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価格をそう決めた理由、語れますか

対話形式の入門書です。分かりやすいのですが、僕みたいに速読したい読者からすると、やや腹立たしいかもしれません(笑)。
※冒頭画像は、英語版で価格戦略を書いたサイトからの借用です。文中にリンクあり。英語ですが、まとまっていて参考になります。

「コスト+希望利益」で決めることは決して間違いではありません。現に、ほとんどの商品はそうなっています。もちろん、このコストの中には、開発などに要した費用も含まれます。価格がこれだけ透明な時代です。同じ原材料を、似たりよったりのコストで商品化していれば、価格目標値はそれほど変わらなくなります。本書での前半部は、コスト方面の理解をさせるための内容です。ここでは後半部の、市場方面についてまとめてみましょう。

安い、高いを決める価格の基準

価格決定のために把握しておかなければならないのは、顧客の「知覚」です。一杯のコーヒーが喫茶で350円だった頃、100円の缶コーヒーとは明確な差がありました。いや、あるべきなのです。なぜなら、顧客はそう認識しているからです。この知覚は変化します。今日、スタバのコーヒーはその350円くらいからスタートしますが、実際に注文が集まるのは500円前後でしょう。ドトールが安く感じるのは、250円が中心価格帯だからです。セブンカフェは、ドトール品質のテイクアウト専用で150円くらい。これらを基準とした時、高いなら高い分だけの価値をつくり、安いなら安い分ほど条件が悪くならないように考える。これが値決めの成功要件です。ちなみに、高い価格設定をしても、囲い込んだ一部の顧客(会員)に様々なディスカウント・クーポンを発行するという手もあります。

価格には、社会のルールがある

もし、安定顧客を確保するのであれば、毎日低価格を掲げる手もあります。顧客を迷わせない。販促セールのようなプラスのコストもかけない。値段を気にせず、必要な商品を安心して選んでもらう。ウォルマートが得意な手法です。それをさらに進めると、最低価格保証という手法に行き着きます。他店がいくらになるかで、値引きを保証する取り組みですね。いずれも低価格を活用した王道的やり方ですが、どこで利益を考えるかが重要です。逆に、ブランド(商品)側は、希望小売価格をしっかり示して、小売で値崩れしないように様々な対策を打つものです。独占禁止法(定価の小売に対する強要)や景品表示法(小売の架空の二重価格)などの法律によって、価格政策は縛りを受けることがあるので、取引双方は市場での公正な振る舞いや消費者に対する適正な情報開示に日頃から注意しておくべきでしよう。

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価格を見る人の「心」

最近の経済学が面白いのは、人の特性(心理学)を取り込んでいる点です。通常の経済学は、人を、合理的な判断のできる主体としていました。ところが、人はなぜか、いつも「不合理」なのです。それを研究しているのが、行動経済学です。客観的な数字の羅列だったはずの価格ですら、人は合理的な判断ができないものなのです。それを逆手に取った手法として:
1)端数価格:100円を98円などの端数にして、桁を減らす。
2)名声価格:価格でしか価値を判断しづらい美術品などは高価に。
3)慣習価格:缶飲料が120円など、周知されている価格に合わす。
4)段階価格:わざわざ松竹梅などの三段階の価格を設定。
5)均一価格:100均一のように、計算のわずらわしさをなくす。
6)差別価格:オフシーズンを割安で売る。
などが本書では紹介されています。

損をして元を取る、高度な戦略

価格とは、利益を決めるための最重要要素です。そして商品の販売戦略と一番密接に関わるものです。ここを最初に設定せずして、事業の計画を語ることはできません。最近では、アマゾンやシャオミ(中国スマホメーカー「小米」)のように、儲けを後回しにして、市場シェアを押さえる事業者も登場しています。この時の値付けを「市場浸透価格」と呼びます。要するに薄利多売を意図したモデルですね。逆に、iPhoneのアップルは価格を常に業界最高値にすることで市場のリーダー的ポジションをキープしています。

ダイナミックに価格を動かす

値決めをした後は、事業を推進する過程で、価格を修正することがあります。様々な理由付けをしての値引きが一般的です。大量購入や買い替えでのディスカウント、季節ごとのバーゲンなどがそれに当たります。キャッシュバックやクーポンなどで、単純な値下げを避ける方法もあります。複数の商品をセットにしている場合は、特定の商品だけの値下げもありえますね。要は、主力の商品が単純な値下げに追い込まれるのを避け、積極・消極策を問わず、実質的なお得感を上げようとするのが、主な狙いです。「学割」「早割」などで、客層を分けて売る方法も非常に賢明なやり方です。その他、おまけをつけたり、むしろメインのサービスを別に立てて商品をバンドルするなど、(「独占的立場を利用した行為」に関する制限の)法律に注意しながら実施すれば、非常に有効な手でもあります。アイドルの握手権付きCDは見事な手法でした。こうりさいどの革新としては、アマゾンやコストコのように、会員費用を得ながら、商品を安売りするモデルが出現しました。価格防衛に躍起になっているブランド泣かせのビジネスモデルです。

最後に繰り返しになりますが、市場経済における価格は、事業者にとって最も重要な政策要素のひとつです。安易な値付けや、商品間のバランスを欠いた値付けは、商品あるいはシリーズ全体の販売量やブランド力に悪影響を与えてしまいますので、ぜひじっくりと考えてみましょう。本書で描かれた「常識」は、今一度、確かめておく必要があるものばかりです。応用編の書も以下に示しておきます。


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