見出し画像

翻訳者になるには? という問いに答えてみた 矢能千秋

矢能千秋 
 
レッドランズ大学社会人類学部卒、英日・日英翻訳者。共訳書『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』ウィルソン=リッチ著(河出書房新社)、訳書『きみがまだ知らないティラノサウルス』『きみがまだしらないトリケラトプス』『きみがまだ知らないステゴサウルス』ベン・ギャロッド著(早川書房)。@ChiakiYano

 翻訳者になりたい、質問がある、という呟きが流れてきたので、質問に答えました。質問者の方のブログにも掲載されますが、転載可とのことでしたので、こちらでも紹介します。

1.現在どういう形の翻訳家なのか、新卒で翻訳の道は進んだか(フリーランスor企業所属など…)

 現在どういう形の翻訳家なのか:
 
翻訳会社に登録して英訳を請け負っていたり、ウェブメディアから記事の和訳を委託されたり、出版社から声がかかって書籍の和訳をしたりしています。

新卒で翻訳の道は進んだか:
 
新卒で就職したのは日本の企業で、約9年勤めました。内定をもらっていたのは海外事業部でしたが、バブルが弾けて子会社に出向することになりました。ここでは広告営業、セミナー企画、展示会出展などを手がけていました。3年くらい勤めてから、関連会社の海外事業部に転籍し、5年ほどロサンゼルス・オフィスとの窓口を担当しました。その後ロサンゼルス・オフィスに出向し、半年間働いたあとに帰国。東京で働きながらサイマル・アカデミーに通い始めましたが、半年後に会社を辞めて通訳者・翻訳者養成コースで学びました。1年半で9クラス受講しました。ですから、新卒では翻訳の道は選んでいません。

2.どういった経緯で翻訳デビューしたのか(入社orトライアル合格orご縁など…)
 
通っていたスクール、つまりサイマル系列のエージェントに登録しました。翻訳者養成コースを終了して半年経ったころでした。週2回インターネットラジオを聞いて、内容をまとめる、という仕事を1年契約で頼まれました。契約は1度更新されたので、この仕事は2年間続けました。通訳者養成コースの受講歴もあったため、音声を聞いて要約するという、通訳でもなく翻訳でもない種類の仕事がきたのだと思います。けれども、聞き取りしてテキストに起こしてから訳していたので、自分ではこれが最初の翻訳の仕事だったと考えています。

3.デビューするまでの語学勉強歴や留学歴など
 
英語の学習歴としては、小学校のときに通っていた英会話が最初です。この辺りの話はKazuki ChannelというYouTubeにあるので、ご覧ください。高校生のときは週1でYMCAの英会話、そのほかにEnglish Adventureという教材でシドニィ シェルダンの『追跡』を聞いていました。このころから洋楽の歌詞の意味を調べたり、海外の雑誌を取り寄せてクリッピングしたり、ペーパーバックを読んだりしていました。サリンジャーが好きで、作品は一通り原書で読みました。大学入学後は、2年半大学の国際寮に住み、サークルではESSとシェイクスピアの英語劇団に入っていました。3年次の夏から1年間アメリカに留学し、そのまま編入して、計3年で卒業しました。大学時代に取っていたクラスは、こちらにまとめてあります。専門は社会人類学です。会社勤めを9年したあとに、サイマル・アカデミーで通訳・翻訳を1年半学びました。受講したクラスは、次の通りです。ビジネス通訳、ビジネス翻訳、通訳入門、翻訳入門(英日)、翻訳入門(日英) 、通訳者養成コース(入門科)、翻訳者養成コース(日英 基礎科)、翻訳者養成コース(日英 本科)、出版翻訳入門(英日)。
 ここまでが初仕事までの学習歴ではありますが、常に勉強をしてきましたし、現在も続けています。翻訳は、始めるのはたやすいですが、続けるほうが難しい仕事だと思います。2005年からの大きな動きは、こちらにまとめてあります。2013年に出版翻訳をやりたいと思い立ち、勉強を始めました。2014年から4年間、翻訳フォーラムの勉強会に参加し、2016年から1年間、青山ブックセンターの翻訳講座に通い、さらに2017年から4年半、朝日カルチャーセンターで「英米小説の翻訳」を受講しました。そのほか、不定期で「英米小説翻訳超初級」にも参加しています。最近は、ヤングアダルト向けの社会問題について書かれた本を訳したいと思い、ヤングアダルトの先生の勉強会で学んでいます。

4.なぜその翻訳分野にしたのか、理由がありましたらお願いします
 
英訳歴が21年、和訳歴は10年になるのですが、英訳を始めたのは、英訳のほうが儲かると言われていたからです。生計を立てるために翻訳業を始めたので、できることから始めたら、英訳が先でした。鉄道会社のビジネス文書を英訳するチームに入れてもらい、鉄道の仕事ばかりをコロナ禍の前くらいまでやっていました。10年くらい経ち、東日本大震災後に出版翻訳をやってみたくなり、現在はウェブメディアの記事翻訳、書籍の翻訳の仕事を増やしています。

5.翻訳のあれこれ(難しさ、楽しさ、やりがいなど…)
 
日本は島国なので英語も使わず、日本語だけで、日本人とだけ付きあうことも可能かもしれませんが、海外の文化を学び、ほかの国の人と分かり合うためには、外国語を理解し、自国語へ訳す作業が欠かせません。自動翻訳でいいじゃないか、という人がいますが、同じ言語を話す人同士であっても、言葉ひとつで喧嘩になります。自動翻訳は完璧ではないので、そのミスが引き起こすいざこざがある限り、人による翻訳は求められます。ウェブメディアの記事や書籍の翻訳を通して、言葉や文化の壁を越えて、世界中の人が争うことなく幸せに暮らせる世の中を次の世代に残したいと思います。

6.オススメの勉強方法
 
自分では、いま参加しているヤングアダルトの勉強会で、先生の訳書の原書を訳しています。訳書は読まずに原書を元に自分で訳し、先生の訳文と比較します。
 文法が弱いと感じる人は、文法のおさらいをするとよいでしょう。英語の本を読むことも大事ですが、日本語の本も読むことを薦めます。英語に力を入れてきた人は、日本語の勉強が疎かになっていることがあり、日本語と英語が入り交じった言葉を話すのがかっこいいと思っていることがあります。原文を正しく理解し、原文の構造に引きずられることなく、日本語らしい日本語を書くには、日本語の本もたくさん読むとよいと思います。

7.翻訳家を目指す方へのメッセージ、一言
 
会社勤めをしながら翻訳の勉強をしている人も周りにたくさんいます。専業になることにこだわらず、まずは生活を安定させるとよいでしょう。翻訳・通訳に関する情報を発信している団体はいくつもあるので、フォローするとよいです。続けていると道は開けると思うので、続けられるように仲間が見つかるとよいように思います。

日本翻訳者協会
https://twitter.com/jat_org

[PROJECT 2022] わたしが訳した本 ※登壇します!
日付:2022年4月23日
時間:1:30 午後 - 3:00 午後
場所:Online (Zoom)

JATコンテスト実行委員会によるコンテストセッション
[PROJECT 2022] LET'S TALK ABOUT JAT TRANSLATION CONTEST EXPERIENCES
日付:2022年4月23日
時間:9:00 午前 - 10:00 午前
場所:Online (Zoom)

翻訳者のためのコミュニティサロン「洋書の森」https://twitter.com/youshonomori

翻訳フォーラム シンポジウム
日時:6月26日(日)
http://www.fhonyaku.jp/

通訳・翻訳ジャーナル
https://tsuhon.jp/aboutus

矢能千秋 
 
レッドランズ大学社会人類学部卒、英日・日英翻訳者。共訳書『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』ウィルソン=リッチ著(河出書房新社)、訳書『きみがまだ知らないティラノサウルス』『きみがまだしらないトリケラトプス』『きみがまだ知らないステゴサウルス』ベン・ギャロッド著(早川書房)。@ChiakiYano


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?