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U-NEXTパイレーツ セミファ島最後の2日間

2020年3月30日

Mリーグ2019レギュラーシーズンを辛くも6位で通過し、セミファイナルに進出したU-NEXTパイレーツ

セミファイナルは各チーム16試合しかなく、ファイナル進出の4枠に入るためにポイントの上積みをかなり行う必要があったが、「ぼくらのあっきーな」瑞原明奈選手、「俺たちのばっしー」石橋伸洋選手の開幕2連勝から始まり、石橋選手がトップ3回、2着2回と5戦すべて連対というお祭り男っぷりを発揮して、残り2日を迎えた段階でファイナル出場圏内の4位。

残すは5位TEAM雷電との直接対決2試合を残すのみとなっている。
その差は102.3ポイント。トップラス1回と着順勝負1回で十分に変わる可能性があり、何としても1回戦を上の着順で終わりたいところだ。

<画像引用について>
出典:
AbemaTV様「Mリーグ2019 朝日新聞セミファイナルシリーズ11日目」
AbemaTV様「Mリーグ2019 朝日新聞セミファイナルシリーズ12日目」

1回戦

1回戦の登板はキング・石橋伸洋選手。レギュラーシーズンでは苦杯を舐めたが、セミファイナルでは獅子奮迅の活躍でチームを牽引し、ファイナル進出圏内に押し上げたパイレーツ海賊団の救世主。最高位1期。「黒いデジタル」の使い手としてもおなじみで、読み外しで相手を毒牙にかけていく。

対戦相手
・TEAM雷電 瀬戸熊直樹選手
 通り名は「卓上の暴君」。一度暴れ始めたら手がつけられずクマクマタイム(KKT)という強力な必殺技で相手を粉砕する。流れ派の代表格。鳳凰位3期、十段位3期ほか、獲得タイトル多数。

・渋谷ABEMAS 白鳥翔選手
 通り名は「麻雀ハイブリッド」。優れたバランス感覚でレギュラーシーズンではポイントを積み重ねたオーソドックス系雀士の代表格。セガサミーフェニックス魚谷侑未選手とのTwitter上での絡みは微笑ましい。今年2月に發王位奪取。

・セガサミーフェニックス 近藤誠一選手
 通り名は「大魔神の系譜」。「大魔神」はプロ野球で活躍した佐々木主浩元選手ではなく、故・飯田正人プロのことである。「大きく打って大きく勝つ」。その姿は一切ブレがなく、劣勢時でも余裕すら感じさせる懐の深い打牌で相手を後方から狙い撃つ。門前高打点派にとって憧れの存在。最高位4期、最強位1期ほか、獲得タイトル多数。

東1局(親:近藤選手)

石橋選手の配牌。ドラ1枚でマンズのイッツーがみえる形!

「いい配牌!」

配牌から赤入りイーペーコ含みで6pがカンツだった瀬戸熊選手。何切る。

6pをカンするとピンズで1ブロック、ソウズで雀頭とメンツの2ブロック構想となり選択肢が狭まる。ここはやわらかく6p切り。
こうすることによってピンズを2ブロック構想が残る。7sが入れば再び6pを切ってピンフのテンパイだ。

狙い通り、高めイッツーのリャンメンテンパイを果たし、ドラ8mを切ってリーチ!

「せーの、、、リーチ!」

これはさすがに勝ったでしょ!

しかし歴戦の猛者達は簡単に一人旅を許してくれない。特に親の近藤選手が黙っているわけがない。ペン7s待ちで一度テンパイを果たすが、これはテンパイとらず。石橋選手が9m、ドラ8mと外してのリーチ。ドラターツを外してリーチをするということはすでに手が高いか、よほど待ちがよいかである。親のドラ1テンパイといえど、ストレートに勝負することを避けた。

この手はイッツーやイーペーコ、赤5m、赤5s引きなど打点上昇の種が複数残っているチャンス手のイーシャンテンなのだ。
近藤選手の特徴として、勝負どころ以外では打点が伴わないギャンブルリーチをしないという点がある。不利なめくり合いをしないため、見合わない放銃も少ない。

再びテンパイ。今度は2m、5pのシャンポン待ち。リーチか?

5p切りでまたもテンパイとらず。先ほどと打点が変わっておらず無筋の2sを切るのが見合わないということか。5pも片筋だが、7pが早めに切られており、その後ペンチャンターツを外しているため割と通りそうな牌である。

瀬戸熊選手もカン5sでタンヤオイーペーコのテンパイ。ダマテン。

流局濃厚に思われた残り1巡で石橋選手が7mをツモり、ウラウラで3000・6000のアガリ!ライバル瀬戸熊選手に大きな差をつける!
(最初ウラドラがよくみえていなくて2000・4000かと思ってた…)

「やったーーーーーーーー!!!!!!」

いきなりキング石橋選手の大物手が炸裂し、これはいけるでしょという雰囲気に。ちなみに4mをツモるとイッツーがついていたが、ウラは1枚しか乗らないので同じく3000・6000。

東2局(親:瀬戸熊選手)

石橋選手、なんと配牌ドラ3!2メンツ完成し、くっつき牌も優秀。またアガるのか!?

と思っていたら、近藤選手がダブリー!しかもノベタン。これはずる誠一…。

しかしこの時はドラ3の石橋選手が押しきることができれば逆にチャンスじゃない?って思ってた。このリーチは近藤選手でも初級者の人でも打てるリーチである。工夫のしようがないリーチ。必ずしも高いとは限らない。

石橋選手は押し返していったが、8mがつかまる。

近藤選手がダブリーのみで2600点のアガリ。石橋選手としては仕方ないところ。

「いいよー!攻めてるよー!」

東3局(親:白鳥選手)

親の白鳥選手が367s待ちの変則3メンチャンでテンパイ。赤入りメンツを仕掛けており5800点の手。

石橋選手はすでに親の白鳥選手を警戒して受けに回っている。中盤(7~12巡目)に入り自身のアガリが薄い状況で、安易に振り込むわけにはいかない。

瀬戸熊選手が絶好の赤5sを引き入れたものの、打ち出す3sが御用。

白鳥選手が5800点のアガリで連荘。
瀬戸熊選手にとっては厳しい展開…。

東3局1本場(親:白鳥選手)

石橋選手の配牌は鳴きやすそうなトイツが4組。となれば狙いは…。

白は疾風のごとく一鳴きする。この時点で方針をあらかじめ決めておくことが重要である。スムーズにいけばトイトイ変化も考えられるが、自身がトップ目であり、基本的には白鳥選手の親を落とすことがメインテーマとなる。78pのターツは大切にしたいところ。

烈火のごとく1pもポン。

1pをポンして赤5s切り。ここはテーマどおり打点よりアガリ率を優先する。この状況でリーチを受けてしまうと、北が受け駒としてあるとはいえ、最後まで持たない可能性が高い。

6sをツモ切り。7sの受け入れより8sの鳴きやすさ&待ちになったときのアガリやすさを優先した。
たとえばこの後北をポンしたときに6s切りでテンパイをすると、6sは関連牌である可能性が高いと読まれ、8sを止められてしまう可能性が高い。

鳴き手は相手から読まれやすい分、少しでもアガリ率を高めるための工夫をする。これが「黒いデジタル」と呼ばれる所以なのだろう。

8sが出てポン。他家からはピンズの染め手模様にもみえるため、8sがあっさり鳴けた。7m切りでテンパイ。最終手出しで迷彩をかけていく。

「69p!69p!」

道中、7pツモでトイトイへの変化もあったが、ここはテーマどおりアガリ率優先で69p待ち続行。
そして8sを加カン。相手三者が受けに回っていることを確認して牌を横に並べた。

カンドラ2枚乗った!

9pツモ!望外の1300・2600のアガリで瀬戸熊選手を大きく突き放す!
積極策が功を奏した格好だ。

「ばっしーかっこいいーーー!!!」

東4局(親:石橋選手)

近藤選手が發ドラ1で赤5sを切って36p待ちテンパイ。
赤が出ていくのは不満だが、赤を使い切れる有効な手変わりが少なく、巡目的にもリーチの一手である。

この局も石橋選手は積極的な仕掛けをみせ、赤2枚使いのクイタンを目指したが、打ち出す6pが捕まる。

近藤選手への放銃となった。裏は乗らず5200点のアガリ。これは積極策ゆえのやむをえない放銃とみる。東場の4万点弱のトップ目はこのルール、この相手だと微差であるため、広げられそうな時に広げる意識が大切なのだ。

南1局(親:近藤選手)

石橋選手の配牌に白がトイツ。

2巡目、近藤選手から放たれた白は鳴かずにスルー。雀頭候補が他にない状態では仕掛けないほうが手組は安定する。南場のトップ目ということを考えると白は安全牌候補として残しておいたほうがよさそうだ。

ここでも守備を意識し、3枚見えの南を残して1枚切れの北を切る。なにげない1牌が身を助けることがある。

白鳥選手がピンフのみの47m待ちテンパイ。4s引きの高め三色変化、36p引きのタンヤオ変化、赤5引きなど打点上昇の可能性が複数あるためダマテン。

打点が欲しい状況の瀬戸熊選手が發を一鳴き!白鳥選手が自風のドラ西を切ってきたことでスピードを感じ、間に合わせにいったのだろう。

47p待ちのテンパイ。3900点の手である。

石橋選手は白鳥選手の自風ドラ西切り、瀬戸熊選手の仕掛けにより、早々に赤5mを打ってディフェンシブモードに移行。

「ばっしー、場が見えている。いいよー!」

近藤選手は789の三色になった時やドラの西を重ねた時だけ前に出る手組。近藤選手の親番にピンフのみのテンパイなどいらない。

7mが近藤選手から出て、白鳥選手が1000点のアガリ。
瀬戸熊選手にとって厳しい状況が続く…。

南2局(親:瀬戸熊選手)

瀬戸熊選手の配牌は4トイツ。中が鳴ければなんとかなりそうだが、落とすことができない親番で難しい選択が迫られる手である。

瀬戸熊選手が鳴きたい中が近藤選手と持ち持ち。瀬戸熊選手の不運はどこまで続くのか…。

ここで西を残して、4s切り。チートイツも見据えた進行である。

石橋選手の手が伸びてきた。ここで北を切り目一杯。この形であればライバル瀬戸熊選手に対抗できるという判断か。リスクはあるが勝負を決めにいった。ソウズが瀬戸熊選手の河に8s4s9sと切られており、瀬戸熊選手に対しては受けることができるという点もあったのだろう。最悪近藤選手や白鳥選手にマンガンを放銃しても、瀬戸熊選手に連荘を続けられるよりはマシである。

「いっけーーーーーー!!!」

絶好のカン6pを引き入れ6m切り。5sを残すとイーペーコへの変化がある。

6sを引き、3m切りで47s待ちリャンメンテンパイ。高目イーペーコの形。ダマテンで瀬戸熊選手の親番を終わらせにいく。ここでリーチをすると近藤選手、白鳥選手の打牌を制限してしまうため、オリない瀬戸熊選手と一騎打ちになる可能性が高まり、好ましくない状況である。

石橋選手としては自分がアガらずとも近藤選手、白鳥選手が安い手をアガってくれる分には瀬戸熊選手の親番を終わらせることができるため、悪くないのである。

瀬戸熊選手は5トイツとなり、チートイツのイーシャンテン。しかしチートイツは鳴けない&テンパイへの受け入れ枚数がメンツ手と比べてかなり少ないくなるため、ノーテンで終了してしまうリスクがある。決め打ちは怖い。

4p切りでチートイツとメンツ手の両天秤続行。25pはドラまたぎのため相手から警戒されやすい点と、チートイになったときのドラ3p単騎選択ができるため、4p切りはかなりバランスのよい一打に思える。

狙い通りチートイでテンパイ。ドラ単騎でリーチ!

「やばいやばいやばい・・・」

瀬戸熊選手のリーチを受けた石橋選手。無筋の2pを引いて、じっと考える。

「これはさすがにきつい…やめるかなあ…」

2pを押した!

瀬戸熊選手の河には4m、4p、4sの3種すべてが並んでおり、2s、1mと切ってリーチ。どうやら普通のメンツ手ではなさそうだ。変則手を読み切り、3枚見えで絶対に単騎やシャンポンには当たらない2pならば切れるという判断をしたのだろう。

「俺は海賊王になる"男"だ」

そういう意志を感じるような一打だった。たとえ期待値的に押したほうがよい場面であっても、一発親に打ちこんでしまえば大ダメージである。死の危機が迫っているときに最悪の選択は避ける。身を守る。それが人間の性ではないか。

ここで12000を瀬戸熊選手に放銃した場合、瀬戸熊選手トップ、石橋選手ラスという最悪の並びになることも十分に考えられる。その状況での渾身の2p押し。タイトル戦の決勝戦を幾度となく戦ってきた石橋選手はわかっていたのだ。ここで倒さないと決着が長引いてしまう。ここで勝負どころだと。

石橋選手が受けに回った場合、瀬戸熊選手のアガリor連荘となりKKTが発動してもおかしくなかった。

瀬戸熊選手の息の根を止める5200点のアガリ。

「ばっしー、かっこいい!!!!!」

あの2p押しは変則手だと読めていたとしても、パッと見はドラまたぎであり勇気のいる打牌だった。さすが俺たちのキングである。

南3局(親:白鳥選手)

近藤選手は場風の南がトイツ。

白鳥選手から南が放たれ、ポンをしてカン7sテンパイをとることができたが鳴かずに赤5s引き。こういう時でも軽く仕掛ける近藤選手ではない。ここで1000点でアガった場合、オーラスでトップをとるための条件が厳しくなり、2着をとれる可能性も体感45%くらいではないだろうか。であればメンゼンで一発を狙うのが近藤選手だ。ラス前はオーラスの条件を軽くするように動いたほうがよい。

また、愚形1000点はその後の押し引きが非常に難しく、見合わない押し引きを迫られやすい。1000点の押し引きが得意なのは小林剛選手である。

高目5200安目2600のテンパイ。リーチ!

2巡後、9sをツモりウラが1枚乗って2000・4000のアガリ。
やはり近藤選手のアガリは絵になる。カッコイイ。

南4局(親:石橋選手)

白鳥選手、なんと3巡目に赤1枚の發中待ちシャンポンテンパイ!

「やめてくれええええええ!」

リーチを受けて、宣言牌の6sをチーするか迷う石橋選手。白鳥選手にハネマン3000・6000をツモられてしまうと2着落ちである。ハネマンになるときは一発が絡むことも多いため考える。

6sはスルーし、3sをツモってきた。3巡目でチーして手牌を崩すデメリットのほうが高いという判断。一発でツモられる確率はそれほど高くない。

リーチの一発目。白鳥選手の点数状況を考えると1300点の手でリーチをしているとは考えにくく、ピンフのみであればいったんダマにしそうな状況なので、一発で打った場合ほぼ5200点以上である。5200点で近藤選手と同点トップ。マンガンを打ってしまうと、悪夢の3着落ちである。

「うわ、發浮いてる…危ない…」

ここは現物の2m切りで2巡しのぐ。

安全牌も筋もなくなってしまった…。となると手がかかるのは發か南だ…。

南と發の選択で南を切った。東が場に3枚みえていて、南で放銃したときにウラドラになりにくいほうを選んだのではないだろうか。本当に微差だし、ここで發を切ってもまったくおかしくなかった。

生きた心地がしない…。助けて…。

白鳥選手、5mをアンカン!

カンドラモロ乗り!

「うわあああああああああ、やめてー!!!」

安全牌に窮していて、發が発射台に乗っていたが、5mがアンカンされノーチャンスになったことで、3mが打てるように。36m待ちが否定され、2mがリーチ前に切られているためペンチャンカンチャンで当たる可能性もかなり低そうだ。

「これはラッキー。。か?!」

この局は逆転手が入らず、石橋選手の満貫放銃を願って受け気味にチートイツ進行をしていた瀬戸熊選手。本当にきつい展開…。

残り4巡。石橋選手はおそらくノーテンで伏せるためこの局がほぼ最終局である。この時、瀬戸熊選手は何とか石橋選手をトップから引きずり落とす方法を考えていたはずである。

白鳥選手の手は見えている部分ですでに5翻確定。白鳥選手の点数状況でリーチにきている時点でおそらく最低もう1翻はあると想定される場面。中のシャンポン待ちに打てば7翻、あとはウラドラが1枚でも乗れば…。

自身のアガリ目がない状況、苦肉の策で中切り。白鳥選手のバイマンを願って差し込みにいった。

瀬戸熊選手の思惑どおり、白鳥選手のアガリとなった。

「ウラドラやめてーーーーー!!」

裏が乗って16000。石橋選手は惜しくも2着落ち…。瀬戸熊選手の執念、白鳥選手のスター性が生んだ逆転劇だった。

「くやしいいいいいいーーーー!!!」

しかし、その前に白鳥選手にマンガンを放銃して3着落ちをしていてもおかしくなかっただけに、この結果は決して悪くない。元のウラドラ表示牌が白だったため、發と南の選択で發を打っていた場合は3着落ちが現実のものとなっていた。とにもかくにも雷電より2つ上の順位で終わることができ、素点でもかなり差をつけた。

「ばっしー、ありがとうーー!!」

瀬戸熊選手は本当に苦しい展開だった。苦しい展開の中で最後に意地をみせ、大きな傷を負いながらも石橋選手を2着に落とした。16ポイントの放銃により、石橋選手から40ポイントを削った。結果的にあの1局だけで24ポイント差を詰めたのである。

漢気溢れる闘牌だった。瀬戸熊選手カッコイイ。

2回戦

キング石橋選手の奮闘により、TEAM雷電に108000点のトップラスという条件を突きつけたパイレーツ。

2回戦の登板は「我らが船長」小林剛選手。レギュラーシーズン最終節にみせた劣勢からの驚異的な粘りは記憶にあたらしいところ。船長としてパイレーツ海賊団をまとめる精神的支柱。将王3期。天鳳名人戦などでも活躍中の麻将連合のエース。

対戦相手
・TEAM雷電 黒沢咲選手
 通り名は「強気のヴィーナス」。超メンゼン型であり常に好形高打点を狙うホームランアーティスト。攻撃の強さが印象深いが、状況判断が秀逸で引き際の見極めやベタオリ判断をほとんど間違えない。ミスが少なさが超メンゼンによる手数の少なさをカバーしている。昨年日本プロ麻雀連盟のA1リーグに昇級。今年は産休に入るため不参加となるが、今後ますます活躍が期待される。

・渋谷ABEMAS 多井隆晴選手
 通り名は「最速最強」。RMUの代表を務めながら、軽快なトークを武器にあらゆるところに引っ張りだこの人気選手。麻雀に関してもかなりレベルが高く、地球が麻雀星人に襲われたときに地球代表として任せるのは誰がよいかランキング堂々の1位(勝手調べ)になるくらい、麻雀に関しては信頼の厚い選手である。基本は守備寄りに構えるが、あらゆる情報処理を行い、相手の手を読んでいく。多井選手に睨まれたらカエルになる自信がある。

・セガサミーフェニックス 魚谷侑未選手
 通り名は「最速マーメイド」。以前は速い鳴きを駆使するスタイルだったが、最近は打点寄りの思考もみてとれる。自身で理論を構築しながらも、感覚を取り入れるようになっているのはチームメイト近藤誠一選手の影響もあるのだろうか。以前から強い選手であったが、特にこのMリーグでは凄みを増した印象である。強い。本当に強い。日本プロ麻雀連盟A2リーグ所属。王位1期、日本オープン1期など獲得タイトル多数。

パイレーツとしては1回戦で雷電との着順勝負に勝ち、割と楽観視するムードがサポーターの間でも漂っていた。しかし、黒沢咲選手は怖い存在。ここぞの場面で役満をアガっても不思議のない選手である。レギュラーシーズン終盤でみせた四暗刻単騎は記憶にあたらしい。しかし船長がラスをとる場面があまり想像がつかない。船長がしっかりまとめてくれるという安心感もあったのかもしれない。

東1局(親:黒沢選手)

黒沢選手は白をアンコにして、メンホンが近くに見える手牌。バイマンまである超大物手。

多井選手は6sか7sを切れば単騎テンパイだが、メンタンピン三色ドラ1までみえる大物手の価値が一気に下がるため、ここは6pツモ切り。58s、4578p引きでリャンメンテンパイである。57p引きは高目三色のテンパイだ。67s引きでもフリテンではあるがリャンメンテンパイと非常に好形の受け入れが多い形。

小林選手、北と發のシャンポン待ちで先制リーチ!打点は低いが、河に19字牌が並んでおり非常に強い!

「船長!いけーーーー!」

リーチの一発目、黒沢選手がめずらしくリャンメンチー!イーシャンテン。鳴く人がほとんどだと思うが、黒沢選手のスタイルとは少し違う印象だった。おそらくリーチがかかっていなければスルーをしたのだろう。ライバルの小林選手のリーチを迎撃するためにスピードを上げて対抗しにいった。

小林選手がツモり、700・1300のアガリ。

黒沢選手はチーをしなければ、9mをツモっていただけにチーをしたことを少し後悔したかもしれない。タンヤオ系の高打点がみえていた魚谷選手が北を止めることは手牌的に難しかったと思われるが、黒沢選手目線ではそうみえてもおかしくない。

東2局(親:魚谷選手)

小林選手の配牌はすぐにでもホンイツがみえる好配牌!

「船長がんばれーーーーー!!」

發をポン!

6mもポン!

船長の鳴いた牌をしっかり手元で見せるのはステキだ。キャプチャがとりやすい!

注目は2枚の西の位置である。この1画面前では両端に西が置いてあった。なぜこうしているのか?それは鳴いたときに理牌読みされることを防ぐためである。

そもそも鳴きというのは鳴いた牌が入り目になる。「何が入って、何を切ったか」。これだけでかなりの情報量だ。本来機密保持契約を締結していないと見せてはいけないくらい超重要情報である。メンゼンの読みは入り目がわからず不確実なことが多いが、鳴きは鳴けば鳴くほど公然のものとなる。裸単騎はスケスケである。それに加え、理牌をしっかりしていると1~2点で読まれてしまう危険性まであるのだ。

放送対局では極力視聴者のために理牌をするように選手に伝えられているが、リーチをしたときの入り目は右端に置いておくことが多いのは理牌読みを避けるためだろう。(理牌読みは暗黙の了解でしないように言われているという話もあるが)

西をポン!1m切りで253mのサンメンチャンでテンパイ!

また西の位置が変わっていた。これが仮に1m単騎にしようと考えていたのであれば、1mの位置を変えておく必要がある。

黒沢選手が小林選手の現物1m切りでカン4mテンパイのリーチ!イーペーコ狙いで5mを切っていたら放銃だった。現状ドラドラ+ウラドラも2枚めくれるため打点は十分、かつ5mは危険牌のため1mを切っていった。

魚谷選手テンパイ。2p中のシャンポンか、ドラのカン3pか。3pはすでに3枚みえている。4pは通っていない。

ここは静かに2pを置いた。2p中のシャンポン待ちは小林選手がホンイツを狙っていて中が持ち持ちである可能性と他家から打たれにくいため、危険牌を切ってまで狙うべきではないという判断か。

他3者が3pを切っているため、4mを引いて三色になったら、ダマテンのままアガれる可能性があるため2p切りで忍ぶ。親でこの選択はなかなか胆力が必要だ。

リーチとホンイツ仕掛けに挟まれながらも多井選手は役なしでテンパイ。

魚谷選手がうまく回り込み、テンパイ。連荘に成功した。多井選手は終盤に危険牌をつかみオリ。見ごたえのある一局だった。

船長アガれそうな待ちであったが、意外と薄かった。

東2局1本場(親:魚谷選手)

黒沢選手、3巡目で1p中のシャンポンリーチ!これはさすがに強いか?

魚谷選手から中が出て、5200点のアガリ。魚谷選手としては避けようがない放銃。

東3局(親:小林選手)

小林選手は123や234の三色が見える手牌になっている。何切る。

9s切りとした。34p引きでのイーペーコ変化と黒沢選手の現物2pを一瞬残すという2つの意図がある。

東を引いてきて、黒沢選手以外には危ない2p切り。自身がアガリたい手であるため、生牌のダブ東を見せることによって場を軽くせず、自分が重ねたときは採用しようという考えだったかもしれない。

5mを引き、カンチャントイツ系になったため東をリリース。6m引きのピンフテンパイを逃さない手組にする。

1mを引きテンパイ。打5mで役なしのダマテン。8m69p引きのピンフもしくは1p引きの三色をみている。

次巡3pを空切りしてリーチ!相手の速度を考えると、もう猶予がないという判断か。

同巡、黒沢選手がイッツー確定の追っかけリーチ!

「やばやばやば…」

黒沢選手、2sツモ!2000・4000のアガリ。高打点は絶対逃さない。

「この人やっぱつよいな・・・」

とりあえず一発でつかまなくてよかった…。

東4局(親:多井選手)

多井選手、6巡目に高目三色のメンタンピンドラドラをリーチ!待ちは258s!

三色が唯一つかない安めの2sを一発ツモ。6000オールのアガリ。

東4局1本場(親:多井選手)

黒沢選手の手はピンズのイッツーも見えるが、どこに雀頭を求めるか難しい形。何切る?

打1s。ソウズをノベタン形で持っておくことによってピンズのイッツー変化に対応できる。

小林選手は白をポンして、速攻へ向かう。パイレーツとしては雷電も気になるが、ファイナルを見据えてABEMASやフェニックスを逃がしたくはない。

黒沢選手はフリテンの147s待ちでリーチ!

多井選手も親番、まけじと攻め返す。

結果は黒沢選手の1sツモ。1300・2600のアガリ。タンヤオがつかなくて不満そうである。

南1局(親:黒沢選手)

「赤い、、やばい、、」

黒沢選手にとって重要な南場の親番。ここが流れてしまうとかなり逆転が苦しくなる。全力でアガリに向かいたいところ。一方小林選手は是が非でも流したい1局。

赤が2枚あり、456や567の三色、ドラ引きで8000オールまである手。やはり黒沢選手はただでは終わらない。

黒沢選手、南がアンコになり、フリテンの58p待ち高目三色でリーチ!

「うげええええええ!やめてーーーーー!」

多井選手に赤5pが流れた直後、華麗に5pをツモ!6000オールのアガリ。2局連続フリテンリーチツモである。

「やっぱめちゃめちゃ強いなこの人…。でも船長まだ点差あるから大丈夫!」

内心はめちゃめちゃ怖かった…。

南1局1本場(親:黒沢選手)

まだ点差があるとはいえ、なるべく早く黒沢選手の親を終わらせたい小林選手。チートイツのテンパイ。2m切り?5s切り?リーチ?ダマ?

5sを切って、2m待ちでダマテン。ここでリーチをかけることで多井選手や魚谷選手の打牌に制限をかけたくない。黒沢選手と一気討ちになり、大物手を放銃するのは絶対に避けなければならない。

小林選手が2mをツモり、800・1600は900・1700のアガリ。点数こそ安いが、これは事実上雷電のファイナル進出をほぼ厳しいものにする大きなアガリであった。

「ふうううううう。あと3局!」

南2局(親:魚谷選手)

親番の魚谷選手が47s待ち高目三色でリーチ!これは流局となり1人テンパイ。

南2局1本場(親:魚谷選手)

小林選手が9pを引いてきた場面。何切る。

9p切り。69pの亜リャンメンを残し、13sを外す手もあるが、黒沢選手の第1打が2sで1sは守り神として置いておきたいところ。

イーシャンテンの受け入れの広さは基本的に【くっつき>ヘッドレス(雀頭なし)>完全形>余剰牌or安全牌】なので、愚形待ちでもリーチにいく覚悟であればヘッドレスにする9p切りも悪くない選択。

魚谷選手は白と1sをポンし、打3m。1pを残して三色同刻までみる。2人が2pを早く切り出しているため、1pが山にいる可能性が高いと読んでいるのだろう。

ソウズがリャンメンとなり、リャンメンリャンメンのイーシャンテンとなった。何切る?

9m切り。魚谷選手の1sポンをみて、通っていないピンズやソウズはもう打てないという判断である。万が一にも放銃しないように細心の注意を払う。魚谷選手に親番を続けられるのは黒沢選手に役満手が入る確率があがってしまう。早めに切られたマンズの上のほうが安全にみえる。

魚谷選手、3sを引きテンパイ。この局も魚谷選手の1人テンパイで連荘。

「しぶとい・・・」

南2局2本場(親:魚谷選手)

小林選手、ドラドラのチャンス手で何切る。

6mを切った。5mの2度受けを嫌い、スリーヘッドの形を解消していく。發を安全牌として残しつつ、9pのトイツはいざというときの受け駒候補である。

魚谷選手テンパイ。ペン7p待ちでリーチ!有効な手替わりがほとんどなく、巡目的にリーチの一手。アガれなくてもまたテンパイ連荘がとれればよいのだ。

それを受けた小林選手。現物は7mがあるが後が続かないため、トイツの無筋9pを打ち出していった。先ほど受け駒候補として残していた牌だ。無筋といっても4~6と3・7、2・8、1・9では放銃率に大きな差がある。困ったら端牌トイツ落としは有効な戦術である。

小林選手はギリギリまで粘っていたが、5mを切ってオリ。

黒沢選手はチートイツでテンパイを入れていたが、魚谷選手の当たり牌7pをつかんでオリ。本当に冷静である。狂気の押しがほとんどない。
魚谷選手はこれで3局連続1人テンパイ。

南2局3本場(親:魚谷選手)

小林選手イーシャンテン。黒沢選手の現物78sを残し8mを打ち出していった。黒沢選手相手に万が一でも間違いを犯すわけにはいかない。スッタン。ダメ。ゼッタイ。

赤5sを引き、9m東のシャンポン待ちでリーチ!ここは勝負をかけた。

魚谷選手も同巡追いつき、カン4s待ちダマテン。

魚谷選手は8sをつかんでオリに回った。8s待ちを否定する要素が何もなく、ここで無理をして放銃をするよりは、親番を落としてでも残り2局にかけたほうがマシという判断である。攻守のバランスが本当に繊細。この局は小林選手の1人テンパイで魚谷選手の親番終了。

南3局4本場(親:小林選手)

魚谷選手がオタ風の西をポンして5m切り。ホンイツに向かっていく。

2sポン、4m切り。ホンイチ一直線!

魚谷選手の2フーロをみた小林選手。もうソウズと字牌を切るのは厳しいか。

1mを外していった。テンパイしたらリーチをしそうである。

ドラの7sに8sがくっつきテンパイ。

小林選手は7mを引きテンパイを果たすが…。

さすがに生牌の北を打ち出すのは難しく7m切り。この後テンパイを果たし、小林選手、魚谷選手の2人テンパイ。

南3局5本場(親:小林選手)

供託がたくさんあり、安手でもそれなりに収入が得られる場面。

魚谷選手は3mを引き、69m待ちのピンフのみダマテン。47p引きでのタンヤオ変化と赤5引きでの打点上昇をみる。

次巡、タンヤオに振り替わる4pを引きリーチ!リーチ+1ハンは本当に強い。

「やめてえええええええ!」

小林選手もカン7sでテンパイ。

待ちはよくないが、リーチ!勝負どころである。

もう後がない黒沢選手。リーチをした小林選手からリーチチートイドラドラ赤ウラウラを狙って6mを打ち出していく。

これが魚谷選手のアガリとなる。8000は9500点。黒沢選手もこの瞬間すべてを受け入れたような表情をしていた。

船長ラス落ち…。悲しいけどまだまだ…。

南4局(親:多井選手)

小林選手は4mを引き、北切り。タンヤオに向かっていく。

5sを引いて25p待ちテンパイ。ツモるか、多井選手に直撃で着順アップ。

魚谷選手は5pが浮いている形であったが、ラス目のリーチに切れる牌ではないため1pで回る。

多井選手も2ピンをつかんだ。

ここは丁寧に6p切り。最近は統計上の差が低いことが分かり、あまり聞かれなくなったが、多井選手は間4ケンという言葉をけっこう使う。1と6が捨て牌に切られているときは間の25待ちがあるという格言である。

ツモることはできずに小林選手の1人テンパイでゲーム終了。小林選手は無念のラスとなったが、TEAM雷電よりトータルポイントは上で終了することができた。

残すは翌日のKONAMI麻雀格闘倶楽部が2戦でパイレーツのポイントを超えることができるかどうかである。その差は200.6ポイント。8万点トップ2回という若干非現実的にも思える条件ではあるが、KONAMIは腕を振って全力でその条件を満たそうとしてくるであろう。

惜しくもファイナル進出はほぼ潰えてしまったが、トップをとった黒沢咲選手のインタビュー。去り際が本当に美しかった。ご出産されて落ち着いたらまた黒沢選手の麻雀が観たいです。

「雷電の麻雀はおもしろいんです!」

セミファイナル最後の日

前日の激闘を勝ち抜いたパイレーツファンにはどこか楽観的な空気が流れていた。KONAMI麻雀格闘倶楽部は2戦2トップで16万点を稼ぐ必要があるのだ。普通に考えれば非現実的である。

しかし、勝負事は最後までわからない。KONAMIは最後まで腕を振って戦ってくる。1回戦の登板は高宮まり選手。

高宮選手といえば容姿が注目されることが多いが、高宮選手は麻雀プロとして麻雀を一番みてもらいたいと思っている選手である。

「麻雀プロとして色んな活動があって楽しいけど、やっぱり1番に麻雀をみてほしい」
出典:第17回天空麻雀女性大会優勝特別インタビュー(日本プロ麻雀連盟公式サイト)

これは高宮選手が2015年のインタビューで語っていたものである。それ以来ひそかに高宮選手の"麻雀"に注目するようになった。それを一番感じたのは2018年に行われた地方リーグでのことだ。

日本プロ麻雀連盟の第17期北関東プロリーグに参加していた高宮選手は予選3位で通過、4回戦制の決勝は最終戦で逆転し北関東チャンピオンに輝いた。それだけでは終わらず地方リーグの優勝者8名で行われる地方リーグチャンピオンシップ2019に北関東代表として出場し、優勝した。

お世辞にも知名度が高いとはいえない地方リーグの戦いに参加をして、結果を出して帰ってくる。本当に麻雀に対して真摯に向き合っている証である。

Mリーグ2018の成績は振るわなかったが、Mリーグ2019では人が変わったかのように強気な打ち手となった。圧倒的な攻めの強さはMリーグに大きな爪痕を残し、相手選手を怖がらせた。「淑女なベルセルク」その名に違わぬ姿で最終決戦に挑んだ。

期待に応えて、高宮選手はトップ。トップ獲得が絶対条件となるのゲームで、期待に応えてトップをとれる選手が一体どれほどいるのだろう。素点こそ大きく稼げなかったが、2回戦に望みをつなげた。素直に拍手したい。

2回戦の登板は藤崎選手。120700点のトップを取れば、パイレーツをまくって大逆転である。一部では藤崎選手は爆発力がないからどうなのという意見もあったが、自分はまったくそうは思っていなかった。

なんといっても現・鳳凰位である。Mリーガー16人を輩出する日本プロ麻雀連盟の頂点に君臨する男だ。何度もタイトル戦を闘い抜き、優勝を勝ち取ってきた強者。条件戦はお手のものである。魑魅魍魎が集まる日本プロ麻雀連盟のA1リーグに長年在籍をして、結果を残している。ただのお茶目なおじさんではないのだ。

少し前に石橋選手の白アンコの69p待ちテンパイに、沢崎選手が9pを止めたシーンが話題になったが、連盟のA1リーグでは傍からみると意味不明なビタ止めが日常茶飯事で起きる。そういう人達の集まりの中で決定戦に進み、優勝したのだ。2度目の鳳凰位獲得である。

藤崎選手は東場で80300点までポイントを伸ばし、気づいたら条件クリアまで40400点となっている。東1局、我慢を重ねて最高形に仕上げてからのバイマンツモ、ダマテンでのアガリ、ストレートなリーチすべてが噛み合っていた。親番が落ちた局、テンパイでつなげられていたらかなり際どいところまでいったかもしれない。チームポイント的に余裕がある和久津選手がKONAMIに走られてもよいと、受け気味に回っていたら、KONAMI大逆転は割と現実的であった。

藤崎選手、条件こそ満たせなかったがトップ。KONAMI2連勝でセミファイナルは幕を閉じた。

前日の黒沢選手のインタビューもそうだったが、藤崎選手の表情もどこか晴れやかだった。敗退となってしまった悔しさは当然あるだろうが、やれることはやったという充実感が滲み出ていた。KONAMIは前原選手を筆頭に佐々木寿人選手、高宮選手、そして藤崎選手と本当にバランスがとれたよいチームである。来季の奮闘に期待したい。

パイレーツ、ファイナル進出おめでとう!!!

行くぞ!!! "偉大なる航路!!!!"

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