泉屋博古館開館60周年記念特別展「瑞獣伝来―空想動物でめぐる東アジア三千年の旅」

泉屋博古館に初めて行ってきた。スマホを忘れていったため、写真はなし。
泉屋博古館は、住友家15代当主の住友春翠の中国古代青銅器コレクションを中心とし、日本や中国の美術品など所蔵品は多岐にわたるとのこと。今年2020年で60年を迎える。新展示室と青銅器展示館から成る。青銅器展示館についてはあとで触れる。

瑞獣伝来

『瑞獣伝来』は新展示室で開催されていた。芝生の庭を眺めながら渡り廊下を通って行く。今回の特別展では、中国で皇帝が善政を敷いたときに現れたという縁起のいい動物の中でも、龍、虎、鳳凰がどのように中国に生まれ、日本に伝来したのか、紀元前1000年ごろから二十世紀までの作品を展示している。中国と日本のものが多いが、朝鮮半島の美術品もある。

なぜ行ったのか

この展覧会を訪れようと思ったのは、西洋のドラゴンと龍、フェニックスと鳳凰の関連について知りたかったから。いずれもよく似ている。結局、中国を起点として東アジアに広まった瑞獣の伝来を追う展覧会なので西洋の比較はテーマ外であり、その辺はわからないままだったが、中国の古い時代の作品に、瑞獣を中心にした見方で触れられたのがよかった。

・龍は、施政者の行動を裏付ける瑞獣、および、死者が仙界に上るときに、龍なしではたどり着けないと信じられたことから、仙界への乗り物と考えられた。
・目録に、殷時代から近代にいたる、龍の描き方の変遷が示されていたが、殷時代の、長方形を組み合わせて並べたような抽象的な龍から、大きな鼻にぎょろ目の龍まで、時代を経るごとにどんどん具体的になっているように見えた。
・瑞獣が瑞獣になるまでは、長い時を要する。殷時代の作品では、恐ろしさが際立ち、吉兆としての存在感はない。
・龍は皇帝を表すものになったが、漢時代には皇帝にのみ許されたモチーフというわけでもなかった。
・雨を降らせる役割としての龍は、中国にもみられた。

・虎は、現実に存在する動物だが、瑞獣でもある。
・特に、日本には生息していなかったことから、想像上の生き物に近い存在であり、残された作品は現実の虎とは形が異なっている。明治に木島櫻谷が動物園で虎を模写したものが展示されていたが、そのころまで生きた虎を見た日本人はほとんどいなかったらしい。

鳳凰

・鳳凰も瑞獣の一つであったから、建造物にあしらわれるなど、政治的に利用されたが、絵に描かれるようになってからはそれも薄まったという。
・日本では、仏教と深く結びついた形で導入された。仏の姿が表面に線刻された鏡の裏の文様に彫り込まれた作品が展示されている。
・興味深かったのは、夫婦和合の象徴ともみなされたこと。陰陽を調和させる力があるとされ、そのため同じ力があるとされた鏡との相性もよかったと。
・太陽との関連が強い。朱雀はすなわち鳳凰だが、朱雀が南にあてがわれたのも当然であった。
・鳳凰は、梧桐に住み、竹の実のみを食していたとされる。竹は数十年に一度しか花を咲かせず、その後はいっせいに枯れるそうだから、その実は希少だったはず。しかも結実する割合も低いらしい。

フェニックス

鳳凰とよく似たフェニックスは不死鳥である。太陽神と結びつき、キリスト教という別の宗教とも結びつく(イエスの復活になぞらえられる)点は似ているが、鳳凰との歴史上の共通点はあるのだろうか。どこか、西方から、東西に広がっていったのだろうか。

紀元前5世紀にヘロドトスがフェニックスについて著述している。また、紀元後3~4世紀のキリスト教著作家ラクタンティウスによるものとされる《フォイニクス》ではキリストの復活になぞらえられる。

印象に残った作品

作品に添えられた解説に紹介された物語に心惹かれてしまうため、作品そのものを忘れてしまうのだが、形の面白さ、という点で、中国の昔のものが印象に残る。前漢の細線獣帯鏡など、描かれているものが何かギリギリわかる文様が楽しい。

それから、地方の職人が鳳凰とは何か理解せずに作ったのかもしれない器も、鳳凰の頭の飾り羽が斬新な造形である。鳳凰関係では、殷(紀元前11世紀)の鳳凰をあしらった器がおもしろい。鳥が上部に二羽ついているが、その形が水鳥を模しているように見えるという。

陝西省で出土とのことで、地方の職人が鳳凰の概念をあまり理解せずに作ったものではないかとも書かれていた。いつも思うが、未来の学者から地方の人はいろいろと言われるが、本当のところはどうだったのだろうか。間違っていたなら、献上相手が激怒して壊されているようにも思う。

頭についた羽毛は、羽毛状ではなくて四角形を並べたような形になっておりおもしろい。
西王母画像拓本は、墓に埋葬された夫婦が西王母に仙薬をもらう瞬間を描いているが、亡くなった人を思って描いた絵であり、しかも素朴な、平和な絵なので胸を打った。なにより絵柄がかわいらしい。

建物、青銅器について

入口の建物は青銅器展示館で、四室にわたり大量の青銅器が展示されている。住友春翠は、家業の銅山と関連があることから関心を深めていったとのことだが、ここまで集めるとは、どういう魅力があるのかと思わされる。とにかく大量。

青銅器の種類についての細かい説明を載せたリーフレットをはじめとする持ち帰れる資料も豊富に用意されていた。今回は特別展目当てだったので、すでに気力を使い果たしており、ざっと流してみるだけになってしまった。また次回、誰かと来た時にリーフレットを見ながらゆっくり見学しようと思う。

青銅器展示館は1970年、万博に合わせて作られた建物で、1970年代の古き良きレトロを感じさせるとても良い建物だと思う。中でも、休憩室は元貴賓室で、3、4メートルの高さのある大きな窓が開放的でゆっくり休んだりぼーっとしたりするのによさそう。

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