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ガラスアーティスト吉田延泰さんを訪ねて

●はじめに 
 新型コロナの影響を受け教育活動や地域のアートイベント、街づくりプロジェクトのみならず、アーティスト自身の作家活動が制限される事態となりました。
ステイホームで出来ることを探りながらも、本来は人と直接交わりながら作ることで、喜びや達成感を感じてきたアーティストにとっては葛藤の日々となりました。

リアリティのある人との繋がり。
またその繋がりの中で生まれる絆。
あたりまえだと思い込んでいた日常を失って初めて
これらがいかに尊いものであるかを私たちは知ることができました。
ウイルスという見えない敵。
私たちは日々その不明確さに怯え、不安感を抱きます。

『不明確さの中にこそ美しさがある。』

これはフランスの作家クリスチャン・ボルタンスキの言葉です。
不明確さの中にこそ見出せる色彩や形があるのだと信じる時、不安は希望へと変換されていくのかもしれません。

大人の図工塾の活動の幹と言っても過言ではない作家訪問。自粛期間を経ておよそ2ヶ月ぶりに作家さんのイマを取材しました。

(この度の取材に同行してくれたのは染色作家で兵庫教育大学・工芸講師の池田圭さんです。)

●ガラスアーティスト吉田延泰さんを訪ねて
〈吉田延泰さんプロフィール〉
1998-2002近畿大学芸術学科でガラスを専攻し本村元造氏に師事。2004-2005英国のUniversity for the Creative Arts大学院にてコリン・ウェブスター氏に師事。2006年〜アトリエクラフト西宮キルンワーク講師や神戸芸術工科大学夏期集中講座担当等をしながら自身の展示、企画を重ね、2010年に神戸市長田区に工房『がらす庵』を設立。ここでは、制作と供にガラス教室を開催している。

 長田の商店街を散策しながら、吉田さんの工房を探すこと1時間。どこか昭和な雰囲気が漂う懐かしい路地に入っていくと、小さくて可愛いアパートを発見。『Glass An』と書かれた無機質でお洒落な扉をノックすると、吉田さんが出迎えてくれました。
玄関口でパッと目に飛び込んできたのは、試作品の大きなブルーのガラスオブジェ。 

窯や、制作途中の作品に惹かれながら工房の奥へいくと立派な材料棚がお出迎え。

私は最初に強い印象を受けたブルーの作品について、お話を伺いました。

●吉田さんのブルーへの想い
 吉田さんの生み出すブルーの魅力はご自身の生い立ちと関係があったようです。ご実家がアイスクリームやジュースの卸業を営んでいたことから、商品のガラス瓶や冷凍庫が身近にあり、幼少の頃からすでに青の発色に惹かれていたと言います。

「僕にとっては理想の色彩でした。それは市販のものではない、水や氷のイメージでした。」

と語る吉田さん。確かに水や氷のイメージ。
爽やかで涼しい作品の裏側に、窯のように熱い想いやストーリーが込められている。更にガラスについて深く知りたくなりました。

●パート・ド・ヴェールという技法について
 吉田さんの作風はこの技法なくして語ることができません。 パート・ド・ヴェールとは、油粘土等をもとに型取りし、粒や粉のガラスを詰め、電気窯で焼成する技法です。表情豊かな作品の制作が可能で子どもから大人までマイペースに制作できるのも魅力です

●教室への想い
 がらす庵では吉田さんの指導の下、
月に2回このパート・ド・ヴェールを体験できます。
がらす庵をオープンした当初を振り返る吉田さん。

「作家だけでは考えていませんでした。どこかで、教えながら自分も勉強していけたらいいなと思っていました。」  

教室は一度に5名の少人数制(現在は3密対策で3名まで)です。各自の自主性を大切に、それぞれが作品づくりに励まれているそうです。教室日を曜日固定ではなく月2回として間を開けることで、ご自身の制作も円滑に進めるようにするなど工夫が成されています。 まさにみんなの工房。

教え、引き出し、学び合える理想のガラス工房システムです。

「危険なこと以外は基本的には何をやってもいいよね!という感じなんですよ。自由な制作空間です。実験→メモ→次回に生かすの繰り返しです。」

柔らかく優しいものごしで教室の説明をしてくださる吉田さんは、すっかり先生の表情です。

実験→メモ→次回に生かす

確かにこの工程は現場でも教師に求められる姿だなと共感しました。

危険なこと以外は充分に試せる空間づくり。
秩序と自由のバランス。
子どもに委ねる姿勢を改めて考えさせてくださるお話でした。

●制作中のモットー
 制作過程や仕上がった瞬間に感じていることを伺いました。

「工芸は〝生活〟に近く、手作業がとても多いです。ガラスは〝削る〟〝磨く〟という作業に対して掛ける時間がとても多いので手作業中は余計なことを考えなくなります。ムダを省いていくといった感じでしょうか。ある過程からモノが力をもちだすんです。そのポイントを超えると作業が苦行ではなくなり、掛けた時間が報われ始めます。展示会等へ向けて、観てもらえる状態が整うと、とても嬉しいですね。また、焼き上がって窯から出てくる時も楽しい瞬間です。」

ものづくりの心。吉田さんの言葉をそのまま、図工室や美術室で子ども達に届けたいと思いました。

●吉田さんのビジョン
 最後に吉田さんのビジョンと今後の取り組みについて伺いました。

「僕は日英のクラフトマンシップをもとに、各国の作品紹介の機会を持ちながら、神戸が世界の中の交流の拠点になっていけば、と思っています。
若手の現代工芸交流であるネイキッドクラフトプロジェクト(Naked Craft Project)は2011年に立ち上げ、2015年サラ・ブラウン、2017年グリート・ベヤートとポール・ミラー、2019年ニナ・カッソン・マクガルバと先鋭的ガラス作家を神戸市や長田区、まちの企業や商店主の協力と共に、招致して来ました。
今後は英国現代ガラス協会や英国営ガラスセンター協力を基に、日本作家のイギリスでのレジデンスの機会も造っていけたらと思って居ます。
プロジェクトに際して、最低限の資金である渡航費と作品輸送費の捻出の為のプロジェクトスポンサーを募集して居ますので、御応援を頂けると幸いです。
アーティストや職人にとっての、より良い環境造りの一助になれれば幸いに想って居ます。」

●終わりに
コロナという世界恐慌。
国際交流やアーティストの場は一度閉ざされたけれども、アフターコロナの世界に新たな問題提起をくれたのも確かです。
世界がみんなの色や形やイメージで溢れる日は近い。きっと希望は循環していく。
吉田さんのビジョンにそんな期待をのせながら
幸せな気持ちで取材を終えました。
吉田さんに感謝を込めて。

記事:大人の図工塾管理人 米光智恵
聞き手・撮影
染色作家・兵庫教育大学工芸講師 池田圭

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