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ヨルシカの「ただ君に晴れ」に見る夏のはかなさと希望

ヨルシカの「ただ君に晴れ」は、2018年に発売された2nd Mini Album 「負け犬にアンコールはいらない」の7曲目。

梅雨を前にしたこの時期に聞くのにぴったりの夏の曲。これを聞いて、これからの暑さを思い、夜の涼しさを想像する。ただし、盛り上がる夏もいつか終わりを告げ、短い期間として思い出に残る。そこで忘れられない人と出会ったとしたら、甘酸っぱい思い出だ。

歌詞ではがよく出てくるが、これは終わりを表していると思う。花火は散り際が美しいと言われるが、夏の夜は少し寂しく、終わりを暗示させる。

追いつけないまま大人になって
君のポケットに夜が咲く

歌詞より引用

ただし、現在進行形で夏を楽しんでいるときではない。夏が終わってから振り返るとなんとも言いようがない懐かしさに浸れる。歌詞中の山桜桃梅(ゆすら)という植物は、「郷愁」「輝き」「貴び」「ノスタルジー」が花言葉だそう。夏のはかなさにぴったり。

一緒に居たはずが先に大人になり、楽しかった時間も終わりを告げる。彼女自身が消えていくように、いつか夏も夜のように姿を消していくのだ。

『ただ君に晴れ』のMVでは、2分53秒からつぎのような言葉が映し出される。

上空を漂う薄ら雲。
山桜桃梅。アスファルトの焼ける匂い。
プールサイド。蝉時雨。鳥居。夏陰。
青天井。
夏草をかき分けて寝転がっていた。
東京の空には殆ど映らない青色も、
想い出の中なら指先に届く。
逃げ水。バス停裏。
木製の看板。百日紅。既視感。
風見鶏。
自分の物とすら思えないほどに朧げな記憶。
子供のころ見た幽霊の輪郭。
夜空。夏の果て。海月。
源氏蛍。影法師。
分かれ道。錆びた鉄棒。落陽。
頬を撫でる温い風。雲の高さ。双眸。
群青。
夜水。靴。花火。
木漏れ日みたいな誘蛾灯。
追想。晩夏。夜しか眠れない僕らが。
これから先の人生、躓くことなんて当たり前だ。
それでも、ただ君に、晴れぬ空などないことを。

夏にまつわる美しい日本語たち。正岡子規の俳句を本歌取りした歌詞もある。

絶えず君のいこふ
記憶に夏野の石一つ

この歌詞は、子規の「絶えず人 いこふ夏野の 石一つ」という俳句から採られている。夏の季節、野原の真ん中にぽつんとある石の上に、人々は絶えず休息する。子規の描く情景に、いつかの君を重ね合わせているのだ。

最初から終わることがわかっていた夏の思い出。
これからつらいことがあったら、楽しくはかなく美しい夢の出来事を思い出してほしい。そして、やまない雨はない。いつか必ず空は晴れる。


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