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『致知別冊「母」2023』発刊に込めた編集長の思い

2019年6月、弊社から刊行された『致知別冊「母」』。
子育て層のお母さんたちを読者対象とした致知出版社初の試みでしたが、おかげさまでシリーズ累計66,000部を突破と、大変ご好評をいただいています。そして、令和6年6月、シリーズ5冊目となる『致知別冊「母」2024』が発刊されます。本書の企画から販促、イベント開催までを一手に担ってきた『母』編集長 藤尾佳子の『致知別冊「母」2023』「発刊に寄せて」をお届けします。

母の日の日曜日、駅前のお花屋さんは、プレゼントの花を買い求める人で溢れていました。幼い子どもを連れたお父さん、20歳くらいの女性、50代くらいの男性……。

たくさんの人が訪れるその中で、小学校5年生くらいの女の子が一人、真剣な眼差しで花を選んでいる。どのお客さんよりもジーっと長く慎重に花を選んだそのあとで、「これ」と決めた花を、嬉しそうに店員さんに渡した。私が会計をしているその横で、女の子は、たくさんの10円玉を手のひらに乗せて、若い店員さんと一緒に、一所懸命にお金を数えていました。

「あぁ、自分で貯めたお小遣いで、お母さんにお花を買ってあげるんだ」

嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな、何とも言えない表情としぐさから、お母さんを喜ばせたい幼い彼女の一所懸命な想いが溢れるように伝わってくる。その姿があまりに純粋で、健気で、胸に込み上げてくるものがありました。

 アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが提唱した、有名な「欲求五段階説」。マズローは「生存欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階の上に、第6段階の欲求として「自己超越欲求」が存在することを晩年に発表したといいますが、この女の子の姿は、まさに自己超越の段階にあるように見えました。 

「子どもに対する母親の愛は、もっとも利己心のない愛である」

と芥川龍之介は言ったといいます。母は子に、無償の愛を与える。それも事実だと思います。しかし、自分自身が母になり、子どもが母親に与えてくれる愛情もまた、最も利己心のない、無償の愛だと感じることが少なくありません。一所懸命に親を求める子どもの姿から、自分を 必要としてくれている大きな愛を感じ、母として成長していく。互いに愛を注ぎ合うことで、親子の心は共に育っていく。それもまた真実だと感じます。

 2019年に第一弾を刊行した『致知別冊「母」』も、今号で5冊目、創刊5周年となります。

今回のテーマは「子どもの自己肯定感を育む 子育ての人間学」です。

「自己肯定感」という言葉を辞書で調べてみると、「自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する語」とあります。自分自身の「あり方」や存在を肯定的に捉える力である「自己肯定感」を育むことが、人間が幸せな人生を送っていくための土台となる。先の「自己超越」の欲求も、自己肯定感が育まれた結果かもしれません。この自分自身の「あり方」や存在を肯定的に捉えるための学びが、私たち致知出版社が45年間一貫してお伝えしている「人間学」です。

「人間学」とは、「過去にも未来にもたった一つしかないこの尊い命をどう生きるのか」――それを学ぶのが人間学です。たった一度の二度とない人生。自分の人生の主人公は自分であるということ。私たちは一人ひとりが、過去にも未来にもたった一つしかない命を生きている。そして、一人ひとりに生まれてきた意味がある。どんなに時代が変わっても変わらないこの不変の真理を知ることは、自己肯定感を高める上でとても重要なことです。

しかし、人の生き方、「自分という人生をどう生きればいいのか」という、人間にとって一番大切なことを、いま学校では教えてもらえません。親である私たちも、そういうことを学ばないまま大人になり、親として生きています。

「やり方」という横軸を模索していると、隣の芝が青く見えて不安になるものです。

「あり方」という縦軸が定まることで、人は人生に対する大きな安心感を抱くことができます。

「夫(そ)れ学は通(つう)の為に非(あら)ざるなり。窮(きゅう)して困(くる)しまず、憂えて意(こころ)衰えざるが為なり。禍福終始を知って惑わざるが為なり」と、東洋古典の『荀子』は説いています。

人は、立身出世のために学ぶのではない。人生の中で、困窮しても苦しまず、憂えても心衰えず、人生の禍福吉凶を味わっ ても、惑わないために学ぶのだ、という意味です。この「学」とは、まさに人間学のことです。

子どもたちが、安心して幸せに心豊かに人生を生きていくためにも、子育てに携わるお父さんお母さんに、人間学を届けたい。親自身が人生に対して大きな安心感を持つことは、子どもたちの人生の大きな大きな道標(みちしるべ)となるはず。それが、子どもたちの自己肯定感を高めていくことになるのではないかと私たちは考えています。

子育ての「やり方」に関する情報が溢れるほど存在する現代の中で、『致知別冊「母」』は、「あり方」をお伝えする唯一の子育て本として歩んできて、今回で累計6万部となります。子育てに携わるお父さんお母さんの心の栄養となり、人生の根となり幹(みき)となることを願って、『母 2 0 2 3 ――子どもの自己肯定感を育む「子育ての人間学」』、ここに発刊いたします。

  

令和5年6月吉日 『母』編集長 藤尾佳子