戦力外通告無しで育成再契約できるの?
ところで戦力外通告は10月に各球団から個別にリリースされるが、NPBがまとめて発表するのは12月になることをご存じだろうか?
球団と支配下選手の参稼報酬契約は2月1日から11月30日までの期間であり、球団が来季の選手契約を行う支配下選手は、12月2日に「全保留選手名簿」として公示されることが「日本プロフェッショナル野球協約」第67条に定められている。
この「全保留選手名簿」に掲載されなかった支配下選手は、同時に「自由契約選手」として公示されることになる。
2018年12月2日公示の自由契約選手を見れば分かるが、現役引退した小谷野栄一選手や佐藤達也投手、減額制限を超えた来季年俸オファーのため退団を選んだ金子千尋投手や中島宏之選手、育成選手としての再契約を選んだ塚原頌平投手や本田仁海投手、戦力外通告を受けた佐藤世那投手や園部聡選手、みんな同じく「保留されない選手」として公示されている。
この公示からは誰がどのような理由で自由契約になったのか全く分からない。
各チームとも来季の陣容が固まりつつある12月になってから自由契約になったのでは他球団との契約が難しくなってしまうため、10月の早い時期に球団が「戦力外通告」をするというルールが2008年に作られた。
支配下選手を育成選手として契約し直す場合には、一度自由契約にする必要がある。
このことは「日本プロ野球育成選手に関する規約 」第9条2項に定められている。
球団が支配下選手を育成選手に移行させるときは、野球協約第58条(自由契約選手)の手続をとった後でなければならない。なお、参稼期間中に支配下選手を解除した球団は、その年度中にその選手と育成選手契約を締結することはできない。
オリックスは2019年10月22日に黒木優太投手、山崎颯一郎投手、鈴木昂平選手、岡崎大輔選手の4名と来季の選手契約を行わないことと発表した。(第2次戦力外通告)
このうち黒木投手と山崎投手の2人は今季トミー・ジョン手術を受けており、来季中の一軍登板が困難であることから、育成選手契約を結びなおすために一旦戦力外通告が行われた。
岡崎選手は当初去就が不明だったが、育成選手契約を結びなおすことが報じられた。
今オフ話題になったのが東北楽天の西巻賢二選手である。
地元・仙台育英高校出身の高卒2年目で、大きな怪我が無いにも関わらず、育成選手契約を打診されて戦力外通告を受けた。
「もし他球団から話があれば」とのことだったが、千葉ロッテから声がかかり、来季も支配下選手としての契約を勝ち取った。
このように育成再契約の場合、一旦戦力外通告をするのがルールであったにも関わらず、戦力外通告無しに育成選手契約を結びなおすケースが出てきた。
阪神の牧丈一郎投手と横浜DeNAの田中健二朗投手が11月13日に、中日の丸山泰資投手と石岡諒太選手が11月19日に、球団との契約更改の場で来季から育成契約となることが発表された。
彼らは4人とも球団から自由契約となったことがリリースされないまま、いつの間にか育成選手として再契約されていた。
このことはネット上で少なからず話題になっていたが、一般紙やスポーツ紙等の大手マスコミでは管見の限りで目にすることができなかった。
そもそも「戦力外通告」に関するルールは公開されていないことはご存じだろうか?
我々が球団リリース等で目にすることができる戦力外選手のリストと、実際に12球団に公示されるリストは異なっていると考えなければ不自然な点がある。
阪神の鳥谷敬選手と東北楽天の嶋基宏選手はいずれも球団の功労者で、昨年まではフランチャイズプレイヤーとして同じユニフォームのまま引退を迎えると思われていた。
ところが球団は来季の契約を結ばないことが報じられて大きなニュースとなった。
では鳥谷選手と嶋選手が自由契約になったことは球団からリリースされているだろうか?
答えは「NO」だ。
嶋選手に関しては10月21日に球団事務所を訪れた際、記者会見で自由契約になったことを自ら説明しているが、そのことに関して球団からの公式リリースは一切ない。
NPBからも自由契約の公示が無いまま、東京ヤクルトは嶋選手の獲得に関して合意に至ったことをリリースしているのだ。
鳥谷選手に至っては8月29日の「引退勧告」報道以来、その去就が公式リリースでは触れられないままになっている。
仮に鳥谷選手が戦力外通告を受けていなければ、他球団は鳥谷選手の獲得調査をすることもできないはずであるが、鳥谷の移籍報道がほとんど皆無であるのはまさかそのせいではあるまい。
つまりNPBおよび選手会に提出している戦力外リストが別にあり、それに基づいて各球団は来季戦力として調査を行っていると考えるのが妥当である。
鳥谷選手や嶋選手のような球団の功労者を他の戦力外選手と一緒にリリースはせず、「最大限の配慮」をしたというポーズを示しているのだろう。
彼らのような有名選手は自由契約になったことをマスコミが放ってはおかないが、「一軍半」の選手の育成再契約はどうだろうか?
戦力外通告で報道されなければ、契約更改時にいつの間にか育成再契約されていても気付く人は少ない。
NPB他球団の編成は公示で目にすることはあるはずだが、それもNPB組織内の理屈に過ぎない。
仮にMLB球団の編成が獲得したいと思っても、いつの間にか育成再契約されているわけである。
NPBの外に対して機会均等が認められていない現行のルールは著しく問題があると考える。