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ひよこが、ついに、前まわりを

鉄棒の、前まわり。

ひよこが通う保育園では、年齢別に週に1回、体育指導があります。30分ほど、体育専任の先生と運動遊びをする時間。先週のその日の夕方、保育園にお迎えに行くと、受付で体育の先生に呼び止められました。曰く、「ひよこちゃん、ついに、前まわりできましたよ!!」。えー! ほんまですかー!

ひよこは、鉄棒を支点に上体を前に倒すことに恐怖心があって、ずっと「お布団」のポーズができなかったんです。10月の運動会の演目で、ほかの年少組のみんながくるっと前まわりを披露するなか、ひとり「お布団するフリ」で禊を済ませました。足を踏み台(代わりの跳び箱)から離すことが、どうしてもできない様子で。夫もわたしも、「いずれできるようになるっしょ」と鷹揚に構えて……というと聞こえがいいけれど、つまるところ、どうやったら恐怖心を取り除いてあげられるかがわからず、できたのは「こだわらない」ことだけ。本人がなにか話題にあげない限りは、とくに声掛けせず。先生におんぶにだっこでした。先生方はあれやこれや試みてくださって、最終的に、逆に、逆上がりの要領で鉄棒にお腹を乗せる(もちろん先生のアシスト付き)ことで、「お布団」のポーズを克服できたそうです。

週末、家の前の公園で、夫とわたしに披露してくれました。踏み台には、ついこの間までトイレで使っていた台――身長が伸びてお役御免に――を持ち出して。ばっちり「お布団」できていました。そして、しっかり鉄棒を握ったまま、くるりんと着地。両足を揃えて両手を広げて、はい、ポーズ。

おぉぉぉぉ! できたー! すごい! かっこいー! 親バカ全開でギャラリーは大盛り上がり。

わたし自身、結局逆上がりができないままに大人になったタイプで、小学校時代、鉄棒の時間は苦痛だったんですよね。逆上がりができなくても大人になってなーんにも困ることはないけれど、鉄棒の時間のあいだじゅう身に刺さっていた「いたたまれなさ」、あれは辛かったなぁ。ひよこの保育園では、年長さんになると運動会でひとりひとり逆上がりを披露することになっているので、できれば、ひよこには逆上がりのできる人生を歩んでほしいなと思うのです。

まずは、鉄棒を嫌いにならずに前まわりができるようになってよかった。導いてくださった先生方にほんとうに感謝です。それだけが人生じゃない、でも、それができたら愉しいよ、肩が軽くなるよ。の、なんとまぁ、多いことよ。

自分で自分に呪いをかける生き方はしんどいっつうの

柚木麻子「本屋さんのダイアナ」

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