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映画「オッペンハイマー」は原爆投下の場面を8.6秒流したか〜タイ・チェンマイで見たレビュー〜


映画オッペンハイマーのSNS問題

アメリカ映画「オッペンハイマー」と「バービー」のことが話題になっている。ベタなニュース記事はこちら。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/35a0279f20189b055cfd2e354a3fbf54d6de82ad

より深い考察はこちらの記事が参考になる。

バービーの頭をキノコ雲にしたしょうもないコラージュは、アメリカの一部のネット民が茶化してやったモノであり、その意図はよくわからない。単なる遊びなのか、コメディ映画と戦争映画という両極端な映画を抱き合わせ商法したやり方を揶揄する意図があったのか、よくわからない。

日本では「オッペンハイマー」が公開される予定は今のところない。そのため、この映画の内容について詳しく語った専門家じゃない一般の日本人の言葉は少ない(と思う。少なくとも、自分はほとんど目にしていない)。
なので、先日ここタイ北部チェンマイにてIMAXで見てきた自分が、その記憶があるうちに書き残してみたいと思う。
(記事アップは2023/8/6だが、視聴は1週間前)

タイでIMAXで見てきた(ただしタイ語字幕)

けっこう映画は好きで、映画館には月に1回程度は来ている。最近見たのは「インディジョーンズ」「ミッションインポッシブル」という往年の映画の続編。それぞれハリソンフォード・トムクルーズというハリウッド映画スターが出演、もう80代と60代の高年齢・高収入のスターさま。それでもアクションで楽しませてくれる快作だった。
タイの映画は「サウンドトラック」と言われるオリジナル音声にタイ語字幕のものと、タイ語吹き替えのものとがある。タイ語吹き替えは子供とアニメ映画を見る時ぐらいで、いつもオリジナル音声・タイ語字幕を選んでいる。オリジナル音声=ネイティブ英語で、正直TOEICとかで点が取れている自分でも50%聞き取れれば良い方だ。アクション映画は派手な動きがあるので、見ていれば大体の話がわかる。
そういう意味では、この「オッペンハイマー」は恐らく過去最高レベルで英語が聞き取れないと予想していた。

聞き取れない英語・・・でも伝えたいことはわかった(ネタバレあり)

案の定、映画は会話劇みたいなもので、時系列で進むのではなく、戦後オッペンハイマー博士が公聴会で責められている場面から、過去を振り返るような長短のインサート映像が入る形で進んで行った。以下、覚えているだけ箇条書きで書き出します(ネタバレ)。

・博士はリンゴに毒を仕込んで誰かを殺そうとした。
 (注:これは事実ではないとお孫さんが反論している)
・博士は共産主義者の女と不倫した。コーランを読みながらエッチするシーンではおっぱい見えてた。(イスラムの国などではCG加工で見られなくしてあるらしい)
・博士はユダヤ系で、ドイツがヨーロッパを駆逐しているのを止めたいと思い、原子爆弾の開発を目指した。
・アインシュタインも出てきて、科学的なことや哲学的な話をなにやらしていた。
・いろんな人が研究に携わり、徐々に開発は進んで行った。
・ほぼ完成に近づいた頃、ドイツは降伏し、この爆弾を使う必要はなくなったという開発者グループの女性もいた。
・最終実験はけっこうみんなビビってて、地球が割れるんじゃないかという懸念すら感じていた。
・実験は行われて無事成功したが、グラサンかけたり地面に伏せたりしてみんな防いだつもりでいたが、あれじゃ被爆は免れないだろうと思った。
・軍部のお偉いさん方が集まって、戦争を止めるためには降伏していない日本に落とすべきだ!一発じゃなくもう一発落とすことで「俺たちまだまだいけるぜ」と脅せる、それでソ連もビビるだろうとかいう話をしていた。
・日本の12都市が原爆投下候補地だったが、お偉いさんの一人が「ハネムーンに行ったことがある、いい街だ」とかなんとか言って京都は候補から外れた。
・原爆投下されたよ、というニュースをオッペンハイマーはラジオで聞いたっぽい。
・原爆投下の映像は8.6秒どころかゼロ秒。一切流れなかった。
・オッペンハイマーは時代の寵児、科学者のカリスマに祭り上げられて、各地で講演に招かれた。
・講演の中で、「これは人類の勝利だ」みたいなことをのたまっていたが、目の前の聴衆が歓喜する姿が歪み、ピカドンの光に包まれてぐにゃっと歪んで消えていくように見え、オッペンハイマーは今さらながら自分の開発した原爆の恐ろしさに後悔し始めた。
・戦後、オッペンハイマーは核の抑止力を国連に持たせようとしていたが、ソ連とか他の国でも原爆開発がされていたので、お偉いさん方にスパイじゃねえのか?と吊し上げにされた。
・その中で、昔付き合ってた共産主義者の女のことも奥さんの前でバラされ、映画の中でも奥さんの前で女が博士にまたがっておっぱい丸出しで腰を振る場面が描かれた。
・結局オッペンハイマーはスパイ容疑は晴れて罰せられることはなかったが、一度はヒーローに祭り上げられた彼の名声は地に堕ちた。

英語が難しく聞き取れないところばかりだったので、ディテールは間違っている可能性がある。
ネタバレ記事を置いておくので、正確なところは確かめて欲しい。

オッペンハイマーで描かれなかったこと

この映画で描かれなかったことは、以下の通り。

・広島・長崎での原爆投下の正確な描写。
・被爆者がどんなに残酷な目に遭ったかという正確な描写。
・原爆投下された後の日本の様子。
・核実験で被曝した人々の様子。

私たち「はだしのゲン」を読んだことがある日本人には、はっきり言って物足りない。

はだしのゲンが描いたこと

「はだしのゲン」を小学校の時に図書館で借りて読んだ。子供心に、怖いながらもなんだか夢中になって読んだ記憶がある。すごくショッキングで、いまだに覚えている。
8/5に下の動画を見た。作者の中沢啓治さんが自分の被曝体験を元に身骨を砕く思いで漫画を書いていたことを知った。

なんと少年ジャンプに連載されていたという。それは知らなかった。
残酷な描写が少年誌で描かれることで、当時もクレームが来て表現を抑制する必要があったとのこと。それでも、はだしのゲンではこのような描写があ
る。

以下のリンク先には、残酷で目を背けたくなるような画像が連続します。ですが、それは漫画です。漫画でもこれだけ残酷なのだから、実際にはどうだったのか、想像してみるといい。

何も罪もない一般市民が原爆で一瞬にしてなぶり殺され、皮膚や骨まで溶けて取り返しのつかない後遺症を負わされれる。
一生消えないトラウマを焼き付けられる。
さっきまで話していた家族や友達が消える。
住んでいた家がなくなる。
学校がなくなる。
車も道路もなくなる。
川は水を求める瀕死の人たちでいっぱい。
死体もゴロゴロ。

CGで描いてみろよ。ハリウッドよ。
「プライベート・ライアン」ではやっただろう?

上記はYouTubeに上がっているものだが、実際のプライベート・ライアンの映画ではもっと残酷なシーンがあった。人の手足が飛び、内臓が飛び散り、人がぐちゃぐちゃになる様子が、CGで描かれていた。

戦争映画で残酷な描写がされたこともあるのに、なぜ原爆被害は漫画で描けて、映画でなぜ描けないのだろう?コンプラか?

原爆投下は間違っていなかった?

まっちゃんがいいことを言ってくれている。
ただ、この発言は2005年のものだ。
アメリカでも、原爆投下が正しかったという人は少なくなっているという。

 広島への原爆投下を認める米国人は、当時は85%。42年後の2004年には57%と3割減。正当化する者は46年後の1991年には63%だったが、70年後の2015年には56%と減っている。
Declining Support in Both the U.S. and Japan for America's Bombing of Hiroshima and Nagasaki | Pew Research Center

映画「オッペンハイマー」はそれでも光明?

この映画は、反戦映画とは言えない。「はだしのゲン」の作者のように、涙を流しながら作られた作品とは思えない。
博士の人間としての内面を描いたところが大きく、日本人から見ればなぜ原爆を描かない?という思いがどうしても強く出てきてしまう。

恐らく、まだ現在の欧米のマーケットでは描くのは難しいという判断だったのだろう。今回コーランについてのタブーを冒すような、日本人からしたら理解し難い冒険をするなど、この映画の製作陣はある程度既存の規制を壊そうという思惑は感じられた。

いろいろと物足りないとは思うが、それでもこの映画「オッペンハイマー」は、今までの原爆に対するハリウッドの描き方から一歩前に進んだとは思う。
原爆を作った博士が、自責の念に駆られたという心情描写があったことは、評価できる。
今はバービーとの抱き合わせからネットミーム化し炎上しているが、それを機会に戦争や原爆について考え直す人が増えることを祈ろう。
実際に私も、この映画を見てこのnoteを書こうと思ったし、見る人が増えるともっと原爆や平和について世の中で議論されることになるだろう。
このnoteが、少しでもそれに貢献できるのであれば、本望だ。

タイでもKindleで「はだしのゲン」が読める

解像度がイマイチだけど、子供の頃読んでいた「はだしのゲン」がタブレットなどで読めるのはいい。
子供にも今日は少し時間を取って一緒に読みたいと思う。
海外にいながらでも、平和教育はできる。
タイでできるなら、他の国でもできるだろう。

私の平和活動

何も平和活動は、原爆のことを教えることだけではない。
周りの人たちと協調して、つつがなく暮らしていくことも、立派な平和活動だ。
困った人がいたら助けてあげる。それも立派な平和活動だ。
私の平和活動は、今はこれ。

チェンマイで不慮の死を遂げたミュージシャンの遺族をサポートしてあげたい。Tシャツ購入で少しでも助けになるのなら、もっと広めたい・・・。
この記事は、涙を流しながら書きました。

もし日本から購入したいという方がいれば、メッセージをください。
DMでも、サイトから問い合わせでもいいです。


どうぞよろしくお願いします。

RIP K. AEK

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