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ミオクローヌス

11月25日 父親が深夜に3回飛び起き、ベッドから落ちそうになる。

こんなことは久しぶりだった。どのくらい久しぶりかというと、自宅で見ていた頃、リボトリールというてんかん発作を止める薬をもらう前によく見た症状だった。症状が出てから薬をもらって再入院するまでは良く眠れていたので、約一ヶ月ぶりになる。

一ヶ月前は自分の足で歩けていたので、夜中に私が風呂から出て戻ると、ベッドから落ちて布団の上に座っていたこともあった。怖かった?と聞けば、怖かったと答え、何か見えた?と聞けば、何か見えたと答えていた。

父親は、今はもうアーだとかイーだとか、私たちにとっては意味のない音しか出さなくなった。主治医によると意志を持って発している場合と、知らずのうちに自然と発声してしまっている場合があるという。特に後者はしばらくの間口を開けたまま、ひっきりなしに声が出ることになるので、喉から出血したり舌がただれたりする。それを防ぐため、口腔スポンジで一時間おきに口内と唇を掃除し、保湿する。

昨夜、父親は深夜一時、三時、四時と一回ずつ大きく暴れた。痰が絡んで咳をした拍子に全身の筋肉が連動して起き上がってしまったり、手が勝手に動き、その動きに驚いて飛び起きたり、何もない天井を怖がってベッドからずり落ちたり、起きて暴れる理由は様々だった。

特に昨夜はベッドに頭だけが乗っていて、首から下は床にずり落ちてしまっていた。私も三時から四時にかけては深い睡眠をとっていたので、音で気づいたらすでにこの状態だった。慌ててナースコールを押し、すぐ駆けつけた看護師と二人がかりでベッドに体を横たえた。体の大きい父親なので、重労働だ。

ミオクローヌスとは、簡単に言えば全身の不随運動のことだ。全身のありとあらゆる筋肉が、一定の反復運動を繰り返したり、ビクッと短く大きく震えたりする。手足が上に上がったり、そのままけいれんのように動き続けることもあれば、突然笑ったような表情をして顎を前後左右に動かしたりする。顔にも筋肉は沢山あるので、本人の気持ちとは違った表情が勝手に作られる。寝たきりになってからは、目は大きく見開いて、口を鳥のくちばしのように尖らせて、びっくりしたような表情でいることが多い。

このミオクローヌスが腱反射を誘発・連動し、全身における複数箇所の同時不随運動を起こす。この症状が、父親を一番苦しめているように見えた。時には横隔膜がミオクローヌスを起こし、しゃっくりやゲップのような運動が長い時間続き、胃液を嘔吐してしまうこともあった。

ミオクローヌスの対症療法として、抗ミオクローヌス薬の経口摂取がある。だが、経口摂取ができない父親は、睡眠時のみ点滴で一般的な安定剤を入れ、ミオクローヌスが起きても眠り続けられるように対処している。ただ、その薬も効かない時もあり、このまま点滴を続け父親を苦しめ続けるのは、家族のエゴではないか、と皆が疑問に思い始めている。点滴は、刺す場所がなくなるまで続けることが定められているので、今はどうしようもない。

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