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『いのちの車窓から』を私なりに解釈してみた

みなさんは「コップの水理論」をご存知でしょうか?
コップの中に入った半分の水に対して「まだ半分も残っている」と思うか、それとも「もう半分しか残っていない」と思うか。この理論が意図するもの、それは「ものごとは捉え方次第」ということです。

今回私が紹介するのは、シンガーソングライター・星野源さんの『いのちの車窓から』という本です。
この本は、著者が自分の身の回りで起きるできごとを綴ったエッセイ。誰もが知っている有名人とのエピソードなどが織り込まれており、飽きることなく読み進めることができます。
日常を描いた本ではありますが、著者の独特な感性とものごとの捉え方にきっと心動かされるはずです。

著者「星野源」さんの魅力とは


著者である星野源さんはシンガーソングライターとしての肩書きだけでなく、俳優や多数の連載や書籍を著している文筆家としてもマルチに活躍されています。
私が著者の存在を知ったのは学生時代。SAKEROCKというインストゥルメンタルバンドのボーカルでした。バンドが解散し「星野源」としてソロ活動をしはじめてからは、その心に染み渡る声と耳に残る柔らかいメロディの虜となり、寝ても覚めても脳内で楽曲が再生されるほどファンになっていました。

私が思う著者の魅力を2つ紹介します。
1つ目は人並外れた才能を持っていること。見た目は爽やかで柔和な印象ですが、シンガーソングライター・俳優・文筆家と多くの才能を持っています。
2つ目はあけっぴろげな性格。著者はラジオや連載などでみずからを「変態」だと話しています。私も実際、ライブのMCで下ネタを飛ばしているのを聞いたことがあり、その両者のギャップが魅力的だと感じています。

今回紹介する『いのちの車窓から』は、雑誌『ダ・ヴィンチ』で2014年12月号より連載をスタートした、エッセイを単行本化したものです。私自身が著者のファンであること、著者のエッセイを読んだことがなかったこと、交流のある有名人とのエピソードに興味を持ったことからこの本を手に取りました。

著者の窓から見える世界


”仕事以外の時は眼鏡をかけているので、たいていの出来事はレンズ越しに見ることになる。”

エッセイはこのような文章から始まります。
著者はレンズを窓にたとえ、その内側に自分がいて外側を眺めている感覚で世界を見ているといいます。自分のことなのにどこか他人事のような、独特なものごとの見方ですよね。
そしてこのような表現もしています。

”人生は旅だというが、確かにそんな気もする。自分の体を機関車に喩えるなら、この車窓は存外面白い。”

著者は窓というフィルターを通してどのような世界を見ているのでしょうか。私が特に印象に残ったエピソードから、著者の見る世界を覗いてみましょう。

ー人見知りー

”「お前ウザイよ」”

幼い頃にそう言われて以来、著者は人に嫌われないように性格を歪め「人が好きではない」と思おうとしていたといいます。社会に出てからも自分のことを「人見知りなんです」と説明し、人に嫌われたくないあまり、コミュニケーションを取ることを放棄していたそうです。
ある日著者は、いつものように「人見知りなんです」と説明している自分にふと恥ずかしさを覚えます。自分のことを人見知りだと説明することは「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を使ってください」と宣言していることと同じだと思ったようです。それに気づいてから、みずからを人見知りだと思うことをやめ、心の扉は常に鍵を開けておくようにしたといいます。

著者は幼い頃のトラウマから自分を偽り、そのままの自分を許容しなくなったものの、努力を怠る人間だと宣言することに恥ずかしさを覚え、人との向き合い方を改めました。人はコミュニケーションに失敗すると、そこから人間関係を学び成長します。
誰しも「相手に好かれたい、嫌われたくない」と思うことはあっても、相手に自分の気持ちを伝える努力を忘れない、そのような著者を見習いたいと思ったエピソードでした。

ーYELLOW VOYAGEー

”現在という名の適度な重さの野球ボールを、その辛い期間が終わったずいぶん先にいる自分へ届くように思いっきり高く、遠くに投げるように想像する。”

これは著者が息苦しさやプレッシャーを感じたときの対処法です。
みなさんも期限に追われたり、大きな仕事を任されたことによるプレッシャーに押しつぶされそうになった経験はありませんか?辛く苦しいできごとに直面したとき「じゃあ頑張ろう」などと即座に切り替えて前向きに捉えることは難しいですよね。
ですが、すべてが終われば楽しい思い出と充実感が心を満たしていた、という経験もしたことがあるはずです。辛く苦しいできごとが終わったときの自分をしっかり想像することで、そこまでタイムリープしたような感覚に陥ることができると著者はいいます。
たしかに、ものごとの終わりが想像できれば「失敗するかもしれない」などと毎日考えながら緊張感に押しつぶされることがなくなり、目の前のことに素直に集中することができます。集中力が高まると時間の経過も早く感じ、より一層山を越えた感覚を味わう瞬間が近づく。プレッシャーに弱い私にとって著者のものごとへの向き合い方は、とても好感が持てます。

自分の窓から見える世界


”そのままの自分を認められない、偽らずにいられない、誰かに馬鹿にされる前に自分で自分のことを悪く言い「わかってますよ」と傷つかないようにバリアを張った。”

10代から20代にかけての著者は自信がない自分を正当化していたといいます。そのままの自分を認められず、自分に嘘をつき、人と違うことをアピールしようとすることは誰にでもあることだと思います。著者が変わったきっかけは「自分はひとりではない」と思えたことだったそうです。誰かが助けてくれた、優しくしてくれた経験が積み重なることで「人を好き」になり「そんな自分が好き」になります。
著者にとっての窓はたくさんあり、どの窓から景色を見るかで考え方が変わり、幸せを感じられるようになった。
これもまた、ものごとの捉え方ですね。

私はこの本を読んで、ゆっくりとしたペースで語られる言葉が、胸の奥にスッと染み渡る感覚を味わいました。それと同時に「自分自身を好きでいられること」「人を好きでいられること」は幸福感をもたらすと感じたのです。
日常のできごとにおいて事実は一つです。
ですが「自分の窓」からどのように世界を見るかによって「生きる楽しさ」が変わると私は思います。せっかく窓から世界を見るのなら、よい景色が見える窓から見たいですよね。それはみなさんがものごとをどのように捉えるかと同じなのです。

『いのちの車窓から』は、ものごとの捉え方を教えてくれる本です。ぜひ手に取ってみてください。


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