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駅ピアノ 街角ピアノ 空港ピアノ

NHKで不定期(なのか?)に流れている、『街角ピアノ』『空港ピアノ』『駅ピアノ』が大好きだ。世界各地の街角・空港・駅にただぽつんと置かれたピアノに、通りがかりの人たちがふらりと立ち寄って、思い出の曲や大好きな曲を弾き、自らの思いと人生を語る。演奏旅行中のプロとか地元のミュージシャンももちろんいるけど、ほとんどは一般の、ごく普通の人たち。で、その人たちの演奏がいいのだ。クラシックもあればジャズもポップスもあって、たまに日本のアニソンもあったりして、ジャンルは本当にそれぞれなんだけど、みんな本当に好きなんだな、というのが演奏する表情からにじみ出ている。

テレビの旅番組を見たり、何度かヨーロッパに行ったりして思うのだが、あちらは生活の中に普通に音楽がある。ワタシの子どもの頃にありがちだった、なんかわけも分からず母親に連れられて教室に通わされる感じはちっともなくて、夕食の後にお父さんがピアノを弾き、お母さんがフルートを吹き、お兄ちゃんがヴァイオリンを弾く。そりゃ子どもは自然に音楽をやるわけだ。楽器のWebショップを始めた頃にフランクフルトのMUSIKMESSEに行ったとき、耳たぶがピアスで埋まった破れジーンズの兄ちゃんがメンデルスゾーンを弾いてるのを目の当たりにして、これがヨーロッパの底力かと震えたことを憶えている。

こちとら子どもの頃からピアノ教室に通い、大学ではサークルで3年間仲間と音楽をやって、ほんの少しだけど腕におぼえがあるもので、この番組も最初のうちはどちらかというと演奏の方に意識がいっていた。この彼女服装はアレだけどめっちゃ上手いな、とか、爺ちゃんがんばれ、とか。ところがある時期から、演奏がどうのよりも、弾いている人の人生とか語られる思いの方に興味を引かれるようになってきた。

特に印象的だったのがこの人。
たしかデトロイトの空港で靴磨きをしている初老のおじさんがゆらりと座り、慣れた手つきでボブ・ディランの「Knockin’ on Heaven’s Door」を弾き始める。聞けば、長年バンドマンとして世界各地の米軍基地を慰問で回り、定年退職したばかりの人。そのまま悠々自適の生活をしたってよさそうなものなのに、すぐ次の仕事、それも靴磨きという、汚れ仕事ではあるけど客筋のいい(磨かなくてはいけないような靴を履く人が相手の)仕事を選ぶところに、むしろ余裕すら感じてしまった。

本当にいろいろな人がいる。定年退職後に妻が大好きな曲を弾いてあげたくて数ヵ月前からピアノを習い始めたばかりの人。難民として異国に渡り、音楽を心の友として必死で働いて家族を養っているお父さん。音楽家になる夢を抱いて留学してきた青年。お気に入りの曲を皆で弾いて歌って楽しむ少女たち。おばあちゃんの好きな古い曲を弾いて喜んでもらいたい男の子。子育てが一段落して昔やっていたピアノを再開したお母さん。グラスゴーだったか、家族も職も失って、まったくの裸一貫から再出発を目指す人には、頑張って、と思わず言った。そういういろんな人たちの話から何かを感じ取るのが、もしかしたらこの番組の趣旨なのかもしれない。

このご時世で海外ロケにも行けないので、最近は国内の街角ピアノも流れてて、それもまた面白い。当然ながら日本にだってピアノを弾く人は星の数ほどいるわけで、その人たちの人生もまたそれぞれ。ワタシも久しぶりに弾きたいよ。置く場所ないけど。

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