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【漫画紹介】長蔵ヒロコ『煙と蜜』

ボンチノタミ、ジョーカーです。

今回はこちらの漫画をご紹介します。
初めての未完結作品の紹介です。

KADOKAWA エンターブレイン
長蔵ヒロコ『煙と蜜』第一集〜第四集

長蔵ヒロコさんの『煙と蜜』です。

作者の長蔵ヒロコさんは『ルドルフ・ターキー』等を描かれている方で、色気のある肉体や表情の描写が魅力的な漫画家さんです。

わたしがこの作品を知ったのはWeb広告がきっかけでした。
大正時代、年の差、軍服、といった好き要素が詰まっていて、すぐに電子版を購入して読み切ったあと、そのまま本屋に駆け込んで単行本を買いました。
全体に漂う官能的な雰囲気に対し、あまりにも清純で幼い恋の物語。丁寧に描かれる人の暮らし、心の動き。

ファンタジーではなく現実寄りの、しかも許婚という日本の古い風習を描いた年の差恋愛ものなので苦手な人は苦手だと思いますが、わたしは大好きなので紹介します。

現在、漫画誌『ハルタ』(KADOKAWA)にて連載中で、単行本は第四集まで刊行されています。

あらすじ

花塚姫子12歳、土屋文治30歳。ふたりの関係は「許婚」だった——。
西洋のモダンな文化が広がり始めた大正時代。華やかで活気に溢れたその空気の中で、「文治さま」「許婚殿」と呼び合うふたりは、18の歳の差を超え、ゆっくりと愛を育んでいく。
『ルドルフ・ターキー』でアメリカ黄金期を活写した長蔵ヒロコの最新作は、濃厚で芳醇な愛の物語。

Amazonほか 作品内容紹介より

許嫁殿と文治さま

帝都から母親の療養のため名古屋へやって来た花塚家の令嬢・姫子と、帝国陸軍の軍人・文治
18歳の年の差のあるふたりは、姫子の祖父により許婚となります。
健気で真っ直ぐな姫子と無口で強面な文治、お互いを大切に想うふたりの関係性を中心に、物語は進んでいきます。

花塚姫子

主人公・花塚姫子(12)

良家の令嬢で、尋常小学校に通う12歳の少女。
明るく朗らかで、誰にでも分け隔てなく接する素直な性格。許婚である文治のことが大好きで、早く大人になって文治さまに近づきたい、と、日々、家の手伝いや勉強に励んでいる。
健気で守りたくなるような可憐さやか弱さがあるが、しっかり者で努力家な面も。
家族や女中たちにも愛される、何事にも一生懸命なお嬢様。

土屋文治

もうひとりの主人公・土屋文治(30)

名古屋帝国陸軍第三師団歩兵第六連隊を率いる陸軍少佐。30歳。
高身長で目の下に濃い隈があり、人相が悪いことを自分でも気にしている。そのため、姫子に怖がられないように髪を伸ばしている。普段はオールバック。
寡黙で穏やかな人物だが、厳格な軍人であり、時に冷酷な面を見せることも。
少女から大人へと変わっていく姫子の様子を見守っている。

ここがおすすめ

年の差18歳の<許婚>

12歳と30歳。子どもと大人。なんなら、親子でもおかしくはない年齢差です。
かたや良家のお嬢様、かたや帝国陸軍の少佐殿。
姫子の祖父が欲しいのは、文治が持つ<男爵>という爵位。
幼い姫子は15歳になったら、文治と結婚することが決まっています。そこに彼女の意志があるわけではなく、けれど、姫子は文治に憧れ、懸命に彼に似合う大人の女性になろうと努力していく。恋に恋する間もなく、文治という男性を愛することを覚えていきます。
そしてまた、文治も彼女をひとりの女性として、自身の許婚として、将来の妻として、その成長を見守り続けているのです。
様々な思惑がありながらも純粋に愛を育んでいくふたりの関係が、穏やかに鮮やかに描かれます。

作品の雰囲気

個人的に、長蔵ヒロコさんの描く人物は肉感のある、艶っぽい雰囲気が魅力的だなと思っているのですが、その絵柄も相まって、作品から伝わってくる空気が、オトナというか、エロティックというか、官能的な感じなんですよ。
文治が黙々と食事をするシーンですら色気を感じてしまう、そういう雰囲気があるんです。
けれど姫子と文治の関係は驚くほどプラトニックだし、とにかく少女である姫子がすごく清純で、可憐で、健気で、可愛らしいんです。
この少女という存在が、物語の中心でありながらもどこか異質に感じる気すらします。
富、名声、地位、権力、色欲、金……そういうものの薄暗い面がすぐ近くで渦巻いているのに、彼女は純真無垢で、ただ笑顔でそこにいる。
だからこそ、文治は彼女に惹かれるのかもしれません。陸軍という場所に在って社会の裏や闇を知っている軍人と、何も知らない真っ白な少女。
全く異なる場所にいるふたりが、同じ場所で生きていく、暮らしていく。
まさに煙草の煙と甘い蜜のような、色気や艶っぽさと清純さ・可憐さの絶妙なアンバランス感というか、そういう部分で他にはない雰囲気を味わえる作品だと思っています。

浪漫

これについては本当に完全に個人的な趣味になるのですが。
軍服が良い。着物が良い。街並みが良い。
時代設定が大正時代ということで、浪漫を感じるものが多すぎる……。
姫子がいつもしているかっこう、着物にフリルエプロン姿も可愛いんですが、おめかしするときに洋服を着るのも大変に可愛らしいです。
そして軍服を着る一連の流れが描かれたシーン、文治がかっこよすぎて何度も読み返しています。外套を羽織るシーンも良い!
陸軍のエピソードもあるんですが、そこで描かれる軍人の皆さんがまた良いんですわ……軍服ありがとう……。
街デートのエピソードでは、大正時代の名古屋の街も出てきます。ガス灯、馬車、レンガ造りの街並み。洋装で歩く文治と姫子。
服装や小物、建物、当時の良家の生活、軍隊の様子。作品を通してそういう部分も感じられます。

『煙』と『蜜』

『煙と蜜』というタイトル、本当にセンスが良いなあと思います。
話数を重ねていくごとに煙の不穏さと蜜の甘やかさの対比が濃くなっていき、けれど、それにも増して煙のあたたかさと蜜のとろけていく距離感の縮まり方が描かれている。

穏やかで、心がぎゅっとなる物語です。
第四集が発売されたばかりですので、よろしければ読んでみてください。

電子書籍も各サービスで配信されています。

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