旭山動物園の_飛ぶ_カバ_飛んでくる_アレ_に注意です_ウォーカープラス

企画の楽しさを満喫できる本

気鋭の放送作家、石田さんの著書。
※冒頭画像は、奇跡の大変身を遂げた旭山動物園の写真(北海道ウォーカーのサイトより引用:文中にリンク)

半歩先を目指す(「一歩」は不要)

手っ取り早く言えば、何かを真似て、何かを加える。そして半歩先を目指せばいい。まぁ、ここまではどこかで何度も言われてきたことでしょう。「何かを加える」とは新味を指します。しかし、決してトンガリ発想は必要ないそうです。なぜなら、実現性に乏しい幻想をいくら言ったところで、採用されえないからです。たとえば著者が挙げた事例の中で、一番腑に落ちたのは旭山動物園の企画です。元のコンセプトは「形態展示から、行動展示へ」。一般的な動物園とは、動かなかったり寝てばかりいる動物たちが檻に入れられた場所でした。そんな動物たちに動いてもらおうとした、この新しいコンセプト設定が当たったのです。

アイデアの「守破離」

ベタなアイデアと新しい視点。この最適な組合せが、実現性とインパクトになります。ベタとは、「守」:基本に学び、そこから「破」:自分なりの工夫を加える、そして「離」:新しい型として飛翔させる。アイデアの「守破離」と呼ばれる体系があるのだそうです。馴染みのある成語に置き換えれば、「温故知新」なのだと。人間の本質とは古来以来、結局それほど変わりませんね。ゆえに、ヒットするモノの法則もある程度は、繰り返しのようです。著者はそれを「螺旋状に描いて変化していくもの」と表現します。螺旋を上から見れば、何度も同じ円を描いているだけ。それが時代の変化に合わせて、上下に動いていくのです。その繰り返されるトレンドに合わせて、何かを掛け合わせていくのが、「新味」の部分なのでしょう。

使い古されていますが、アイデアの法則:
①(掛け算が生まれる)足し算
②(サイズ、形、味、匂い、用途など)何かを変える
③(大胆になくす、つまり)引き算
④(価値観、狙い、関係性を)ひっくり返す
⑤(ギャップを埋める)理想からの逆算
いじくるところや組み合わせた新しいモノが、ベタな部分と遠ければ遠いほど、そのインパクトは大きくなります。本書には、昼キャバクラの紹介もありましたが、キャバクラ=夜という常識を部分的に変更した、(法則で言うところの)二番目ですかね。

数多とあるアイデア発想本としては、本書もその括りになるはずです。類書は何冊も目を通してきたので、本書に何か際立った特徴があるわけではありません。強いて言えば、読みやすさ。それはピカイチでした。特に本書最後の追い込みの部分が良かったです。それを自分流の言葉に置き換えってメモっておきます。

動物園を変えた、たったひとつのコンセプト

旭山動物園の例をフィクションにして、ひとつのプレゼンストーリーを試してみましょう。
冒頭、途方もないひと言を掲げます。「これまでの動物園は、動物たちが、死んでいました」。聞き手は眉を寄せ、表情を険しくしながらこちらに詰め寄ってきます。「はぁ~?」。そこで、こう応じます:「動物と書くのに、動かないんですから、死んでるようなものです」。聞き手はなるほどとうなずきます。そして「子どもたちが見たいのは、動物の活き活きした仕草です」とつなげます。「へぇ~」「そりゃそうだ」「できるの?」など、聞き手の反応も様々。最後にズバッと、ソリューションを提示する。そんな彼らのコンセプトを格好良く表現し直したのが、『伝えるのは、命の輝き』でした。

動物園職員のみんながアイデアを出し合いました。オランウータンの本能を引き出すために、「空中運動場」の高い位置に餌を置きました。また大型のバードゲージを作って、人間の方をゲージの中に入れました。百獣の王たちが寝ているところには、空洞を設けて、息遣いが伝わるようにもしました。こうしたたくさんのアイデアが次々と生まれ、今日の名声を獲得するに至ったのです。大胆な発想のおおもとは、いかに動物たちの動くシーンを来園者に感じてもらうかでした。コアとなるひと言が輝いてはじめて、連なるアイデアが日の目を見たのでしょう。著者が言う、「企画は、ひと言。」の意味が体現された、素晴らしい事例です。

最後に、本書にもちょっぴり記されていますが、僕が学んでいる最良の教科書は、「映画の予告編」です。ここには、2時間の内容がすべて凝縮されているだけでなく、わざと観衆の期待を高める空白部分も設けています。これが企画の本質だと思うのですね。もし、実現可能な(オチのある)アイデアをともなって、映画の予告編のようなプレゼンを示すことができたなら、その商品・サービスは、限りなく、成功に近づいてるような気がします。



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