インタビュー企画②ー馬屋原剛編
お待たせいたしました!インタビュー企画の第2弾です。今回は馬屋原剛さんにお話を伺うことになりました!
馬屋原さんは看寿賞作家、また詰パラ同人作家でもあり既に実績十分ですが、ここ最近さらに勢いを増しているという印象です。
ーーで書きだしているのが私の質問、太字が馬屋原さんの回答、☆は私の独り言です。それでは早速行きましょう。
――なぜネットでウマノコというハンドルネームを使っているのですか?
『この詰2019』を作るにあたってtwitterをはじめて、そのプロジェクトが終わってkisy一族に入るとなったときにウマノコって付けました。詰将棋のテーマとしての馬鋸が好きなのと、本名に馬が入っているので。
――Twitterはいつ始められましたか?
2018年6月にはじめています。
☆思ったよりも最近でビックリです。
――創作をはじめたキッカケは?
将棋世界の詰将棋サロンに投稿したくて創作を始めました。
――はじめはどのような作品を作っていたのですか?
可愛い手筋ものを作ってました。
☆馬屋原さんにもそんな時代があったとは!
――なぜ詰パラを読み始めたのですか?
千駄ヶ谷の将棋会館にこども教室があって小学4年生から通い始めたのですが、その時に売店で詰パラを見た記憶はあります。なので存在自体は昔から知っていました。「幼稚園」のコーナーは幼稚園児が作ってると思ってスゲーと思った記憶がありますね(笑)。
相馬康幸さんの「詰将棋マニアックス」と「詰将棋おもちゃ箱」をネットで見たり、『近代将棋』などを読んだ影響で購読を開始しましたね。購読を始めたのは2003年12月号なので中学2年生の時ですね。
☆それぞれのリンクを置いておきますので、知らないという方はぜひ一度訪ねてみてください。
――詰パラ初入選は?
2004年12月号の短編コンクールですね。それ以前にも幼稚園などには掲載経験あります。
☆中学3年生で初入選というのは自分と同じですね!
馬屋原剛 詰パラ 2004年12月
☆序の付け方が可愛らしい。
――今の自分の作風を一言で言うと?
「狙い至上主義」ですかね。
――あれ、オールラウンダーじゃないんですか?
オールラウンダーを名乗るには短編が弱いんですよね。正統派でない短編なら作れるんですけど。
――なぜ短編は苦手なのですか?
私が知りたいくらいですけど(笑)。短編でみんなが良いと思っているものを自分は良いと思えないことが多いです。つまりは感覚の違いが原因でしょうか。
――基本的には長編作家ですかね?
ちょっと前まではそうだったのですが最近だと中編にも力を入れていて、今は中長編作家ですね。
――超長編について考えを教えてください。
作りたいという気持ちはあるのですが、ひとえに私の実力不足で作れてないです。既存のものであれば作れますけど、オリジナリティのある機構で作らないと意味が無いので。
それと、昔は『ミクロコスモス』をメアドにしていましたね。
☆1作も無いというのはとても意外です。
――代表作は?
『ガチャポン』ですね。
馬屋原剛 詰パラ 2014年7月
☆傑作!解説は作品集でどうぞ。
――なぜこの作品なのですか?
オリジナリティが自作の中で最も高いと思います。『手裏剣』も高いとは思いますが、一番手は『ガチャポン』ですね。
――詰将棋はどこから発想しますか?
詰将棋の課題を与えられて作ることが多いです。課題をどうやったら面白く表現できるか。もちろん人の作品を見た時に思いつくこともありますが、それだとあまり新しくならない気がしています。あと、ちょっとしたことでもとりあえずエクセルにメモしておきます。数年後に良いテーマに発展する可能性があるので。
――自分で自分に課題を課してやれば、無限に詰将棋を製造できるのではないですか?
それは苦手なんですよね。自分に自信がないので、自分で出した課題が面白いのか分からないです。
――課題自体が面白い必要はないのでは?どう表現するかではないのですか?
確かに…。やはり人からもらった課題の方がモチベーションが湧くということですかね。
――よく手掛ける(好きな)テーマはありますか?
態度保留と馬鋸ですね。あと伏線と知恵の輪も好きです。
――馬鋸と言われるかと思っていたら態度保留もですか。
解答選手権の金銀打ち換えとか名誉手筋とか、考えてみると態度保留は結構作っているような気がします。
☆この2作は大崎壮太郎さんのブログの「馬屋原剛という男」で紹介されています。
――記録作に挑戦するモチベーションは?
ギネス記録みたいなもので、条件さえ満たしていれば自分が一番だという気分になれるからです。でも、記録作は思ったほど世間から評価されないことに気付いて、最近はモチベーションが低下しています。
――つまり、世間から評価されるのが重要なんですか?
やっぱり承認欲求を満たすのが詰将棋を作る理由の大きな部分を占めていますね。
――自身の保持している記録の中で、自信のあるものを教えてください。
『槍の帝王』ですね。
☆動く盤面は以下。
――記録作作家(という表現があるのか分かりませんけど)で、意識している人はいますか?
中村宜幹さんと吉田京平さんですかね。『国士無双』は記録作の分野ではないのかもしれないけど、中村さんは今でも記録を追いかけてますよね。自分と同じ感じがしますね。狙いが大事で、配置とか収束とかはどうでも良いという(笑)。
自分の偏見なんですけど、記録を意識する人ってちょっと変わり者というか正統派ではないイメージがあるんですよね。そんな中で吉田さんは、正統派の作風っぽいのに記録作を作っているのが面白いです。
――合駒は好きですか?
構想作としてのグループ合駒には可能性を感じています。
☆私を喜ばせる良い答えですねぇ(笑)。
――詰将棋はどういう時に出来るんですか?
昔は授業中に作っていましたが、最近は仕事が終わって柿木に向かっている時に出来ます。
――創作における拘りは?
出来るだけ、手順を完全限定することですね。
☆確かにそのイメージあります!
――命名についての考えを聞かせてください。
作品の様子を表すものでないと違和感があります。例えば、煙詰に関係ないような地名を使うのは自分の感覚ではよく分かりません(笑)。あと、『ガチャポン』は良いネーミングだと思っています。
☆『ガチャポン』は、名は体を表してますもんね。
――花駒について聞かせてください。
合駒制限をしてしまえば面白いことがまだまだできるので、もっとみんな嫌がらずに花駒を置いて作品を作れば良いのにと思ってますね。
――玉方持駒制限はどうですか?
玉方持駒制限もしちゃって良いと思っていますが、反対派の意見も多いですよね。将来的には持駒制限ありが市民権を得られたら良いですね。
――最近合作の発表が多いですが、それはなぜですか?
オンラインで詰将棋仲間と話しているときにアイデアが生まれることがあるのですが、それを独り占めするのもおかしな話なので合作が増えています。
――「馬屋原原理(手筋)」はどうやって思いついたのですか?
はじめは手筋と呼んでましたが、久保紀貴さんに原理のほうが相応しいのではと言われて、その通りだと思いました。今では原理で統一しています。
馬の転回を防止する意味付けの限定合を考えていて、あれこれやっているうちに質駒を置くことで解決したという経緯です。作った時に新構想という意識はありませんでした。
――馬屋原原理の後続作の中で、お気に入りはどれですか?
久保紀貴さんの『パラレル』ですね。
☆馬屋原原理の後続作についても、やはり大崎壮太郎さんのブログで詳細に解説されています。詰将棋ファンは必見!
――「名誉手筋」はどうやって思いついたのですか?
全く覚えてないですね。パッと頭に浮かびました。
――作った時には新構想だと気付いていましたか?
こちらは気付いていました。「馬屋原原理」の頃と違って、何が新しいかに関して理解が深まっていたと思います。
――なぜ「名誉手筋」と名付けたのですか?
詰将棋解答選手権の飲み会で若島正さんに、この作品を『盤上のフロンティア』に引用して良いかを聞かれて承諾したのですが、その時若島さんに「フロンティアには看寿の作品も引用されていて、ここに掲載されることは名誉なんです」と言われた記憶があって、これを後日久保紀貴さんと大崎壮太郎さんのいる場所で話したら「それなら名誉手筋と呼ぼう」という話になり、そう命名しました。
☆変わった経緯ですね(笑)。
――自作の中でもっと有名になってほしい作品はありますか?
91龍、81と、21歩成、12玉、82龍、72と・・・と進む珍しい手順の作品です。
☆本作は冬眠蛙さんのブログ「軽趣向好作選78」で取り上げられていますが、それまでは特に話題になったことが無かったそうです。
――意識している作家は?
最近、自分は自分の路線だと思っているのであまり人は意識してないです。
――よく会う(連絡をとる)作家は?
岸本裕真君です。
――自分と作風が近いなと感じる作家は?
先程挙げた中村宜幹さんですね。
――好きな詰将棋のジャンルは?
知恵の輪です。
――印象に残っている作品は?
345手の再帰趣向を実現した田島秀男作ですね。再帰という数学的な原理を詰将棋に実装していることが面白い上、他の再帰作品は全てn2なのに、田島作は2nで、唯一オーダーが違ってまさに異次元だと思います。
☆この作品について知りたい方はYouTubeにあがっている會場健大さんの解説動画をご覧ください。
――好きな作品集は?
駒場和男さんの『ゆめまぼろし百番』です。
――古典への興味は?
無いんですよね。若島さんが連載されていた「夢想の研究」は面白いと思いましたが、自分から積極的に古典を見ようとはなかなかなりませんね。
――どの詰将棋会合によく参加されていますか?
特によく参加しているのは詰工房ですね。最初に参加したのもそこです。
――詰パラのデパートを担当されていた時の思い出は?
色んな特集をしたことですね。特筆すべきはeureka特集、プロ棋士特集、知恵の輪特集でしょうか。割と自由にやらせてもらいました。
――詰パラの中で好きなコーナーは?
最近はデパートですね。
☆デパートは詰パラの中で、現在もっともホットなコーナー。馬屋原さんの新作も多く見られます。
――順位戦や短編コンクールに毎年出品されているのはなぜですか?
オールラウンダーを目指しているので、順位戦で正統派短編を作れるところをアピールしたくて参加し続けています。短コンはずっとシードがあったから続けてきました。最近シードが途切れましたが、連続参加記録は継続中なので続けています。準優勝までしか出来たことないので、できれば優勝したいという気持ちもありますね。
――順位戦や短コン発表作の中でお気に入りは?
2016年B級順位戦のこの作品ですね。鈴川優希君に褒められたのが印象に残っています。
馬屋原剛 詰パラ 2016年6月
☆左右の桂の消去。先に76桂左〜84桂としてしまうと以下76桂合、66銀に同玉と進んで、飛の横利きがないため詰みません。
――詰パラの評点をどう捉えていますか?
あくまで1つの指標だとは思っていますが、割と気にはするほうですかね。低いとショックだし高いと嬉しいですね。
――詰パラだけでなくネットにも発表されていますが、発表媒体の使い分けについて教えてください。
やっぱり自信作は詰パラですね。詰パラ以外のところに良い作品を発表すると相対的に評価されるので、ネット発表で承認欲求が満たされるというのはあります。コンクール荒らしと言われることもありますけど(笑)。
☆何たる理由!
――ネットの発表先の中で、お気に入りはありますか?
裏短コンやYouTube短コンみたいな、ネット短編コンクールがあれば参加したくなりますね。
――詰将棋関連の好きなブログは?
「詰将棋メモ」を毎日見ていますね。それと、大崎壮太郎さんのブログは面白いです。
☆大崎さんのブログは私も好きです。もうちょっと更新頻度が上がると嬉しいんですけどね。
――フェアリー詰将棋も作られていますが、なぜですか?
自分の関わっている人でフェアリーをやっている人が多いこともあって、話についていけないようでは悲しいので自分もやってみたら面白かったですね。
――フェアリー詰将棋と伝統ルールの類似点・相違点について、考えを教えてください。
やはり規模の大きさが一番違いますね。もし人口が逆転したら自分もフェアリー中心で創作すると思います。類似点はよく分かりません。
――フェアリー詰将棋の中でオススメの自作は?
持駒の桂を原型消去する協力詰7手ですね。
馬屋原剛 Web Fairy Paradise 2020年5月
協力詰7手
☆Fairy TopIX 2020 短編部門2位
☆「玉方の駒台に頭の丸い駒が無い」という設定が肝。
☆なお本作、私のツイートが創作のキッカケだそうです。もしも私が自分で作っていたら、こういうセンスの良い作品にはならなかったでしょう。
――チェスプロブレムへの興味は?
元々若島正さんに勧められてプロブレムの解答競争に出ていましたが、年に1回しか無いのでだんだん興味が薄れていました。そんなところに藤原俊雅君という優秀な人物が現れて、彼の影響でまた興味が出てきたという感じですかね。
☆あら、褒めるのがお上手なこと(笑)。
――詰将棋とチェスプロブレムの類似点・相違点について、考えを教えてください。
やっぱり王手義務の有無が全く違いますね。フェアリー詰将棋の場合は苦労せずに創作できたんですけど、チェスプロブレムの場合は感覚が違い過ぎて思ったように創作できません。
☆何を面白いとするかの評価基準が異なる点も、なかなか難しいポイントですよね。
――指将棋での経験が、詰将棋の作風に影響を与えたと感じますか?
特にないですね。
――『ランダム詰将棋』シリーズでは1~7手を合計90作創作されましたが、どれくらい時間がかかりましたか?
1作あたり数分、かかっても1時間。そんなに苦労した記憶はないです。
――解説は大変でしたか?
文章を書くのが得意ではないので、平凡な解説になってしまいましたね。
――『ランダム詰将棋』の他のメンバーの印象を聞かせてください。
久保紀貴さんはかなりレベルが高い印象があります。藤原俊雅君は入門向けとは思えないツインを何個も掲載して面白いことやるなあと思いますね。太刀岡甫君と岸本裕真君は一般向けを意識して作っている感じがありますが、『3・5・7手ランダム詰将棋』の120番(太刀岡作)には驚かされました(笑)。
☆確かに120番は相当な珍作ですね。まだ買っていない人は急げ!
――春霞賞の選考委員をされていますが、馬屋原さんなりの構想作の定義を教えて下さい。
難しいところを突いてきますねえ。未だに曖昧なままです。
☆選考委員にも分からない「構想」とはいったい何なのか。
――春霞賞の他の選考委員の印象を聞かせてください。
久保紀貴さんは一番厳密派ですね。意味付けというところを意識されています。太刀岡甫君もかなり論理的です。會場健大さんは論理的なこともできるけれど、言葉では表せない感性を大切にしています。両刀使いの稀有な人材だと思いますね。
――『詰将棋年鑑』で長編のJudgeを担当されていますが、採点の際に重視していることなどはありますか?
過去作と比べた時のオリジナリティですね。
☆私もオリジナリティ重視ですが、完成度のほうを重視されている方もいるようです。
――風みどりさんのブログで課題「打歩詰打開」のJudgeを担当されていましたが、30作もある作品をどういう基準で評価されましたか?
春霞賞とは違うので構想への比重は下がりますが、メインはあくまで新しいかどうかです。
☆風みどりさんのブログで行われている「詰将棋つくってみた」は、非常に面白い創作Tourneyです。
――前回の斎藤光寿インタビューの時に紹介された改良図について。なぜ改良したのか教えてください。
改良図と書いていますが、あれ実は原図なんですよね。発表した時は欠陥に気が付いていなかったんですよね。その欠陥は説明するにはなかなか複雑ですから、ぜひとも作品集を買ってご覧ください。
――作品集を宣伝してください!
1手詰から長編まであるので、初心者の方からマニアの方まで楽しんでいただけると思います。
☆あの凶悪な1手詰ですね。
――20年間詰将棋創作を続けてこられた秘訣は何ですか?
作るのが面白い、面白いから作る、そんな感じですかね。それと承認欲求ですね。
☆まーた承認欲求(笑)。
――これまでの作家人生で一番嬉しかったことは何ですか?
やっぱり看寿賞受賞ですかね。
――詰将棋での夢は何ですか?
『ミクロコスモス』を超える手数の作品を作ることです。
☆もう何十年も更新されていませんからね。
――貴方にとって、詰将棋とは?
人生を豊かにしてくれるパートナーですね。
☆なんと言っても作品集が楽しみですね。マイナビから出るということですので、皆さんお買い求めください。
☆次回インタビューする人はまだ決まっていません。何人か頭には浮かんでいるのですが…。「この人に聞いてほしい!」というのがあれば教えてください。