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映画『白鍵と黒鍵の間に」池松壮亮主演

映画『白鍵と黒鍵の間に」
富永昌敬監督、原作:南博

試写会で拝見しました。機会をいただきまことにありがとうございます。

https://hakkentokokken.com


ジャズピアニストで著述家の南博先生による自伝的エッセイを映画化した作品です。

劇中で、主人公の「博」と「南」の二役を演じるのは、池松壮亮さんでした。
昭和63年。音大を出た後に、バブルに沸く銀座のクラブで演奏し賃稼ぎしながら、クセの強い仲間や客たちの間で日々もまれながらも、本場アメリカでジャズピアノを学ぶためにバークレー留学をめざす若きピアニストを演じています。音楽家らしい繊細さと若さが絶妙な塩梅で表現されており、その心的世界に自然と引きこまれます。

この映画は、俳優陣がなかなか魅力的です。
チンピラ役の森田剛さん、バンドマスター三木役の高橋和也さん、ピアニスト役の仲里依紗さん、アメリカ人シンガー役のクリスタル・ケイさん等等、芸達者で華のある俳優たちが猥雑な舞台裏でそれぞれの個性を放っています。環境や仕事に対して、冷めて絶望的なようでいながら、誰もが音楽に誇りと愛着を抱いており、南/博が、将来への希望を失わずに、新たな世界に足を踏み入れようとする結末への説得力を増させています。

銀座の場末の鬱屈と音楽を通した連帯と開放感が醸成されていて、この一作で解散になるのがもったいないな、と思わせられるグルーブ感がありました。この半端なき存在感のメンバーで、また別の連続ドラマに展開したらいいな、と、勝手な妄想がいろいろと広がる、創造性をひめた作品でした。


また、南博先生による原作エッセイは、映画の背景をなしながらも、またひと味ちがう、独特の魅力があります。

映画版がダイナミックで大音量のビッグバンド的な群像劇(?)であるとすれば、小説版は、ピアニストの目から眺められた、さながらジャズピアノの繊細な旋律のようであり、起伏と膨らみのなかで流れる語りが心地よいです
(下手くそな喩えですみません)。
劇中で、博/南が問うた「シャラント」chalantとは何か、というのも、こういう文体のことなのかな、ちょっと違うのかもしれないけど、武満徹さんのエッセイに通じる鋭敏さと優美さに思いをはせた次第です。

ちなみに、物語の中心となる高級クラブ「スロウリー」の舞台撮影に使用されたのは、横浜の老舗ダンスハウス「クリフサイド」でしょうか(間違っていたらすみません)。映画のエンドロールには「クリフサイド」の名前が出ていたのですが。。

戦後直後に建てられたホールで、思い出のカビ臭さと記憶の鮮やかさが、木製の薄暗い舞台にしみこむ昭和な風情が、なんともいえません。

クリフサイド@横浜

クリフサイドは、横浜国立大学における建築教育部門の開祖・中村順平先生の代表作のひとつで、いまも営業なさっています。
映画に登場する高級クラブ「スロウリー」のロゴが、「クリフサイド」のロゴに、なんとなくよせてあった気がしたのは、わたしだけでしょうか。。


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