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エクスパンションの方法

具体化するエクスパンション議論

プロ野球開幕の兆しが未だ見えぬ4月4日、フジテレビ系列の基幹局であるテレビ西日本の番組内で、古田敦也氏はエクスパンション(球団拡張)について次のように語った。

NPBに所属するプロ野球チームの本拠地ではない静岡市、新潟市、松山市、沖縄県の4自治体は2015年から協議を始め、球界参入へ向けて準備中という。その主要メンバーであることを明かした古田氏は「16球団構想は今もう、既にやっている」と話した。

これがソフトバンク王貞治球団会長の16球団構想と関連する動きであることは恐らく間違いないだろう。

日本プロ野球としては1954年の高橋ユニオンズ参入以来、約70年ぶりのエクスパンションに向けて議論が具体化してきている。

しかし私はまだ時期尚早であると考える。

古田氏らは静岡市、新潟市、松山市、沖縄県の4自治体を前提としてエクスパンションの議論を進めているようだが、その4自治体は果たしてプロ野球チームのフランチャイズとして耐えうるものなのかという疑問が拭えない。

新潟市にはルートインBCリーグの新潟アルビレックスが、松山市には四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツが、それぞれ10年以上活動を続けているが、沖縄県は今年ようやく琉球ブルーオーシャンズが発足したばかりであり、静岡市に至っては独立リーグのチームすら無い状況である。

古田氏は「とりあえず2球団」と簡単に言うが、エクスパンションをするからには責任をもってやらなければいけない。

オリックス湊通夫球団社長は、マイナーリーグでエクスパンションを行うことを代案として提示している。

「1つのトップリーグに2つのマイナーリーグを持って活動するのも一つの考え方だと思います。これだと既存の1万人収容の地方球場が使えるので、新規設備投資はいらないですから」
トップリーグ1チームに対し、マイナーリーグ2チームが傘下に入る。現在の2軍はそのままに、新たに地方球場を本拠地とする12球団を加える。幸いにも日本にはたくさんの球場が現存する。新たな投資がなくても、施設が賄えるというわけだ。

オリックスは来年以降の3軍制導入を検討しており、全12球団でこれを進めようという意見と言える。

この2つの折衷案として、2軍を20球団に拡張し、その中から1軍のフランチャイズに耐えうる4チームを将来的に1軍へ昇格させるというのはどうか。

メジャーリーグの事例紹介

メジャーリーグでは戦後6回もエクスパンションを行い、14球団もの新しいチームが増えている。

・1961年のエクスパンション:Los Angeles Angels, Washington Senators
カリフォルニア州ロサンゼルスは58年からドジャースがフランチャイズとしており、ワシントンDCは60年までミネソタ・ツインズがフランチャイズとしていた都市であった。
新生セネタースは72年にテキサス州アーリントンに移転した。(現在のテキサス・レンジャーズ)

・1962年のエクスパンション:Houston Colt. 45s, New York Mets
ドジャースとジャイアンツが西海岸に移転したニューヨークにメッツが誕生した。
テキサス州ヒューストンには61年まで3Aレベルのヒューストン・バフズがあり、メジャーリーグ球団を誘致するだけの下地があった。(現在のアストロズ)

・1969年のエクスパンション:Kansas City Royals, Montreal Expos, San Diego Padres, Seattle Pilots
ミズーリ州カンザスシティは67年までオークランド・アスレチックスがフランチャイズとしていた。
カナダのケベック州モントリオールは、かつてジャッキー・ロビンソンがプレーした3Aレベルのモントリオール・ロイヤルズが60年までフランチャイズとしていた。(エクスポズは05年にワシントンDCへ移転する。現在のナショナルズ)
カリフォルニア州サンディエゴには同名の3Aレベルのチームが、ワシントン州シアトルには同じく3Aレベルシアトル・レーニアズが前年まであり、メジャーリーグ球団を誘致するだけの下地があった。(パイロッツは翌70年にウィスコンシン州ミルウォーキーへ移転する。現在のブルワーズ)

・1977年のエクスパンション:Seattle Mariners, Toronto Blue Jays
ワシントン州シアトルはパイロッツの移転後、再びメジャーリーグ球団の招致に成功した。
カナダのオンタリオ州トロントには67年まで3Aレベルのトロント・メープルリーフズがあり、メジャーリーグ球団を誘致するだけの下地があった。

・1993年のエクスパンション:Colorado Rockies, Florida Marlins
コロラド州デンバーには92年まで3Aレベルのデンバー・ゼファーズがあり、メジャーリーグ球団を誘致するだけの下地があった。
フロリダ州マイアミにも同名の3Aレベルのチームがかつてあったが、それは33年前まで遡ることになるが、キャンプ地として知られていたため誘致に成功した。

・1998年のエクスパンション:Arizona Diamondbacks, Tampa Bay Devil Rays
アリゾナ州フェニックスには97年まで3Aレベルのフェニックス・ファイヤーバーズがあり、メジャーリーグ球団を誘致するだけの下地があった。またキャンプ地としても知られていた。
フロリダ州タンパベイ地区にはそれまで3Aレベルのマイナーリーグチームすら無かったが、フロリダ同様にキャンプ地として知られていたため誘致に成功した。

フランチャイズを維持できたのは14球団中11球団であるが、マイアミとタンパベイは観客動員で毎年最下位を争っており、キャンプ地だからという安直な理由での球団誘致が必ずしも成功するとは限らない。

2軍エクスパンション私案

現在日本プロ野球の2軍はイースタン・リーグ7チームとウエスタン・リーグ5チームの計12チームがあるが、これをイースタン・ウエスタンともに10チームまで増やすのが第1フェーズである。

拡張される8球団はいずれも12球団傘下ではない、独立した2軍チームである。

イースタンには宇都宮市、新潟市、静岡市の3都市が妥当だろう。

ウエスタンは京都市、岡山市、松山市、熊本市、那覇市の5都市を選んでみた。

ここでは古田プランに含まれなかった4都市の魅力を紹介したい。

・宇都宮市:都市圏人口110万人
関東最後のフロンティアと言えるのが宇都宮市である。
ルートインBCリーグでも栃木ゴールデンブレーブスは唯一、毎試合平均で4桁の観客動員を達成している「優等生」である。
本拠地候補となる清原球場は収容能力3万人であり、22年に宇都宮LRTが開通すると、宇都宮駅から30分弱でアクセス可能になる。
また周囲はホンダやキヤノンなど日本を代表する優良企業の工場が多く、地域住民の動員も行いやすい環境にあると言える。

・京都市:都市圏人口280万人
松竹ロビンスの合併以降、今までプロ野球チームが無かったことの方が不思議なほど、人口ボーナスのある都市である。
京都府内だけではなく、大津市など滋賀県から通勤通学する人も多い。
本拠地候補は西京極球場(通常「わかさスタジアム京都」)で、1軍公式戦開催実績も多いが、収容能力2万人は将来的に昇格を目指すならば改善する必要がある。

・岡山市:都市圏人口153万人
中四国の結節点であり、テレビ放送では岡山県と香川県が相互乗り入れを行っており、香川県を準フランチャイズとして試合を行えば市場が広がる可能性もある。
本拠地候補である倉敷球場(通称「マスカットスタジアム」)は毎年のように1軍公式戦が開催されており馴染み深いが、アクセスはあまり良くない。
岡山市内の岡山県野球場を拡張できればよいのだが。

・熊本市:都市圏人口111万人
都市圏人口として傑出はしていないものの、人気球団である福岡ソフトバンクの近くであり、観客動員もある程度見込めるのではないか。
本拠地候補である藤崎台球場は熊本城公園内にあり、観光客の動線上にあることもストロングポイントと言える。
社会人野球の熊本ゴールデンラークスが九州独立リーグ発足を目指していることもあり、連携した動きになればあるいは。

第1フェーズでは既存12球団+拡張8球団で3~5年ほど2軍を運営し、1軍のフランチャイズに耐えうる都市を見極める。

拡張8球団は育成選手のルーキードラフトと現役ドラフトで各チーム30人ほどから始める。

支配下昇格レベルまで育成に成功した選手は、1軍球団との金銭トレードを行えることとする。

独立リーグと共存する

私案では既存の独立リーグとの共存繁栄を前提としている。

宇都宮、新潟、松山、那覇には既存の独立リーグ球団が存在するが、8球団拡張の際はその母体となってもらう一方で、従来のチームは3軍として存続させ、ルートインBCリーグや四国アイランドリーグplusも従来通りの活動を続けるのである。(香川オリーブガイナーズが岡山球団傘下の3軍になるのも面白いかもしれない)

そして福岡ソフトバンクや読売など財政的に余力があり、3軍チームを保有できる球団もまた、3軍レベルでは独立リーグに参戦し、プロ野球の裾野を広げていくべきである。

そして16球団へと

第2フェーズとして2球団ないし4球団を1軍に昇格させることになる。

拡張8球団を財務的な評価を公平に行い、昇格チームを決めることが相応しいのではないか。

2球団が1軍に昇格するとなると、その2球団分の2軍チームを増やす必要があるので、昇格できなかった6球団のうち昇格の可能性が乏しい2球団にはどこかの傘下に入ってもらうことになる。

とはいえ昇格球団の傘下2軍チームが本拠地から離れたところでは経営的に足枷となる可能性が高いため、既存12球団の2軍移転を誘致してもよいだろう。

そして最終的に6~10年ほどをかけて1軍16球団、2軍16球団、3軍レベルの独立リーグを全国に広げることができればよいのではないか。

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