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ファイター

君が一番音楽が入ってくる姿勢で聞いてください。

藤くんがそう言ってpinkieを歌い始めた。
きのう京セラドームへBUMPのライブへ行ってきた。

これまでライブへ行っても自分が表現する側ではなく、観客側にいることがどこか嫌で没入できなかった。でも昨日は少し違った。

それぞれの曲で自然と腕を振ることができた。
初めてだった。まだ恥ずかしさが半分以上あるけど今に集中できた感覚があって自然と身体がビートを刻んだ。

自分が少し普通になれた気がした。

藤くんは凄く声が出ていた。怖いくらいに。
自分もあんな風に歌いたいと思った。
曲が終わったとき、おれもボイトレに行こうと決めていた。

藤くんが歌いながら移動する。記念撮影を歌っているときは歌詞に合わせてカメラを覗くようなジェスチャーもした。
違う曲では腕を広げマイクを振り上げた。

あんなに全身で歌う藤くんを初めて見た。

ライブの途中、歌の間奏の合間に藤くんは言った。
めちゃくちゃカッコいいバンドBUMP OF CHICKENです。
本当にそうだと思う。
いま書いていて泣きそうになっている。昨日のライブの中で自分が変わってしまったようだ。

どんな風に変わったのか分からない。けど今より少しマシなものになっていたいと願う。

pinkieのラスト、ギターの弦を掻き上げてステージが暗くなり、全ての楽器の音が一瞬にして消えた。
会場が拍手に包まれた。
カッコ良かった。

別の曲ではギターを立てて弦をバンと弾き曲が終わる。
まるでジャズやミュージカルを見ているような気がした。

力強く繊細な演奏と歌声はコロナでライブが出来なかった期間により強くなった。
物凄く練習したんだと思った。そして藤くんが職人に見えた。

歌で戦う戦士。
職人とはそれでしか自分を表現することが出来ない人の事を言うのだ。

アンコール曲のラスト、ガラスのブルースのイントロが流れてきたとき会場が揺れた。
自然と足はビートを刻み腕を振っていた。

腕につけたライトの光が会場を淡く照らす。
青いホタルが飛んでいるようで綺麗だった。

全ての楽曲が終わりそれぞれのメンバーが挨拶をしてステージから離れていく。
藤くんがゆっくりステージ中央へ歩いてくる。

少し前屈みで歩く様は戦いの後の戦士のようだった。

鏡の中に映る見飽きたその顔が誰か分からなくなったことあるよな。

マイクを握り息を切らせたまま噛み締めるように一言ずつ、力強く話し始めた。

鏡の中の自分が分からなくなってしまうことがあります。
でも鏡の中なんかより、みんなの前で歌うこの瞬間、おれは俺であることを認識できます。

これを聞いたとき、藤くんはファイターだと思った。
頭の中にファイターのメロディーが流れた。

みんなと一緒に奏でた音楽が音符がメロディーが…
チャマの指が、ヒロくんの指が、ヒデちゃんの腕と足が、おれの指と声が音楽を届けることが出来ました。

こんな感じのことを言った。
あんなに真剣に聞いていたのにもう、忘れ始めてる自分が嫌だ。

また何年後かわからねぇけど、また来ます。

カッコ良かった。ステージライトに背後から照らし出されオレンジのシルエットとなって歌う姿を描きたいと思った。

のりちゃんは二曲目のアンサーで泣いたと言っていた。
あんなに感動したのに終わった後、もう内容を忘れ始めていることに気付いて悲しくなった。

なぜこんなに何もかも忘れていくのだろう。
他の人はもっと覚えているんだと思う。
忘れなくなりたい。普通になりたい。

帰りはあやはと合流する事になったんだと思う。
おれには連絡が無いから合流するあやはと友達を見てそう思った。

友達を送ってから和食のさとへ行った。
もともと松の屋というカツ屋へ行こうと言っていたが、あやはが好きなものを選べるようにファミレスに行くことにした。

目を合わせることは出来なかったけど、数ヶ月ぶりに一緒にご飯を食べられて嬉しかった。

藤くんにとってのファイターは紛れもなく歌うことだ。
おれにとってのファイターは金属加工なんだとライブ中ずっと考えていた。

多くは出来ない。あるもので勝負するしかない。
あるもので届く範囲を幸せに出来ればいいなと思う。

そんな風になりたい。

BUMPのように大勢に勇気を与えることは出来ないけど、手の届く範囲の人がおれのせいで嫌な気持ちになる事がないようにしたい。

普通とカタチは違っていても、おれはのりちゃんやあやはを大切に思っている。
伝わらなくても、その想いは自分の中にある真実だ。

京セラドーム大阪2日目

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