見出し画像

勝ちへのドラマは突然に

2月末の日曜日に、群馬県でフリースタイルの大会があった。

娘の所属するクラブでも行けるメンバーは参加することになり、半ば強制的に娘も参加することに。

練習のため1日学校を休み、金曜日から2泊する。仲のいいメンバーと泊まれるので、娘にとってはお泊まり会の延長のようなものに感じていたようだ。大会嫌いのはずが、その日を指折り楽しみにしていた。

下の子がまだ幼稚園児でガッツリとスキーをする訳でもないので、私達は他のお母さんと1日遅れで合流することに。

大会当日。ゲレンデまで見に行くと娘が側に滑ってきた。

「今ね、ボックス(スロープスタイルで滑る障害物のようなものの1つ。長い箱型)の技変えたから、めっちゃ練習してるー」

「初めはロックスライド(箱の上で板を横にスライドさせて滑り、降りる時に正面に戻す技)で降りてたんやけど、もう1人の子がスピンするから私もやったら絶対勝てるって言われたー」

初耳である。大会当日に技変えて大丈夫?そんな付け焼き刃で、動揺して失敗したら?いや、コーチは私以上にスキー選手としての娘をわかってるだろうから、出来ると判断してやらせてるんだろうけど…

いろいろな気持ちが湧き上がり、私の方がプチパニックだ。

そんな親を尻目に、娘はわき目も振らずに練習を続けていた。

友達の部門が始まり1度は見に来たが、「まだ時間あるよね?やっぱり練習してくる。動画撮っておいて」

そう言い残し練習に戻って行った。

あれは誰だろう。

今回の大会は出場者が少なく、ジュニア女子の部は娘を入れて3人。何もしなくても入賞するのだ。なのにあんな遊び気分で来ていた娘が、今まで見た事がないほど練習している。本当に別人を見ているようだった。

その後娘の練習を近くで見ようと場所を移した時だった。

ボックスで転び、娘がうずくまった。

少し距離があり何があったかハッキリ見えなかった私は、慌てて近づいていった。

うずくまって動かない娘に不安になり、さらに近づいた私にコーチが言った。

「転んだ時にゴーグルをぶつけたので、ケガは無いんですけど怖かったんだと思います」

「大丈夫?」娘に声をかけるが返事はない。ショックが大きかったのだろうか。まだ小さな身体で恐怖に耐えているのかと思うと、胸が一杯になって思わず続けた。

「怖いならもうやめてもいいよ。大会に勝つだけが全てじゃないんだから」そっと身体を包んで。

するとこの手を振り払って、急に娘が立ち上がった。

「ここまで来て出なかったら、何の為に来たのかわかんない!」

そしてサーッと滑り降りたのである。

「っっっは??」

こっそり負けず嫌いなのは知っていたが、そんなにそれを前面に出して勝ちに行くの?あの子が?

本当はビビリで慎重で、失敗したらカッコ悪いからと挑戦もしないようなあの子が?

土壇場で見せた本気に、私は少し泣いてしまった。


そしてその後の本番で技をキレイに仕上げてきて、見事1位を勝ち取ったのだ。


「あの子があんなに勝ちに行くなんて、ビックリしました」コーチに話しかけると、

「ボックス以外の技の難易度は娘さんの方が勝ってたんです。だからボックスの技を変えれば勝てるよ、やってみる?て聞いてみたんです。そうしたらやってみるって」

「仕上げてきましたよねー。本番に自分を1番いい状態に持って来られる。目標を持ったらそこに向かって自分で頑張れるし、彼女はもう選手ですよ」

と言ってもらえた。

表彰式で前に出た娘は、初めて自分から勝ちに行って勝てた事が嬉しかったのか、一皮剥けたようなスッキリした表情をしていた。

私はといえば、娘の劇的な成長を目の当たりにして、ドキドキが止まらないでいた。

この先いつまでフリースタイルをするかわからない。でももし明日辞めたとしても、今日のこの1日で、やらせて良かったと思ったのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?