいくらで、といったことがわかる。ものすごく便利。

水まわり!と思って新建築の住宅特集をみても、風呂場は全然載ってない。インテリア特集が頻発する雑誌でも、水回り特集ってないんだよね。なので、主にTECTUREとpinterestをみて風呂場のイメージを固めていった。

で、風呂場はタイルと木材で構成することになってしまった。維持が大変そうだから木は禁じ手だと思っていたのに。いざ選べるとなると、選んでしまうんですね…

というのも、我らが今改修にとりかかっている家は、能登半島の付け根にある。能登には、能登ヒバがある。

ヒバはめちゃくちゃ良い匂いがする。どうやらその匂い物質が抗菌性を持っていて、水にも強く、木材のなかでは浴室につかうのに最も適しているとか。ヒノキ以上だとか。であれば能登ヒバを使わない理由がない。浴室壁を木にしたい、以上に、壁に能登ヒバを使いたい、という気持ちから、浴室の壁が木になった。

木に組み合わせるなら床と腰壁はタイルだ。でもタイルって実物を手にとってみないと、写真だけじゃわからない。ショールームがあるのは大都市で、コロナの今は行きたくない。どうしよう?と一瞬焦ったけど、そういう素材のメーカーサイトにはサンプル請求ボタンが設えられているのだった。なるほど。

タイルは、浴室の床に使うような大きいサイズの滑りにくいものは、ヨーロッパ産の、マーブル的表情のものが多くて、洋風に感じる模様って、そのまんまその土地にある素材からきてるんだと思った。

竹格子や土壁や障子や瓦が和風なのは、それが日本にある素材でできているからだ。当たり前すぎることを言ってるけど、ヨーロッパの素材を見て、洋風とか和風とか、つまりそういうことかと、ひとりで納得した。

床のタイルは平田タイルの無地の石みたいなものを選んだ。柄に近い表情豊かなものが多い中での、表情のある無地。わたしはこれを石みたいだと感じるのは、日本の石はこうだってことなんだろうか。玄武岩に似ている。それはつまり、和風ってことなんだろうか。ヨーロッパの人はどう感じるんだろうか。


トイレと脱衣所の床は、粗相があった時に沁み込む素材では困るから、水を弾くものがいい。水周り以外の床は木を考えてるから、それを際立たせるためにも、他の素材を使いたい。リノリウムがいいような気がする。でもリノリウムって何?

○○リウムという商品名の塩ビシートもあるのでまぎらわしいのだが、調べると、リノリウムは亜麻仁油を主原料とした天然素材であることがわかった。

リノリウム、きれいな言葉だと思う。透明感のある響き。ぜひ我が家にいて欲しい。ということで、脱衣所とトイレの床はリノリウムにした。

亜麻といえばヨーロッパだ。だからリノリウムにもやっぱり、マーブル模様の石を模しているのか、マーブル模様のものが多かった。天使がラッパを吹いてそうな、教会の天井みたいなものもあった。そのなかで、あまり主張の強くない、でも完全無地だと塩ビシートにみえそうなので、もけもけしたネップのセーターみたいな素朴さがかわいらしいものを選んだ。

バスタブは大和重工のホーロー。熱伝導性が高いから、お湯の入っていない部分もあたたかくなって、肌が触れると心地よいらしい。台所で野田琺瑯をつかっていて、プラタッパーより汚れがつきにくく洗っていて清々しいので、バスタブでもきっとそうだろうと思った。

そうしてなんとかかんとか、期日までにいちおう全部、選ぶべきものは選べた。

機能の違いがよくわからないものは、メーカーに電話して聞いた。直接小売していない会社がほとんどながら、私が見ているサイトと同じものを開いて確認してくれるなど、皆さん親切だった。

webで電話番号を確認しながら、タイルは名古屋、ステンレスは新潟と、メーカーの本社は東京じゃないのだなと思った。といっても東北や北海道でもなくて、新潟から西の本州が多かった。なぜそこにその産業が栄えて今に続いているのか、知っていったらどこまでもおもしろそうだった。

やっぱり、それがどこの何でできているか、わかって、周りの風景と製造工程が再現されるメガネ、欲しいな。



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