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違う月を見ていた。

めちゃくちゃお久しぶりのユーゴです。今日、ふとプレイリストをぶん回していたら面白い発見をしたということで、楽曲紹介のnoteを書こうという運びになりました。

今回はKhakiの「違う月を見ていた」という楽曲のお話です。前提として楽曲の解釈は人それぞれなので、1つの考察と捉えていただければ幸いです。

1.違う月を見ていた

まず先にこの曲を一回聴いてほしいです。

お聴き頂いたのは、Khakiというバンドの「違う月を見ていた」まぁ楽曲として素晴らしいものであるのは一旦置いておいて、今回話したいのは"詞"の部分。非常に文学的で興味深い内容になっています


2.楽曲構成


そもそもこの曲は構成として、

イントロ→Aメロ→中トロ
→Bメロ→サビ→中トロ
→Aメロ→サビ→アウトロ

という様な構成になっています。
かなり歪な設計です。注目すべきはサビへの繋ぎを変えている所。1番ではBメロからのサビですが、2番ではAメロからのサビになっています。また、サビのテンポが1番と2番で異なるのも、後々効いてくるポイントでしょう。

そしてこの曲はツインボーカル。2人の声質がかなり似ていてややこしいので辞めてほしいのですが、このツインボーカルが楽曲の描写に深く関わっているのは事実です。


3.Aメロ

まずはAメロから見ていきましょう。

滲んでいくお前と 叩きつけたい衝動
無感動は叶わない まだそういうことじゃない

とりあえずどうやら物騒だという事は分かりますが、あまりにも抽象的で解像度の低い映像しか浮かびません。

「滲んでいくお前と 叩きつけたい衝動」

滲む(にじむ)と言っているのはそのまま涙のことでしょう。問題は"お前"という描写。涙を流しているのが自分で、その目に映る"お前"が涙によって滲んでいると捉えて問題ないと思われます。

そして、主人公の「叩きつけたい」という意思表現のワードが出てきます。ここでこの楽曲は、叩きつけたい主人公とその反対側の2人の登場人物の存在が確定します。

「無感動は叶わない まだそういうことじゃない」

情がない状態である、無感動。ですがそれは叶わなかったようです。しかし、「叶わない」という描写が、"無感動でありたかった"という主人公の感情を伝えてくれていますね。
その後、「まだそういうことじゃない」と言っています。無感動のまま感情的になりたくはなかったようですがそうは行かず、"そういうことじゃないんだよ"と思っているようです。

さらっていく無神経な ただ何も知らない横暴
君は可愛いね まだその目を閉じていて

ここもかなり抽象的でわかりづらいですが、「無神経」や「横暴」というワードが、先程の物騒なイメージを再固定させてくれています。また、「君は可愛いね」という一文からどうやらこの主人公ではない方、つまるところ先程言った「お前」は女の子なのではという推察が出来ます。可愛いと言っている手前ですが、「叩きつけたい」とか言っている以上、"好意を持っていた"ということでしょう。


4.Bメロ

やっと終われる
終わりはただそれだけを思っていた
逆らう波のよう ただ流れていた

「やっと終われる」

ここからBメロです。「やっと終われる」という主人公の感情は、何かを成し遂げようとしているのだと分かります。

「終わりはただそれだけを思っていた」

そしてここで初めて、文末が過去形になります。まさかの過去の話だったということが分かりました。この"何か"が終わる時には主人公は、「やっと終われる」ということだけを考えていたようですね。だんだん分かってきたのではないでしょうか。

「逆らう波のよう ただ流れていた」

何かが流れていたというのを、比喩表現で波の様だとしています。比喩なので実際に波打っている訳ではなさそうですが、「流れていた」という表現は、時間なのか2人の関係性なのか、想像を膨らませますね。

引き合っているだけなら
ずっと待ち続けていた
この最後だけを

引き続き波の比喩に被せて、「引き合っている」と使われています。そして「ずっと待ち続けていた」から、主人公が望んでいた最後だったということが分かりますね。


5.サビ①

ここからサビに入ります。厳密に言うとここがサビなのかどうかは判断が難しいですが、僕はここが一番の盛り上がり所だと考えます。

星を残さず食べた
俺の締まる首と消えたニ人の行方
笑っていたあの夜

「星を残さず食べた」
「笑っていたあの夜」

すぐ後に出てきますが、首を絞められている状況です。ということはつまり、呼吸がままならない訳で、空気を求めて口をパクパクさせている状態。それを"星を食べている"や、"笑っている"という比喩表現に落とし込んでいるわけです。

また、上を向かなければ星は見えません。もうお分かりですね。Aメロ冒頭に主人公が「叩きつけたい衝動」と言っていましたが、"地面に叩きつけられて首を絞められている"から、上を向いて星を食べているということですね。

「俺の締まる首と消えた二人の行方」

既にお分かりだと思いますが、ボーカルがサビに入るタイミングで変わっています。そして「締まる首」という表現。どこかで聞いたような表現ですね。そうです、Aメロ冒頭の「叩きつけたい」と類似した表現です。おそらく同じ対象だと思われます。

しかし、ここでは「俺の締まる首」つまり、首を絞めているのは主人公、絞められているのが先程で言う「お前」と言うことになります。ということは視点が切り替わって、今までの主人公の逆の、「お前」側の視点になったわけです。そのため、ボーカルを切り替えたというわけですね。


6.サビ②

肘で弾いたオルガン
話した言葉は60年経って見られていた
まさにそうだった

「肘で弾いたオルガン」

ビートルズに"I’m Down"という楽曲があります。この曲はビートルズにしては珍しくとにかく暴れまくっています。その中でジョンレノンがオルガンを肘を使ってジャカジャカと打ち鳴らすパフォーマンスがあります。それがまさにこの「肘で弾いたオルガン」です。そしてまた、この"I’m Down"という楽曲は、ざっくり言うと、恋人のふるまいに欲求不満な彼氏を描いています。

つまりこのワンフレーズで、"肘でオルガンを弾く"という狂気的な行為を主人公のここまでの奇行に重ねると共に、"I’m Down"から男女の関係図をも引用しているという完璧策士。(←作詞とかけているユーゴ)

更に言うと、2番だけサビのテンポ感が異なります。これは首を絞められていることから来る意識の朦朧としている雰囲気を、スローテンポと歌い方を変えることで表現しているのだと考えられます。


7.まとめ

これでようやく全てが繋がりましたね。楽曲全体の情景としては、
・主人公の男が女を地面に押し倒している
・月明かりの下、首を絞められている女

これを細かな比喩表現やニュアンスを用いて、抒情的に描写しています。
・叩きつけると首を絞めるの繋がり
・星を食べるの比喩表現
・I’m Downからの引用
・ボーカルを変えることで2人の構図を明確化
・2番のサビのテンポを変え解像度を上げる
                 等々…

もう、、圧巻の一言。作曲のセンスだけでも語れることがたくさんあるのに、詞にここまでのディテールを散りばめられたらもう脱帽するしかありません。


8.最後に

いかがでしたでしょうか。今回はKhakiの「違う月を見ていた」の歌詞解説をしてみました。見事なまでの比喩表現と伏線回収の連続でしたね。Khakiは本当に日本語の素晴らしさが存分に発揮されている素晴らしいバンドです。これを機に他の曲もぜひ聴いてみて下さい。

ただひとつだけ解決していないのをお気づきでしょうか。そう、最後の「60年経って」。ここだけが分かりません。この曲が収録されているEP「頭痛」の発売日から逆算したり色々調べましたが最後まで謎のまま。

具体的な数字だからこそ、何か意味があると思ってしまいますがどうなのでしょうか。いつか種明かしがあるのか、それともこれの正解を知れるのは60年先になるのでしょうか?
いや発売は2年前だからあと58年か…。

最後まで読んでいただきありがとうございました。長くなり過ぎてしまい申し訳ないです。またよろしくお願いします。ユーゴでした。

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