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【ショートショート】ノスタルジック祇園祭 前編

「よーい、よーい、えーんやーらーやー!」
ぎゅ、ぎゅぎゃっ!!
掛け声と共に、船鉾の大きな車輪が前に動く。
コンコンチキチンコンチキチン、、、、、
お囃子を聞きながら、大きな綱を、真っ黒に日焼けした顔の子どもたち、町のお祭りを仕切っている大人たちが一生懸命引っ張り、祇園祭の鉾の引き初めが始まる。祇園祭は、幼いわたしにとっての夏の始まりだった。

7月の頭から、同級生の男の子たちは、それぞれの町内の鉾に乗るために、お囃子を練習し始める。
鉾の櫓に併設する建物はいつも決まっていて、その二階は、お囃子の稽古場になる。
女の子も、その稽古場に行って、稽古が終わるとみんなで遊んだ。

「ちまーき、どうですかー!」
宵々山や宵山では、みんなで浴衣を着て、それぞれの町内で用意したちまきや、うちわの売り子さんをするのが楽しかった。

町内神事係の父が、家、伯牙山、ちまき売り場を張り切って行き来して楽しそうだ。巡行の日、女の子は、鉾に乗ることは無いけれど、お父さんやお兄ちゃん、友だちがみんな駆り出され、祭囃子で鉾に乗るか、山鉾巡行の行列に裃を着て練り歩く。

わたしも、妹や母と一緒に、巡行するあちこちを回って、父を見つけては手を振った。
時には、鉾を見上げると、お囃子を頑張ってる友だちを見つけて応援した。

祇園祭のど真ん中にある小中学校区から、今は少し離れたところに住んでいる。
けれど、祇園祭のが始まるとその懐かしい想いに駆られ実家を訪れる。
人の数はさらに増えたとは思うが、その風景は昔と変わらない。
スチームサウナのようにまとわりつく湿気と人混みの波に乗って、実家への道を歩きながら、お祭りの風景を楽しむ。
懐かしさ、温かさ、今は亡き人をしのぶ切なさ、色々な思いが込み上げる。
何と表現すれば良いのか。
「ノスタルジー」わたしの好きな言葉の一つが、眉間のあたりに浮かんだ。

その瞬間、目の端に懐かしい人らしき姿を捉えた気がしたので、その方向に目線を運ぶと、浴衣を着た、すらっと背の高い青年と目があった。自分の息子ぐらいの年頃だから17、8歳といったところだろう。
誰かに似ていて、見覚えがあるような気もするけれど、知らない青年だった。
青年は、私と目が合うとニッコリというよりは、満面の笑顔で私の顔を見ている。
この辺りに未だに住んでいる同級生は少なくないので、もしかしたら、誰か同級生の息子なのだろうか?とも思った。
もっと幼い頃に会ったことがあって、向こうは成長とともに顔が変わって、私には分からないけれど、向こうは私を覚えているのかもしれないという考えが浮かんだ。

すると、青年は徐に、私に近づいてきた。
「こんばんは。僕のこと誰かわかりますか?」

「えっ?」私は驚いて、青年を見上げた。やっぱり知らない子だと思った。けれど不思議なほどに懐かしい気持ちが込み上げる。

「いえ、正直、あなたのことを知りません。もし前に出会っていて、私が忘れていたならごめんなさい。
誰か私の同級生の息子さんかしら?」

その瞬間、雑踏に行き交う人々が止まったように見えた。
私は目を擦って周りを見ると、別に何も変わりなく、祭りの喧騒の中にいるわたしと青年だった。けれど、なぜか二人の周りの空間が異質な空気のカプセルに包まれているような感覚だ。

青年はニコッと笑い、
「じゃあ行きましょう。」とわたしを先導するかのように歩き出した。
青年は、わたしの実家の方に向かったようなので、着いていくように一緒に歩き出した。

実家のあるブロックに差し掛かると、少し人の数が減り歩きやすくなった。
毎年と同じように【伯牙山】が美しくゴブラン織の衣に身を包み、たくさんの提灯でライトアップされて荘厳な姿で建っている。
その横には、チマキやうちわ、手拭いなどを並べて、浴衣を着た町内の人やその子どもたちが、「ちまーき、どうですかー」と声を揃えて、伯牙山のグッズをPRしている。

わたしも幼児の頃から小学校までぐらいは、それをするのが楽しみで、率先して大声で【ちまき売り】をしていた。
胸の奥が温かくなる思い出だ。

「さあ、綾西公園に行きましょう。」
青年に促されてる自分がおかしいとも思わず、自然な流れで、実家の真裏にある公園に続く路地を歩いた。

数名の中学生ぐらいの男の子たちが、小走りに私たちの横を通り過ぎ、公園に向かって行った。



to be continuied...



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