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中国がテスラを必要としているのはなぜか?

2020年の初日、テスラはウィーチャットのパブリックアカウント上に、中国語で「2020年、頑張りましょう!」という新年のあいさつを公開した。

この新年のあいさつに続いて、1月3日にテスラは次世代の主力モデルであるModel 3の値下げを発表した。中国の工場で生産された標準航続距離アップグレードモデルのModel3(基本補助運転機能を含む)の販売価格を35万5800元から29万905元(補助金の加算を含む)に引き下げた。1月7日、中国にあるテスラの工場で製造されたModel 3の対外的な納車が正式に始まった。

テスラによる新年のあいさつの対象には、顧客だけでなくライバルも含まれており、自信に満ちたアグレッシブなメッセージだ。このあいさつの言葉を見て、アップルがiPhone4を発表した時に、周囲を唸らせたキャッチフレーズ「すべてを変えていきます。もう一度」を思い出した人もいるはずだ。

テスラのModel 3が電気自動車界のiPhone4となり、自動車業界全体の全てを変えることは可能なのか?多くのメディアの目は、中国国内の新エネルギー自動車企業に対してテスラがかけている競争圧力のみに留まっているが、観点を変えてみると、このような低い価格設定は、世界最大の電気自動車市場である中国に対するテスラの野心を十二分に示しているだけでなく、テスラのサプライチェーンの国内化が周囲の予想を上回るスピードで進んでいることも示している。

テスラのスピード

2018年10月17日、テスラは「9億7300万元を投じ、面積1297.32ムーに及ぶ上海の臨港設備産業パークの区画Q01-05を取得」したことを発表した。その1年前には、それまでは田畑が広がっていただけに過ぎなかったこのエリアが、テスラの巨大工場に姿を変えた。

工場の建設には多額の資金が必要だが、通常を上回るスピードでの建設ともなると、費やされる資金はさらに膨大なものとなる。

2019年3月、テスラは中国建設銀行や中国農業銀行、中国工商銀行、上海浦東発展銀行など多数の銀行から、合わせて35億元もの融資を受けた。その後の10月と12月に、同社はさらに多くの銀行と契約を交わし、「最も優れた国営企業だけが享受できる最低利率」で合計150億元もの融資を取り付けた。

資金が続々と流れ込んだことにより、テスラの巨大工場は通常なら1、2年はかかる工期を8カ月まで短縮した。同社のイーロン・マスク社長は目の前で起こっている全てを「驚嘆」という言葉で表現し、上海市政府は同社の早さを「テスラスピード」と呼んだ。

テスラの「幸運」はこれにだけに留まらない。昨年8月30日、工業情報化部が発表した新しい『車両購入税の免税対象となる新エネルギー自動車モデルのカタログ』で、テスラの自動車は全モデルが免税対象となった。2019年10月、工業情報化部がさらに『道路走行車両の生産企業及び製品に対する公告』(第325号)を発表した際には、建設途中のテスラの上海工場もリストに加えられた。

今回のテスラの中国進出は土地、建設、資金、補助金、政策の各方面において、順調に物事が進み、そして冒頭でも触れた2019年1月7日の上海工場の建設開始、同年12月30日の初回15台の納車へと事が運んだ。

 中国が示した善意に対して、テスラも直ちにその恩に報いようとし、同社のマスク社長は昨年、「2020年末にModel 3の全ての部材を全面的に国産化する」と公の場で声高に発表した。

中国がテスラを必要としているのはなぜか?

中国はなぜテスラをこれほどまでに優遇するのか?

中国最大の証券会社である国泰君安証券は自社の業界報告で、「中国における電気自動車産業チェーンで最も脆弱な部分は完成車製造」だと指摘している。脆弱な部分は補わなければならないが、完成車製造のほかならぬ難しさには、産業チェーン全体のサポートと整備が求められる。では、どうしたらよいのか?中国のオリジナルスマホブランドの台頭を振り返ってみれば、そこにヒントがある。

中国のスマホ産業の転換点は事実上、2011年のアップルによる中国進出に伴って生じた。従来の「波導」や「夏新」といった中国の携帯電話メーカーは先進的技術や成熟した産業チェーンの欠如により、はかなく消え去った。

一見、アップルが中国の安価な労働力と整備された産業チェーンを利用して、膨大な利益を得たように見えるが、中国スマホのオリジナルブランドの台頭においてもまた、アップルも以下の重要な役割を果たしたと言える。

まず、アップルは自社の強みであるサプライチェーンの管理能力により、他のスマホ企業のために国内のスマホ産業チェーンを整備した。2011年より前に、中国はすでにかなり整った携帯電話産業チェーンを築いていたが、効果的に整理されてはいなかった。フォックスコンによるOEMおよび中国の巨大な市場ニーズとアップルの管理能力を組み合わせた結果、中国の携帯電話産業チェーンは次の段階に進んだ。

次に、アップルは国内市場のために巨大なスマホのニーズを掘り起こした。アップルのスマホの普及により、国内スマホ業界のニーズも膨大なものとなり、まず国産スマホおよび産業チェーンが拡大し、発展する機会がもたらされ、最終的には国産スマホが輸入スマホに取って代わるようになった。

こうした発展のおかげで、今ではファーウェイやOPPO、VIVO、シャオミなど中国企業が世界のスマホランキングの常連となっている。

テスラが本当に約束を実行して、全ての部品を国産化するとしたら、アップルの産業チェーンが国内に定着して発展を促したように、テスラが長期的に中国の電気自動車メーカーに恩恵をもたらすことも中国人は期待できるのだろうか?

テスラの「国産化」で恩恵を受けるのは誰か?

テスラの巨大工場の背後にあるサプライチェーン企業を検証すると、自動車の産業チェーンにおけるスケールはアップルやファーウェイのスマホ産業チェーンを大きく超越し、持続的に恩恵を受けられるサプライヤーの数もずっと多くなることが見込める。

具体的に、そのサプライチェーンには動力アセンブリシステム、電気駆動システム、充電、シャーシ、ボディ、その他の部材、センターコンソールシステム、内装、外装など10もの部分が含まれており、直接および間接的にかかわるサプライヤーは100社を超える。

中でも、テスラの基幹技術におけるサプライヤーの大半は日本や米国、欧州であり、中国企業の大半は原材料の二次サプライヤーとしてサプライチェーンに属している。

例えば、現在のテスラにとって最も核となるリチウム電池アセンブリにおいて、リチウム電池パックの製造はパナソニックで、正極材料およびセパレータのサプライヤーは住友化学、負極材料は日立化成、電解液は三菱ケミカルがそれぞれ製造している。電池アセンブリにおいて、電池のコネクタのみ中国の長盈精密が提供している。

しかし、状況は今、変化しつつある。

昨年11月、テスラと拘束力のない初期的な契約を結んだ寧徳時代が、早ければ今年からテスラの上海工場に電池を供給し始めるという。

このことは、中国企業がついにテスラの基幹部品のサプライチェーンに加えられたことを意味している。

これより前に、テスラの電気自動車の中国における生産能力が徐々に高まるにつれて、テスラModel 3の電池、モーター、部材およびケーシングも産業チェーンの原材料に対して大きなニーズを生み出している。川上に位置する原材料のマンガン、ニッケル、リチウム、グラファイトから、川中および川下に位置するコネクタ、川下の車両の完成まで、いずれも大きな原動力を生み出しており、動力車の産業チェーン全体に大きな益をもたらしている、中国の材料、装備、リチウム電池の各業界で優れたサプライヤーが必ずや登場することだろう。

中国政府は常に新エネルギー自動車のいわば「カーブでライバルを追い抜く」ような成長を目指してきた。それゆえ、国内の新エネルギー自動車企業に対する補助金に力を入れてきたが、現状からすると中国の電気自動車業界が日本やドイツ、米国といった既存の自動車大国を超えるためにするべきことは、電気自動車のサプライチェーン全体が健全な発展を遂げられるようにするか、テスラのような海外企業に依存するかのいずれかだ。幸いなことに、中国政府はそのことに早い段階で気づいたようだ。

『日系企業リーダー必読』(2020年1月20日-2月5日号)より

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