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鍵となるのは心の可視化。子どもの貧困問題に挑むスーパー空手家高校生 西田考佑さん

 先日筆者の元に届いた1通のGメール。開封してみると18歳の青年からでした。内容は「子どもの貧困」をテーマとしたZoomミーティングへの招待でした。添付された資料には、彼のビジョンが綿密に示されていました。「心の可視化」や「親子の造形活動」についての記事を偶然に見つけ、早速連絡を下さったのでした。
「子どもの貧困を心理的な要因と経済的な要因から専門家の方々と考えていきたいのです。」
現役高校生の熱い想いに胸が熱くなりました。そのような経緯で迎えたZoomミーティングは、教職員やNPO 法人の代表者を迎え、大変尊い2時間となりました。これから新たなプロジェクトが動き出そうとしています。今日はそのプロジェクトの仕掛け人、西田考佑さんにお話を伺いました。
※(直接のインタビューではなく、質問フォームに答えていただきました。)
Text by Chie Yonemitsu
(大人の図工塾管理人 米光智恵)

お名前 西田考佑さん 高校3年生
学校名 保善高等学校
●西田さんが「子どもの貧困」について考えるようになったきっかけは何ですか。

地元八王子市にある「はちおうじ子ども食堂」でボランティア活動をさせて頂いたことがきっかけでした。その活動の際に、1日に約80人分の食料を配りました。10年近く住んでいるこの街にも、こんな多くの方が「食べること」に困っているのかと驚きました。子どもたちと関わる中で保護者の会話も聞こえてきました。その時、保護者の方が子どもにかける言葉に憤りを感じてしまう場面もありました。
「そんな言い方はないんじゃないかな。」
そう思い始めたことで、生活が困窮している世帯で育つ子どもに生じる格差について問題意識を抱くようになりました。

写真:はちおうじ子ども食堂Facebookより
●心の可視化に着目されたのはどうしてですか。
世帯の所得は、その子どもの学校外での教育に格差を生み、よって「貧困の連鎖」が生じると言われています。貧困の連鎖は「諦め」の連鎖なのではないかと僕は考えています。僕にとって5歳から続けている空手は大好きなスポーツですが、同時に逃げ場でもありました。誰でも幼いながら嫌な出来事ってあると思うのですが、空手をやっている時は集中して無心になり、何も考えない時間を与えてくれるのです。自分に襲いかかろうとしている人が目の前にいる空手は、嫌でも集中しなければならないのですけどね(笑)。でも今思うと、そんな空手という逃げ場が大切だったのだと思います。
それから多くの教育関係者の方々にお会いする機会がありました。例えば学校で嫌なことがあった時、習い事のように忘れさせてくれるものがなかったり、家に相談できる人がいなかったりするような環境だと、子どもが1人で悩みをかかえる原因になりやすいと言います。そのまま小学校中学校に上がると、自分が置かれている状況や環境に劣等感を感じやすくなってしまいます。そして将来を若い時期から「諦め」てしまうのです。だからこそ、子どもの心理的な変化というものを可視化し、その変化に寄り添うことで、すべての子どもの成長を支えることができるのではないかと考えるようになりました。

【写真:心の可視化ワーク。西田さんが見つけてくださった米光の記事より】
●空手の指導者としての顔をもつ西田さん。空手との出会いや子ども達への指導について日々感じていることを教えてください。
僕は広島で生まれた後、父の仕事の影響で福島や千葉など住む場所を転々としていました。6歳になる頃、東京の八王子市に引っ越してきて、初めてできた友達の兄が空手を習っていたのです。道場も家から歩いて数十秒のところにあったので、その友達と何となく初めることになりました。その友達とは中学の頃団体戦のチームを組み、東京一位通過で全国大会に出ることができたので本当に一緒に空手を初めて良かったと思っています。

【写真:東京都大会。真ん中に立ち仲間に声かけをする西田さん。】
自分の道場で子どもへの指導をしています。最近では、空手に追随した動きを交えたレクリエーションを行う教室を開いています。そうやって子どもと接する機会が増えていく中で、「やっぱり指導する自分自身が一番楽しい!」ということを日々感じます(笑)。昔から僕が弟たちの親代わりをすることが多く、子どものことは好きだったのですが、何よりも僕が接した子どもが目をキラキラとさせて成長していく様子が見られることが嬉しいです。
この前、自身の教室で空手未経験の6歳の子どもに「空手の帯を結んでみよう。」と問いかけたのです。最初は結び方が分からないことが嫌だったのか、近くにいた母親のところに駆け寄ってしまうばかりでした。が、しばらく経って男の子は他の帯が結べる子どもを大きな鏡の前につれていき、2人で一緒に結ぶ姿が見られました。
「僕が指導して子どもを成長させる」と意気込むよりも、「どうしたら子どもの成長のきっかけを作ることが出来るか。」と自分に問いながら子どもに接していく方が大切だと考えるようになりました。それが指導者と子どもがお互いに良好な関係を作れる糸口だと感じています。

写真:子どもたちに空手の指導をする西田さん
●5人兄弟の長男とお伺いしました。家ではどんなお兄さんなのですか。生い立ちや印象深い家族との思い出話などお聞かせください。

やっぱり「5人兄弟」というと驚かれることが多いです(笑)。1人姉がいて、弟が3人います。女、男男男男、という兄弟なので、本当に男くさい環境で育ってきました。余談ですが、今通っている高校も男子校です(笑)。
幼い頃から、父が仕事で帰ってくるが遅いので、幼いながら僕は、「家を守る!」という気持ちがあったのかもしれません。6歳の頃には既に弟が3人いたので、本当に幼い子どもに囲まれていた記憶が鮮明に残っています。7人家族は、最近の日本で言うと、ギリギリ大家族と呼べるのではないかと思います。「色々大変でしょ」と言われることがよくありますが、僕としては、たまに皆で行くレストランでの待ち時間が長いことくらいです。
(たまにやんちゃする人がいて、学校に呼び出される母は大変かもしれませんが…(笑)。)
そんな僕の生い立ちについて一言でいうならば、
何でも自由に挑戦させてもらってきた!です。
新しいことにチャレンジする環境に恵まれてきました。空手を5歳から続けながらサッカーも小学校の6年間続けさせてもらいました。また中学の時は1年間塾にも行かせてもらえました。自慢のように聞こえてしまうかもしれませんが、そのおかげで3年間連続、学年で席次一位をとることができました。空手では全国常連の高校の主将を務めることができました。話が戻りますが、こういった環境で育ってきたからこそ、子どもの周囲の人間が子どもに与える影響の大きさを強く感じています。同時に「子どもの貧困」に対して強い問題意識を抱いています

【写真:西田さんと1番下の弟の2ショット。】
●西田さんのビジョンをお聞かせください。
将来は子どもの成長を支える役割を果たしていきたいと考えております。直接的に子どもに触あうだけではなく、子どもに携わる保護者や教員の支援をする立場にもなりたいなと考えています。その為に、子どもが多様な価値観に出会える場所づくりを実現させたいです。しかしそれを実現するには官民連携が必要なため、本気で八王子市長を目指したい…。などなど、まだまだ具体化はできていません!それでも、これからは沢山のことを学んでいきたいと思っています!そのため大学に行かせてもらおうと思っているので、今は大学の受験勉強に励みたいです!励まなければいけません…!(笑)

【写真:ビジョンに向かってまっしぐら!現在の西田さん。】
●子ども達や親御さんへのメッセージをお願いします。
子どもたちには、「とことん追求」という言葉を送りたいです。今しかできないことを、ただただ深掘りしてほしいです。僕の小6の弟は今スケートボードに夢中で、夏休みは1日12時間外で遊んでいました。夏休みの宿題を最終日ギリギリで終わらせたことは褒めるべきではありませんが、僕は弟に「好きなことに熱中することは本当に良いこと。」と伝えました。学校が始まっても、僕の家には弟のスケボー仲間が毎日のように訪ねてきます。夢中になって遊ぶ弟たちですが、最近は公園で少し困ったことがあるようです。コロナウイルスの流行に伴いスケボーで遊ぶ子どもが増え、その中に一部迷惑をかける人たちがいるようです。近所から通報を受け公園に駆けつけた警察が、弟たちを迷惑行為に及んだ一部の人と間違えて注意するということがあったそうです。このことがあり弟は「公園で安全にスケボーを楽しむためにスケートパークを作りたい。」と考えるようになりました。ある日、「署名活動をしたい。」と僕に相談を投げかけてきました。弟は自分なりに調べた結果、署名活動という方法があることを知ったそうです。

【写真:スケートボードを楽しむ西田さんの弟。】
この時僕は本当に嬉しいと感じましたし、何より驚きました。スケボーを追求した弟だからこそ、社会活動を学ぶ機会を自ら得たのです。これから先、世界の技術の向上により、どんな職業が誕生するか全く分かりません。だからこそ僕は、やりたいことに没頭して、専門性をどんどん高めてもらいたいなと考えております。
親御さんへのメッセージにつきましては、もちろん僕は子育てをしたことはないですし、教師の経験もありませんので、全くもって分かりきったことを言える立場ではありません!ですから、今回は僕の母の言葉を借り、そして僕も1人の子どもとして、お答えさせて頂きます。
母に「俺たち育てるの大変?」と聞くと、いつも決まって「全く!第二の人生見ているようで楽しいよ~」と答えます。何気ない言葉に思えますが、改めて「ここで育って良かったな。」と思います。母は僕たちに「こんな風に生きてほしい。」という願いはありますが、人生の選択については何も口は出しません。母は無意識に話していることだと思いますが、「第二の人生を見ている」という言葉はこの自由な教育スタイルから生まれるのだと思います。母は僕たちを「見ている」だけで、僕たちの行動が間違っていたら否定してくれるだけなのです。この教育に僕自身救われきましたし、5人の子どもを育てている母自身はストレスをほとんど感じていないのだと思います。

【親子イラスト:提供 米光智恵】
けれども、親が抱える悩みは本当に人それぞれですよね。教育に正解はなく「一億層評論家」と呼ばれるほどです。ですから教育方針についての悩みは、誰に相談しても色んな答えが返ってくると思います。そんな複雑な悩みを抱える方に対して無責任な言葉は一切かけたくありませんが、子どもの目線から一言申し上げさせてもらうと、「愛」を持って子どもと接してほしいです。ここでいう愛というのは、その子らしさを尊重してあげることだと考えています。その子がやりたいこと、感じたことを否定しないであげること、これが教育や子育てに関する「愛」だと考えています。紛らわしくはなりますが、その子どもが間違ったことをしている時だけ注意をしてあげてください。このようにして子どもと向き合うことで、子どもも大人も楽しく成長できるのだと思います。

【親子イラスト:提供 米光智恵】
●学校現場や福祉の現場、専門職の方々へメッセージをお願いします。

この半年間で、僕は多くの教育関係者や行政機関の方々と出会うことができました。この半年間は、教育という国家の根幹であり、大変未知である分野に片足だけ踏み入れてみた時間となりましたが、日々子どもに携わる難しさを実感しております。その難しさを踏まえた上で、
「何にもないから何でもある」
という言葉を紹介させて頂きます。この言葉は、僕が昨年末空手を教えるために訪れた沖縄県国頭村にある小学校の校長先生が仰っていた言葉です。その小学校は全校生徒が8人と、とても小規模な学校だったのですが、子どもたちの活発さと素直な好奇心が記憶に鮮明に残っています。そこで校長先生が、
「この村には遊ぶ場所も塾も習い事もなければ電車もない。だけどここには村全体で子どもを育てる共助がある。この共助こそが子どもの成長にとってのすべてなのです。何にもないから何でもあるのです。」
と仰っていました。この村では、子どもが既に巣立った家庭の方まで村の子どもの名前を把握しているほど、子どもを育む体制が自然にできていました。僕はこのような未だ地方には見られる地域の共助こそが日本の古き良き最先端の教育であると感じました。

【子どもイラスト:提供 米光智恵】
しかし、核家族化が進み、地域共助の希薄化が進んでいますよね。この現状は、子どもに携わる機関の方々の活動をさらに難しいものにしていると思います。そんな中で、こんなことを申し上げるのはいかがなものかと思いますが、やはり地域には共助が大切で、この共助が生まれることで、現場の方々のご活躍が一層邁進されることと思います。そこで、地域住民の社会参画が必要になってくるのです。現場のリアルな声というものが説得性を増し、共助を生むきっかけになると思います。お忙しいところだとは思いますが、一度、地域共助を生み出すきっかけとなるような取りくみを、各機関が連携し行ってくだされば良いなと考えています。

【学校イラスト:提供 米光智恵】
●その他活動、今後チャレンジしてみたいことが有ればお聞かせください。
今チャレンジしていきたいこと。それは、実際に子どもたちを招き、「どう生きるか」を考える機会を設けることです。そんなに重いテーマではなく、
「こんな職業もあるんだ!」といった新たな気付きを子どもたちの中に生み出したいのです。そしてこの活動にはもう1つのテーマがあります。それは、
「職に対する偏見をなくす」ということです。何となく、「この職業にはつきたくないな。」という考えのある子どもは多いと思います。正直、僕もそうでした。だけど、本当に社会に出て働く人たちを見ていると、すべての職業が社会には必要で、本当に皆さんかっこいい!
ここからは完全に持論となってしまいますが、
〝所得に最大の価値を見出し、子どもに勉強を強いている人〟より〝前者より所得が低くても自身の職に誇りを持っていて、美味いビールを飲みながら、子どもに「勉強しといた方がいいぞ~。」というぐらいに言ってくれる人〟の方が子どもにとっては良い気がします。
子どもたちがもし、職業に対する偏見を少しでも抱いているならば、子どもたちが自発的に「どう生きるか」を考える機会が大切になってきます。そのために、所得を超えた考え方を感覚的に知ることができる活動を行っていけたらと考えています。

【子どもイラスト:提供 米光智恵】

【西田考佑さんの空手実績】
東京都大会中学生
 
1年次 2位
2年次 2位
3年次 3位
東京都大会高校生
団体優勝 全国出場

〈子どもの貧困対策に関するミーティング資料〉

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