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日本経済が成長しない理由を人口動態からひも解く

どうも、しがない地理オタクです。

突然ですが、皆さんは
「日本の経済は30年間停滞、その理由とは?」
「一人当たりGDPがG7トップから最下位に転落。」
「給料が上がらない国、日本。平均所得が韓国にも抜かれる。」

といった記事を見たことがないでしょうか?

そういった記事のほとんどは
「政府の政策が~」だの「国民の向上心が~」だの「企業の体制が~」だの、主に政策についての不満がつづられています。

勿論、それらも原因の1つではあると思います。否定はしません。
ただ、根本的な原因はそこではないと思います。

日本のメディアは現実以上に日本のことを卑下するのが好きなようなので、実情よりも日本のことを悲観視している日本人が多いように感じます。

そんな誤解を払拭するため、今回は日本が現実以上に衰退してるように見せかける数字のトリックと、経済が停滞している理由人口の視点からひも解いていこうと思います。

時間がある方はぜひ読んでやってください。

衰退してるように見せかける数字のトリック

世の中は都合が良い部分だけ切り取られたグラフで溢れかえっています。このパートでは、印象操作でよく使われる手法を紹介します。

ドル建てGDPは為替の影響を受けやすく不安定

提示されているグラフがドル建てであった場合、注意が必要です。
ドル建ては為替レートの影響を受けやすく、実際よりも数字が大きく出たり小さく出たりします。

読むよりも見た方がわかりやすいと思うので、グラフを貼り付けます。

日本の円建てGDPの推移(世界経済のネタ帳より)
日本のドル建てGDPの推移(世界経済のネタ帳より)

この時点でドル建てGDPはかなり不安定であるということがわかりますね。

例えば、とある年の一人当たりのGDPが600万円だったとしましょう。
もし、この年の為替レートが1ドル100円だった場合、600万÷100で一人当たりGDPは6万ドルになります。
一方、もしレートが1ドル150円だったとすると、600万÷150で一人当たりGDPは4万ドルになります。
大元の数値が全く同じでも、相場によって1.5倍もの開きが出ています。
これは印象操作するのにもってこいでしょう。

具体例を出します。
2012年の日本のGDPは517兆円、レートは1ドル79円。
2022年の日本のGDPは546兆円、レートは1ドル131円。
ちゃんと成長しています。

しかし、これをドル建てGDPにすると…
2012年:62723億ドル
2022年:42335億ドル

なんということでしょう!あっという間に衰退詐称国日本の完成です!!!

ちなみに、この手法は一人当たりGDPや所得などにも適用できます。
2012年の一人当たりGDPは円だと406万円。ドルだと49,175ドル。
2022年の一人当たりGDPは円だと436万円。ドルだと33,821ドル。

近年、GDPや所得が下がっているのは、為替が円安になっている影響が大きいのです。


海外と比較する時でもない限り、基本的には自国通貨の数値で判断するようにしましょう!!!

この前提を踏まえたうえで、さっそく(?)本論に移りましょうか。


日本の経済が停滞している理由

そうはいっても、確かに日本の経済成長率は他の先進国に比べて低くなっています。それはなぜなのでしょうか。このパートでは私なりの見解を述べていきます。

一番の原因は人口が減少していること

ここまでで勘づいていた方も多いと思いますが、根本的な原因は人口の減少です。言われてみれば当たり前ですよね。人が減ればその分経済規模も縮みます。

しかし、この時点では2つの反論が想定されます。

①日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少してはいるが、2023年でも1億2330万人であり、そこまで減少しているとは言えないのでは?

②一人当たりのGDPが向上していない説明にはならないのでは?

ここからはこの2つの反論が不適当であることを説明していきます。


総人口は漸減でも生産年齢人口は激減

たしかに、総人口では今のところそこまで減少してはいません。
人口のピークも2008年であり、1990年代初頭から経済が停滞していることの説明にはならないでしょう。

しかし、生産年齢人口の人口推移ではどうでしょうか。

生産年齢人口とは15歳から64歳までの人口、つまり、労働に従事できる年齢人口のことをさします。
高齢者の増加が顕著であるため、総人口の減少は比較的穏やかですが、労働に従事できる人口は著しく減少しています。

日本の生産年齢人口(15歳~64歳人口)の推移(単位:万人)

こちらのグラフを見て頂いたらわかる通り、生産年齢人口は1995年ごろをピークに、最盛期より1220万人も減少しています!!!
これでは経済も成長できません…

他の主要国とも比べてみましょう。

生産年齢人口の比較と増減

日本だけ、生産年齢人口がガタ落ちであることがわかります。
これが日本の経済が低成長であることに繋がっているのです。


総人口に占める生産年齢人口の「割合」もガタ落ち

一人当たりのGDPは総人口で割られるため、当然労働に従事できる人の割合が高ければ高いほど、つまり生産年齢人口の割合が高ければ高いほど、一人当たりのGDPは上がりやすくなります。
生産年齢人口の割合が高いことは「人口ボーナス」とも呼ばれていますね。

ここで各国の生産年齢人口の割合を見てみましょうか。

総人口に占める生産年齢人口割合の変化

こちらも日本の数値の低下が他国に比べ顕著であることがわかります。

1990年の日本の生産年齢人口の割合は69.5%であり、これはG7の中で最も高い数値でした。
いわば、G7の中で最も有利であったわけです。

一方、2020年の日本の生産年齢人口の割合は59.8%となっており、これはG7の中でも群を抜いて低い数値になっています。
この状況下では言わずもがな、日本が最も不利になります。

つまり、一人当たりのGDPは、この30年間で「日本にとって最も有利な指標から最も不利な指標へと変貌した」のです。

それに比べて、現在の韓国は生産年齢人口の割合がえげつないほど高い。
そりゃ一人当たりのGDPも伸びるでしょ。
韓国も、団塊世代が高齢化すれば現在の日本の二の舞になります。
出生率が目も当てられないほど低いので、日本より悲惨な状態になるかもしれませんね。

これが一人当たりのGDPにおいて、日本が伸び悩んでいる最大の原因となります。


生産年齢人口あたりのGDPでは日本は後れを取っていない

では、生産年齢人口あたりのGDPではどうでしょうか。

G7の生産年齢人口1人あたりのGDP(単位:百ドル)

完全にアメリカの独り勝ち状態ですが、2020年の値で日本は7か国中3位となっています。
1990年代のように突き抜けて高いわけではありませんが、他国より劣っているとは言えません。
むしろ後れを取っているのはイタリアです(流れ玉)

日本を超えたと噂の韓国さんはというと…
日本:67,353ドル 韓国:31,855ドル
あの…日本の半分以下なんですけど…

一人当たりGDPの分母には、労働できない子供や高齢者も含まれているので、より実態に即した数値を見るには、「生産年齢人口1人あたりのGDP」を用いるべきだと思います。


平均年収が上がらないのはなぜ?

これには様々な理由があると思いますが、私は人口のオタクですので、人口的視点から考えていこうと思います。

日本の所得の推移は?

日本の所得は1997年の467万円をピークに減少傾向にありましたが、リーマンショックの翌年の2009年に405万円を記録したのを皮切りに増加に転じ、2021年時点で443万円となっています。
給料は緩やかな上昇傾向にあるものの、依然として97年の記録を超えるには至っていないのが現状です。


正規雇用が減少して非正規雇用が増加した

所得が低下した一番の理由は、非正規雇用が増加したことです。
平均年収は、正社員で508万円、非正規社員で198万円となっており、大きな開きがあります。
1997年における非正規雇用の割合は23.1%でしたが、2022年時点では36.6%と、その占有率を大きく上げています。

正社員数のピークと所得のピークは完全に一致

正社員の就業者数のピークは1997年の3797万人で、2011年に3135万人まで減少。その後、緩やかな増加に転じ、2022年現在で3544万人となっています(興味がある方はhttps://honkawa2.sakura.ne.jp/3240.htmlのサイトを参照ください)。

この「正社員数の推移」は平均所得の推移と概ね一致しています。
1997年にピークを迎えるところは完全に一致していますし、減少から増加への転換時期も年収が2009年、正社員数が2011年と概ね一致しています。

正社員数が平均年収に影響を及ぼすのは間違いなさそうです。


また、前のパートで「生産年齢人口が激減している」とお伝えしましたが、実は生産年齢人口は減少しているにもかかわらず、就業者数は漸増傾向にあります。
その要因は、正規社員に比べて所得が低い非正規社員が激増しているからです。
1990年にはたったの870万人だった非正規社員は、2022年現在では2000万人を超えています。
では、なぜ非正規社員が大きく増えたのでしょうか。
その理由は大きく分けて2つです。


①女性の社会進出

バブル期の1989年と現在を比較した場合、
男性の就業者数が3628万人→3686万人とほぼ横ばいであったのに対し、
女性の就業者数は2103万人→2553万人と大幅に増加しています。

男女別の非正規雇用の割合は、男性22.2%、女性54.4%となっており、
平均年収は男性545万円、女性302万円となっています。
女性の方が非正規雇用の割合が高いため、平均年収が男性に比べて低い傾向にありますね。
これが、非正規社員の増加の一因になっています。


②高齢者の労働参画

2つ目の要因は、高齢者の就業率が上昇したことです。
1990年の高齢者の就業者数はわずか260万人でしたが、2021年には912万人にまで爆発的に増加しています
高齢者の非正規雇用の割合は75.3%と極めて高く、これも非正規社員が増加した大きな要因です。

したがって、給料が高い正規雇用の就業者数はピーク時に比べ減少しているのに対し、非正規雇用の就業者数は大幅に増加していることが、平均所得を押し下げる原因になっているのです。


まとめ

ここまでの内容を整理すると以下のようになります。

【衰退しているように見せかける数字のトリック】
・ドル建てGDPは自国通貨のGDPに比べて不安定。
・海外と比較する場合でもない限り、極力自国通貨のGDPを参照するべし。
・ドル建てのデータがあった場合は、当時の為替レートに注意!

【日本の経済が成長しない理由】
・総人口は漸減でも、生産年齢人口が激減。
・生産年齢人口割合が高いほど一人当たりGDPは高く出やすい。
・生産年齢人口割合がG7最高からG7最低に。
・生産年齢人口あたりのGDPではG7各国に後れを取っていない。

【平均年収が上がらないのはなぜ?】
・正社員人口が減少しているのに対し、非正規社員人口は増加している。
・非正規雇用は正規雇用に比べて所得が低い。
・非正規雇用増加の要因としては、女性や高齢者の社会進出が挙げられる。


最後に

ここまで約5000字もある駄文を読んでいただきありがとうございました。
とにかく、国の人口は国力に直結します。一人当たりの生産性が高まったとしても、人口が激減しては中々成長するのは難しい。
そう考えると、少子化対策がいかに喫緊の課題であるかがわかりますね。
政治家の方々には頑張ってもらいたいものです。

私は、「病は気から」ということわざは国においても当てはまると思っています。ある程度の緊張感や問題意識は必要ですが、必要以上に悲観的になるべきではないと思います。

この記事を読んで、少しでも考え方、データの見方が変わっていただければ何よりです。


参考文献

世界経済のネタ帳:https://ecodb.net/
社会実情データ図録:https://honkawa2.sakura.ne.jp/index.html
GraphToChart:https://graphtochart.com/
国税庁:https://www.nta.go.jp/






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