私の好きなこの場所 水彩画デモンストレーション 中学美術科

愛心愛燐の精神に満ちたヴォーリズ建築。
学舎は戦災と震災という2つの大禍を経て今も生徒たちを包みこみます。

この水彩画デモンストレーションの動画を見ていただく前に、なぜこの題材があるのかという問いに答させていただきたいと思います。今回のモデルとなっている神戸女学院は2025年に創立150周年を迎えます。創設当時からこの学舎は多くの作家によって描かれてきました。

ヴォーリズ建築を描くスケッチの会や、生徒たちの美術の授業の中で、長きに渡り取り組まれてきた伝統の題材です。今までもこれからも、守り続けられる伝統。150年分の卒業生たちの想いや志が詰まった学舎に「ようこそ」と声をかけられたような気がして、筆を手にとらずにはいられなくなりました。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズについての
 鑑賞動画はこちらをご覧ください。

https://youtu.be/qjVXVmaUZqc

●伝統の題材と向き合う
 〜美術教師の役割を考える〜

伝統とは一体何でしょうか。
筆者は〝先人の想いや、その想いが詰まった作品〟
と捉えています。伝統は、私たちが自分なりの見方・感じ方・考え方でそれら鑑賞し、つくってはつくりかえる過程の中で新しくされ、次の世代へと継承されていきます。

美術科の授業においては、
生徒たちが『自分ごと』として捉えることのできる題材の設定、または題材自体のアップデートが必須となります。

生徒たちにとっての『自分ごと』とは何なのかを
考えた時、このような問題提起があげられます。

6W1H

Who 誰が表現するのか
To whom 表現したものを誰に伝えるのか
What 何を表現したいのか
Why なぜ表現したいのか
When いつ表現したいのか
Where どこで表現したいのか
How どのように表現したいのか

これは筆者が大人の図工塾youtube 動画を配信するにあたり、ゴスペルの指導を配信する音楽の師に提示された言葉ですが、美術の指導においても同じ提示ができると考えています。

〝題材があって生徒が居るのではなく、
 生徒が居て題材となっていく。
 表現する前の段階で生徒の納得があるのか。〟

この視点に立つ時、題材の使い回しが存在しないことが分かります。納得の先に見える信頼をつかむ努力ができるのかが美術教師に問われているセンスのように思います。そして努力とは学術論文を書き、学会で美術の定義を唱え合い、批判し合うことより先ず、

〝手を動かし、目を使い、足でかせぐ〟

ことです。美術はその必要性が常に問われている教科でもあります。先日、美術の師との対話の中でこのような言葉を交わしました。

〝教育は今日行く。〟

美術は時に、机上で完結する教科だと勘違いされることがありますが、これほどまで肉体労働に近い教科はないと言えるでしょう。

汗水を流し、身体を壊してもなお創作し続ける教師の姿から彷彿せられる先人の姿があります。
高さ21メートルの足場から転落しても教会の天井画を描きつづけたルネサンスの巨匠ミケランジェロの話に
心が震えます。

また、美術は『美』の『術』と書きます。
その字の通りに解釈すれば、生徒の創造的な技能の習得に力を注ぎ、その部分のみを評価してしまいがちですが、美術科が目指しているものは『術』そのものではないのです。

『術』に込められた作家の想いに触れ、触れたモノ、コト、ヒト(経験)から自分なりの見方・感じ方・考え方に出会うことなのです。出会いと別れと決断という『営み』を美術を通して学ぶのです。

『まなぶ』は『まねぶ』とも読みます。

真似ることから拝借し、拝借したものが自分の表現になっていきます。そんなメッセージを生徒たちに伝えていけたらいいなと思う今日この頃です。

●最後にコロナ禍での美術の先生方との交わりを通して思うこと

「一生懸命に生徒に向き合っているつもりなのですが…なぜ授業がうまくいかないのか。」
(Why)

「どうすればあんな先生になれると思いますか…」
(How)

「いつ、どのタイミングで評価しますか…」
(When・Where)

先生方が現場で抱える疑問は、まさに先に述べた6W1Hの連続でした。

筆者自身、対話の結びとしてふさわしい言葉を一生懸命に探るのです。しかし、どうあがいてもこの言葉に落ち着くのです。

『不明確さの中にこさ美しさがある』
         -クリスチャン・ボルタンスキ

可視化することで生きやすさを探る私たちにとって、不明確さと向き合いながら生きていくのは辛いことです。けれども、不明確さが美や創造性を生み出し続ける事実があります。

未完成のバベルの塔や片腕のヴィーナスに心を動かされるように、可視化できないものから得られるアイデアや与えられる恵みがあります。

正解がないからこそ温め続けることのできる分野に携わっているということ。子どもたちとまなび、まねび続けることができる日々が感謝であること。

先生方との対話の中で、そのような気づきが与えられています。

       大人の図工塾管理人 米光智恵
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私の好きなこの場所 水彩画デモンストレーション 中学美術科 https://youtu.be/RmiKAJacTmg

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