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そばにいられればいいのに

一日だけの恋人がほしい


手を繋いで太陽の下を笑い合いながら歩いて、ランチをしに入った喫茶店で注文した品を待っている間手に触れて、触れた指先が知らずの間に絡み合っている。
商店街を歩く、手を繋ぐのが照れくさい私達は小指だけ結んでいた。関節が汗ばむ。

そうしている内に空は黄金色に焦げ始める、愛おしい時間を愛おしい相手と過ごしている時間はこんなにも溶けるのが早いのだと思う。
海に行く。
特に意味は無いけれど、お世辞にも綺麗とは言えないけれど、この人と歩く事に意味がある。

砂浜に足を絡め取られる貴方の手を強く掴む、
どこにも沈まないように。


地平線はまるで、雨に打たれた後のオレンジ色のコスモス畑のようだった。花達は空からの光を反射して風に揺られながら歌を歌っているように感じた。
実際、海は濁っていて、砂浜だって瓶の破片やプラチックが落ちているけれど、今の私にはそれらすら鉱石のように見える。


夜が訪れる。
辺りは静まり返り、波のさざめく音と心音が鳴り響く。貴方にも胸の中の声が聞こえてやしないかと思う程、強烈な想いが波と共に押し寄せる。
刹那、恋人は私の左薬指に訪れた雑貨屋で一緒に小一時間悩んだ末に選んだ300円の指輪を差し込んだ。

私の好きな青色をしていた。


見つめ合う。沈黙が続く。別れを悟る。惜しいけれど、私達って本当はなんにもなかったんだからいいんだよね、これで
いいんだよ、と貴方は言う。

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