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仕事の失敗をガン詰めする日本人と、懸命に相手の良さをみつけようとする外国人。

食卓にて

外資のIT企業にいる夫は、食事時にしばしば自分が発見したことについてシェアしてくれる。

少し前に「日本人は他人をなかなか褒めないけど、それって文化的なものなのかな?外国人(主に英語圏)はクレームを入れる時すら、お礼やポジティブなフィードバックをしてから本題に入るんだよ」と言っていた。

とある部署(本社)にお願いしなければならない仕事があり、その仕事を担当している社員(外国人)がどうしても必要なクオリティの仕事をしてくれないのだそう。内容を精査すると本当に適当な仕事をしていることが否めないので、日本人社員からクレームのメールが飛びまくっている。しかし、一向に改善されないどころか、会議ではネイティブの英語で一方的にまくしたて責任を逃れていくのだという。

英語を書くのが得意で、話すのが苦手な日本人には大変部が悪い闘いではあるのだけど、夫の目には何か仕事をしてもらった時に、そもそもお礼を言ったり褒めたりすることをしない日本人が、クレームする時だけメールで相手を執拗に詰めていくという光景そのものに疑問を持ったようだ。
外国人社員たちは、誰かの出来の悪い仕事にも、まずはその依頼を受けてくれ、自分の仕事に時間を使ってくれたことに対してお礼を述べるか、ポジティブな側面をみつけて褒めることを必ずするんだそう。
そのほうが気持ちよく働けるなら、そうすべきだ。
夫はそう思って自分の今後の行動を修正しようと決めたようだった。

それとは別に夫は『人を褒めるのも褒められるのも得意ではない』というのが日本人の特徴であり文化ならば、それは無理に修正すべき対象ではない。とも思っていたらしい。
「日本人は何を考えているのかがよくわからない」と言われるのならば、「日本人はこういうものなんだよ」と説明をしたらいいだけで、互いの文化を尊重し合って仕事をすべきである。と。

夫の解像度、上がる

それから数週間経って、また夕飯時にその話題が上る。
なぜ日本人は他人を簡単に褒めないのか?と。
生来の性格が恥ずかしがりだとかいう説ではちょっと納得がいかない。何を恥ずかしがっているかの説明ができないからだ。

むしろ他人を褒める時、相手に自分の気持ちを伝えたいというよりは、相手に高評価を下した自分の言葉に責任を持たなければという発想が強いのではないだろうか?と私は思い至る。
こんな些細なこと(人)を高く評価した自分自身があとから恥ずかしくならないだろうか?それくらいなら、そもそも職場では評価を口にしなければ良い。人は責任が発生する時に慎重になり、臆病になる。人をうまくおだてる人を「太鼓持ち」とバカにする風潮すらある。
私がそう言うと夫が腑に落ちた顔で、そうか。と言った。
『きっと、海外の働き方は短期だけ勤めて転職するのが主流で、日本は中長期で働くことが主流だからじゃないかな?』

夫の主張はこうだ。
海外では人材はフロー型が主流だ。短期間在職し、そこでの実績をもとによりよい職場へ転職するスタイルでは、目先の自分の利益に目が行きがちになる。短い期間で手柄を立てていくことを目指すので、部下にも同僚にも即座に気持ちよく働いてもらうほうが効率的だ。
一方ストック型の日本では、終身雇用制度に基づいた中長期ひとところに留まって働くことを美徳とされている。短期間でくるくると職場を変えることは美しくなく、信用されにくい。長く在籍することは信用を積み上げることとほぼイコールを意味する。すると、自分の立ち居振る舞いが先を見据えたものとなるため、常に慎重にならざるえない。いい意味でも悪い意味でも、人の間を波立たせることを好まない。その結果、人を褒めるにも中長期的な責任を持つ必要があるように感じ、相手に気持ちを伝えるという目的を達成するよりも、リスクが高く見積もられ敬遠される。

確かに、褒めなくたって、気持ちよい環境を作らなくたって、職場の人は基本的に留まり続ける性質があるわけだから、そもそも個人がリスクを冒す必要がない。社員同士気持ちよく働けるスキルがあっても、日本でそのスキルはそんなに高く評価されていないし。むしろ苦しい頑張り方をすることを美徳とするような文化でもある。
逆に、全く自分の管轄ではなくても「自分にサポートできることがあればなんでも言って欲しい」というスタンスを取る外国人の同僚は多い。基本的な姿勢と言っていいほどみんなそう。少なくともこの姿勢は日本企業ではほとんど見られない。自分の仕事の範囲を超える仕事はむしろ避ける、というのが私の実感だし、おそらく事実ではなかろうか。

人材の固定化のデメリット

ストック型とフロー型にはそれぞれメリットデメリットがある。
何か失敗してもリセットボタンが押せる感覚で働く人の仕事と、背水の陣で覚悟を決めた人の仕事のクオリティは違うのかもしれない。
しかし、日本は社員を解雇すらできないストック型なので、雇用が安定する代わりに高給取りのご老体が上に山のように鎮座し続けている。これを合法的に取り除く手段などない。超高齢社会ではデメリットがメリットを大きく上回る。そして、合法的に解雇するためにも非正規の雇用が便利なのである。非正規であることでリスクを抱えるのは企業ではない、働く人である。そして間違いなくこのストック型の働き方の社会では、犠牲者の多くが若者か女性である。
日本人は褒めるのも褒められるのも苦手なのはなぜか?という疑問から、結局は社会の根幹にある問題に行きついちゃう、悲しい。
人を素直に褒めて気持ちよく仕事ができるようになるのは、もっと人材が流動的な社会になってからなのかもね。



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