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MSWとして存在する社会福祉士の現実とその価値

コロナ渦により様々な場所に訪問することが難しくなる直前、
私はMSWのリクルートをしている中で衝撃の事実に直面しました。
社会福祉系大学の中で、社会福祉士を目指せる学部が少ない上に、その国家資格が
かなり難関であるということ、そして、その中でMSWを最終的に目指す学生が少ないという現実です。

社会福祉士を輩出する大学の教授に私は何人か、お会いしました。
名門と言われる大学においても「医療の現場に学生を送り出すには一定の懸念がある」というニュアンスを感じました。

現在、病院においてMSWとして働いておられるほとんどが国家資格である社会福祉士をお持ちだと思います。これは、診療報酬に後押しされた様々な加算が、退院支援部門における必要要件でもあり雇用背景にも影響してきました。特に「退院支援加算」が算定されるようになってから、周辺の病院で一気に、連携室の「後方支援」の顔ぶれが一新されたりご挨拶にこられたりしたことを、公立病院に務めていたつい数年前の出来事として記憶しています。

ところが、大学側の話によると難関と言われる社会福祉士の国家資格に合格しても病院という医療現場に向かった卒業生の離職率は非常に高いとのことです。

調べてみたところ、厚生労働省社会援護局・福祉基盤課 資格試験係が平成2年3月13日にHP上で公開しているデータによると社会福祉士国家試験の合格率の低さは表の通りであり、社会のニーズに答えて、急に伸びた受験者数に比し、合格率はあまり伸びていません。その分母となる受験者の中には社会人として無資格ではあるがMSWとして福祉や医療の現場で働く人も組織のニーズとして資格取得を目指すケースも少なくないと聞いています。

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私は、公立病院の地域医療連携室で退院支援を行っていた看護師としてMSWとの協働は欠かせないものでした。私もMSW同様、担当病棟があり、依頼を受けての退院支援の介入となるのですが、如何せん看護師であるため、自分で病気や障害の度合いからアセスメントをスタートさせます。

病棟の看護師が患者と家族の意向をどのように考え、意思決定において支援をしていくのかは別に述べるとして 、同僚のMSWとある時、ご自身の同級生が勤務する病院では医療職との協働がうまくいっていないケースがほとんどであると聞きました。ただしこれは社会福祉士のMSW(以降MSW)の特性としてそのような医療職も「そういうもの」として受け止めるため、医療職は気づいていないケースも多いだろうと推察しますので、「協働しているかどうか」の認識は、MSWにリサーチするか、医療職にリサーチするかによって違いが出るかもしれません。

さて、最近、ありがたいことに専門誌の原稿のご依頼を受けさせていただくことが続き、その中で改めて地域連携室の中での協働について考えてみました。

様々なソーシャルワーカーの置かれた立場を複数の文献の中で、このように記載されていました。

「所属組織のゴールを専門職価値やクライエントの真のニーズより優先させてしまい、単なる『連絡役・サービスの手配師』(大井2002:142  ),『落穂拾い・後始末役』(山崎1968:129)(中略)と誤解される仕事をしている点が指摘されてきた。その結果犠牲になるのはクライエントであった。」(文献は後述※1)

これは、医療職である病棟スタッフ全てが認識しなければなりません。

退院支援のアセスメントの違いについて研究された文献では

「 アセスメントの方法として,看護師は,自らの目と手足で情報を得て退院支援の方向性を瞬時に判断し,退院支援計画を立案し,院内・院外調整を始め同時に複数の判断を行い退院支援を遂行していた。SWは,常に患者や家族の意向を把握し,それを中心においてあらゆる支援方法を考えながら,医療職ではない自身の判断の限界を自覚して医療スタッフへの現状確認などを繰り返し,何度も詳細なアセスメントを丁寧に重ねていた。問題解決へのアプローチにおいては,看護職がまず患者の身体的問題に着目し,医療的観点からの解決策を第一に求め,次に患者を取り巻く環境を整える順で支援を進めるのに対しSWは患者を含む家族員全体の関係性に着目し,問題点を見出し支援策を検討していた。」(文献※2)とあります。

 MSWは、医療的な視点のみならず、やはり、何らかの医療的な問題により、「新しい生活様式を探らざるを得なくなった患者を含むその家族すべてに寄り添う」視点で問題点を見出しているという点は、医療職として、協働する上で一番の価値であると言えます。

この点を、医療職はちゃんと理解しているでしょうか。

相当過酷と言われる生活基盤のない人々が入院される医療圏の病院の連携室を経験し、数年前まで私の同僚だった経験値の高い尊敬するMSWは、私がMSWの立場について、その価値について、普通に話しているのを見聞きし、驚愕したと言いました。なぜそのように理解できるのか、と。ケアマネジャーの経験の中で、いわゆる医療職が「困難ケース」と言って託してくる患者様が実は困難と言うよりも、「理解されなかったケース」ではないか、と感じることが多かった私だから、少しだけは、理解できるのかもしれません。

「医療職はそういう理解であろう」という一種のMSW側からの「あきらめ」を私たちは見えないまま、協働している、と言っていいのでしょうか。

あ、無事に大学にリクルート周りをしていた後、地域包括支援センターや様々な社会福祉の中で鍛え上げてきた素晴らしいMSWが現在の職場に就職してくれました。彼女の就職の決め手は、見学時の質問に対する私の答えだったようです。

「急性期の病院によっては、治療が終わったからあとは連携室の仕事と言って放り投げてくるところがありますが、ここではどうですか?」

それに対して、私は「退院支援はみんなでするものです。地域医療連携室長として看護師として、それは絶対にさせません」と答えました。

その答えで彼女は働きたいと思ってくださったようです。

そうそう、リクルートの時に大学の先生方に私の地域連携室での仕事の思いを伝えたところ、皆さんに、「是非学生の実習先に登録してほしい、MSWとしての価値をわかってくれる職場に就職させてあげたい」と言ってくださいました。

そこは何が決め手か(単に実習先が少ないのか?)わかりませんでしたが、もしかしたら就職してくれた彼女と同じことを思ってくださったのかもしれません。

ということで、来年度から、当院ではMSWの研修を受け入れる病院となりました。小規模病院ができること。それは、地域に密着し、地域のニーズに応えること。それを目指すためには、それぞれの職種の価値をきちんと理解し協働すること、だと信じています。

※1 福山和女・渡部律子 他「保健・医療・福祉専門職のためのスーパービジョン 支援の質を高める手法の理論と実際」2018年 ミネルヴァ書房

※2 石橋みゆき 吉田千文 木暮みどり他「退院支援過程における退院調整看護師とソーシャルワーカーの判断プロセスの特徴」千葉看会誌 VOL.17 No.2 2011. 12

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