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インタビュー企画③ー長谷川雄士編

インタビュー企画の第3弾です。今回は長谷川雄士さんにお話を伺うことになりました!

長谷川雄士さんは北海道大学の2年生で、半期賞受賞経験を持つ有望な短編作家です。ネットでは「はせがわ_ゆ」名義でも作品を発表しています。

ーーは私の質問、太字が長谷川さんの回答、☆が私がインタビュー後に付けたコメントです。それではお楽しみください。


――詰将棋創作を始めたのはいつですか?
中学1年の時に将棋部の部誌に載せるからってことで作り始めました。詰将棋は部内では結構解けるほうだったので、作ってみたら結構楽しくて。
☆そういえば私も部誌に載せてました。みんな同じですね。数十年後に高く売れるかも(笑)。

――その部誌は部員みんなの詰将棋が載るの?
はい、全員作らされてました(笑)。

――それって余詰とか無茶苦茶になりません?
中高一貫の学校だったので、強い高校生の先輩に見てもらったりして。

――本格的に詰将棋創作をしようという転機は?
中2までは年に1回の部誌のために作ってるって感じでした。どうだったかな。時系列はあんまり覚えてないんですけど、中3くらいでちょっとずつ・・・。狙いを持って作り始めたのは上谷さんの7手詰看寿賞(詰パラ2016年1月)を見てからです。

――ああ、シフマンね。
あれを見て、シフマンを作るかぁと思って。

――シフマンって、作るかぁと思ったら作れるものなんですか?
まあ一応。めちゃくちゃ下手でしたけど。
☆上手いとか下手とか以前に、創作初心者の段階でシフマンが作れちゃうというのが凄いです。キッズチャレンジを見てても思うのですが。

――詰パラとの出会いは?
よく覚えてないんですよね。シフマン作るか~と思った時点では読んだことがあったような気がします。あと中2か中3で桑原辰雄さんの『榛名図式』を読んでいた記憶があります。

――よく作る/得意な手数帯はありますか?
最近は10手台に変わってきたかなと思います。元はシフマンとかなんで一桁手数だったんですけど。

――代表作を教えてください。
これかなあと思ってます。

長谷川雄士
詰パラ2022年2月

64龍、同香、44龍、57桂合、58金、同玉、48龍まで7手。

両取りという珍しい狙いをわりと分かりやすく表現できたと思う。
☆初手44龍では24角と角を外されて詰みません。しかし41龍だと今度は59玉と潜る受けがあります。
☆玉方のこれら2種類の受けに対応するために64龍と捨てておいてから44龍。これで変化に応じて64龍と53龍を使い分けることができるのです!
☆大体こういうのは2手目65香合あたりの割り切りに苦労するはずなのですが、本作は66龍〜53龍で簡単に割り切れていますね。
☆桂合を出す収束も完璧で、個人的には7手詰の傑作だと評価しています。

――代表作以外で、個人的に好きな作品は?
この2つですね。

長谷川雄士
詰パラ2022年10月

53桂、同歩、32銀、同龍、51金、同角、42飛、同龍、33桂、同龍、52銀まで11手。

狙いを実質最短かつ少ない駒数で実現できた。
☆テーマは事前準備+Novotny。本作に関しては過去に私のnoteで取り上げたので、解説を見たい方はそちらでご確認ください。


長谷川雄士
詰パラ2023年10月

24飛、13玉、14飛、22玉、33桂成、同玉、34飛右、23玉、32飛成、13玉、24銀、14玉、23龍、25玉、15銀、同玉、14飛まで17手。

あえて変化紛れを減らすことで、狙いの部分に焦点の合ったつくりにできたと思う。
☆44飛の後ろの利きを発生させるために45桂を原型消去。5×5に収まった初形だけに不利感がある。

――創作の発想の源泉は?
高校のうちは困ったら中合を考えてましたね。最近は他の人の作品を見て作ることが多いのかなあ。例えば先程挙げたNovotnyの作も、小林敏樹さんの作品(詰パラ2015年5月)を見て短くできないかなと思って作りましたし。大崎さんの論考を見て作ったりもしたことあります。

――創作にかける時間は?
テーマとか構図決定の段階で迷走してる時間は長いんですけど、これで行けるなという方針が立ってしまえば数時間で出来ることが多いです。

――創作における拘りは?
主題が他の部分でも、線駒を打つ手が限定打になるように組み立てることが多いですね。先に手順を全部確定させてから作る癖があるので。

――好きな作家は?
小林敏樹さんと、柳原裕司さんですね。
☆おおっ!趣味が合いますね。

――折角なので、小林さんと柳原さんの好きな作品を教えてください。
2作ずつ選びました。

小林敏樹
詰パラ1984年7月

39飛、44玉、33飛成、同玉、22角成まで5手。

動きがダイナミックで楽しい。
☆『饗宴』にも収録されている有名な5手詰です。

小林敏樹
詰パラ1990年6月(改)

87飛、46玉、37金、同歩不成、36馬上、同と、45馬、同飛、47歩、同と、86飛まで11手。

作意変化のピッタリ感が好き。(改良によって追加された)37金の紛れも大きいと思う。
☆なぜ初手87飛なのか?その意味は、36馬という素晴らしい捨駒を同香と取る変化に現れます。47歩、35玉、85飛。この飛上がりのための限定打ということでした。
☆初手が87に決まったことで、4手目同との変化で86飛と浮く手が捨駒になるのも見逃せません。
☆なお、長谷川さんのコメントされている初手37金の手順前後は同歩不成、87飛の時に77歩合で詰みません。

柳原裕司
詰パラ1984年6月

54飛成、同馬、53角成、36馬、14飛、同馬、35香まで7手。

狙いがストレートに伝わってくるのが好き。
☆これは初見でした。柳原さんには飛2枚を連続で打ち捨てて角を半回転させる作品もありますが、こちらはバッテリーの根本を取らせる方法で馬の3/4回転を表現。

柳原裕司
詰パラ1987年4月

59香、56金合、58龍、46玉、55角、同金、57龍まで7手。

57合の変化といい、この駒数で纏まることといい凄いと思う。
☆2手目57合は68龍!で57龍の連結を見せつつ65地点を押さえて同手数駒余り。
☆金の裏に捨てる55角は指のしなる妙手で、7手詰はこう作りたいものです。傑作!

――意識している作家はいますか?
最初の頃は松下拓也さんでした。作ってるテーマが似ていることもあって。「この人、中合動かすな~」と思って(笑)。最近はこっちが中合動かさなくなっちゃったんで。

――好きな詰将棋を教えてください。
(長時間悩んだ末)この3作にします。鮎川まどかさんの7手詰、宮原さんの「閃々散華」、それから長谷川哲久さんの5手。

――長谷川哲久の5手ってどれのこと?
龍そっぽのやつです。

――ああなるほど(笑)。いいですね。手数の長いのは載せるのが大変だし、有名な看寿賞作とかも今更このnoteで紹介する意味が薄いので。そういう選び方は助かります。

☆というわけで長谷川さんに選んでいただいた3作を以下に掲載します。長谷川さんのコメントだけでは分からない人もいると思うので、☆でシナトラがちょっと解説を入れてます。

鮎川まどか 
詰パラ1994年5月

45桂、同銀、39香、同馬、34香、同銀、48飛まで7手。

理屈も面白いけれど、感覚的な部分、なんというか不思議さが大好き。
☆構成上45桂や34香という手はどうしても平凡になってしまうのですが、遠隔操作的な取らず手筋を実現した7手詰で、非常にモダンな作品です。

宮原航「閃々散華」
詰パラ2013年10月

13角、58玉、69金、同龍、57角成、同玉、93角、58玉、49金、同龍、57角成、同玉、68金まで13手。

狙いだけをすっきり表現していてきれい。
☆57玉型の左右角遠打は山田修司作、柏川作、そして本郷作など色々思い出せますが、中でもこの作品は強い光を放っています。

長谷川哲久
詰パラ1986年5月

59龍、47玉、56龍、同玉、58龍まで5手。

狙いの面白さ、狙いだけで完結している点が好き。
☆68龍がいなければ58龍まで1手詰。つまり68龍の消去が求められています。初手58龍とするのが普通ですが、57合とされて詰みません。そこで59龍の「そっぽ」が作意になります。2手目57合には48龍以下詰み。
☆つまり初手58龍では、その龍自身が邪魔になって先の変化の48龍が指せなかったわけで、ここにも妨害が発生しています。
☆8段目のライン上で、手前の駒が奥の駒を(初形+紛れで)2重に妨害という類例のないアイデア。個人的には、5手詰の歴史でベスト10に入る名作と評価しています。

――好きな作品集は?
巨椋鴻之介さんの『禁じられた遊び』です。作者が何を考えて作っているか分かるのが面白い。

――好きな古典はありますか?
大変悩ましいのですが、無双と図巧から1局ずつ選びました。無双91番と図巧41番。

伊藤宗看
将棋無双91番

78銀、同成香、79金、同成香、68金、同玉、58金、69玉、68金、同玉、57龍、77玉、69桂、同成香、78歩、87玉、99桂!、同歩成、76馬、同玉、98馬!、同と、66龍、87玉、77龍、96玉、97歩、同と、76龍、86合、85銀まで31手。

分かりやすく凄いし意味づけも面白い。
☆99桂〜98馬の意味付けのみを解説します。87玉まで進んだところでいきなり76馬、同玉、66龍、87玉、77龍、96玉は打歩詰。66龍に代えて98馬とするのは75玉、65馬、86玉、66龍、97玉でなんとこちらも打歩詰。なので、この筋を詰ませるために99桂、同歩成であらかじめ取歩駒を作っておくのです。それから76馬、同玉、98馬とすると、75玉は打歩が打開されて詰みなので同とと取るしかなく、それが今度は前述の66龍の筋の打歩を打開してしまい収束します。「取らず手筋による成らせ」の最高峰の1局でした。

伊藤看寿
将棋図巧41番

78桂、同馬、67銀、55玉、64馬、45玉、44銀成、同玉、43金、同歩、33飛成、45玉、57桂、同歩成、56銀、同と、57桂、同と、36龍、44玉、45歩、同馬、33龍まで23手。

狙いの表現がシンプルかつ上手いなあと感じた。
☆こちらも「取らず手筋による成らせ」みたいに見えますが、真の目的は67銀の消去による打歩打開(78馬の利きを通す)。初手の桂捨てが純粋な伏線になってるのがミソで、筋の通った全体構成はさすが看寿です。

☆無双はともかくとして、図巧からこの作品を持ってくるあたり、長谷川さんのマニアぶりが窺い知れます。


――会合に参加した経験は?
たま研に1回だけ参加したことあります。

――今後、参加する予定は?
実家に帰ったタイミングで詰工房に行ってみたいと思ってます。
☆詰工房は面白い人が多いのでオススメです。

――詰パラの中で好きなコーナーは?
「詰将棋の眺め方」が好きでしたね。北海道の下宿にいくつか詰パラ持ってきたんですけど、「詰将棋の眺め方」が連載されてた頃のパラばっかりセレクトして持ってきました。
☆「眺め方」は内容の濃い論考で面白かったですね!先人へのリスペクトを感じました。
☆基本的に、詰将棋界には論考が少なすぎると感じています。「眺め方」のようなコーナーが常設されたら個人的には嬉しいんですけどねぇ。

――詰将棋関連の好きなブログは?
つみき書店さんにはとてもお世話になりました。【詰将棋入門】の連載とか選題も凄く良いし、1作1作の解説が凄い丁寧で、高校生の頃に読んでめちゃくちゃ勉強しました。それから作品発表の意味でもお世話になってます。
他に、作品紹介系では市島さんの【1990年代の短編を振り返る】という連載があって、それも高校生の頃によく読んでいました。あと創棋会通信。あそこはテーマごとに過去作が紹介されるじゃないですか。テーマを絞って作品を見たいときは創棋会通信で見ることが多いです。それから作品の分析系も好きです。大崎さんとか、廣瀬さんのブログ。
☆急に饒舌ですね(笑)。ブログを読むのが大好きなようです。

――これまでの作家人生で一番嬉しかったことは何ですか?
つみき書店さんの【詰将棋つくってみた】で、柳原さんから優秀賞をもらったのが一番嬉しかったですね。

自分のお気に入りだった作品を、あの柳原さんから評価してもらえたっていうのが。ただ・・・。

――ただ?
ただ、その気に入ってる作品なんですけど、狙いが破綻してることに後で気付いちゃって・・・。

――そうなんですね。それならこの記事をアップするまでに修正してくださいよ。
いやー、既に直そうとは頑張ったんですけどね。まあ折角の機会なのでもうひと頑張りしてみますか。
☆というわけで直していただきました!

はせがわ_ゆ
つみき書店2022年4月(改良図)

32龍、22香合、13歩、同玉、46角成、24香合、33龍、12玉、45馬、同銀、13歩、21玉、43角成まで13手。

原図では、22香合が13歩、同玉、14歩以下の筋を防ぐ意味付けも持ってしまっていました。この改良図では、22香合は、ピュアに打歩誘致の移動合のための合駒になっています(22銀合の場合と比較して)。
☆45馬という好手が入り、使用駒も1枚減って最高の改良ですね!

――では最後に恒例として「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいな質問をさせてください(笑)。ズバリ、あなたにとって詰将棋とは?
楽しい遊びですね。
☆おい、斎藤光寿さんの時と言ってること丸被りやないか(笑)。

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