映画『キャスト・アウェイ』感想

パートナーが弔事で家を離れたので、久しぶりに映画を観た。アマゾン・プライムで目に留まった映画だ。

以前も、パートナーが実家に帰った時に、たまたまアマゾン・プライムで映画『しあわせの絵の具』を観たのだ。それは人生で一番好きと言えるくらいに感動したので、ずっと二匹目のドジョウを狙っていた。

カードや漫画と同じく、映画も好き嫌いが激しい。おおげさな展開は要らないけれど、多少の分かりやすさ・キャッチーさはほしい。

『キャスト・アウェイ』は、事故で無人島に漂着した主人公が帰ってくる話だ。このあらすじだけ読むと、普段は観ない。"無人島に漂着"というのはキャッチー過ぎるように思う。ただ、アマゾン・プライムの詳細画面に「穏やか」というタグが付けられていたのが気になった。それがなんとなくバランスを取ってくれたように感じ、再生ボタンを押すことにした。

淡々としていた

結論から言うと、かなり好みだった。『しあわせの絵の具』が4.9/5.0なら、『キャスト・アウェイ』は4.2/5.0くらいだ。

ストーリーはこうだ。
運送会社のマネージャーをやっている主人公が、結婚間近の恋人を残して、空輸の飛行機に乗り込み、そこで事故が起こって無人島に漂着する。
4年後、帰ってきた時には、元恋人には既に夫と子供がいた。

起こったことはこれだけで、特に大きな意外性もない。
ただ、とても丁寧だった。

無人島での生活。
ココナッツが落ちる音を、人の気配と感じて声をかけ続ける。
夜の闇に怯え、恋人の写真を見て心を落ち着かせる。
漂着した同僚の死体を埋めながらも、使えるものを頂く。
火を起こすために枝を擦り続けるけど、手から血が出る。
ボートで海へ漕ぎ出し、波に飲まれて転覆する。
治療をサボっていた歯が痛みはじめ、決死の覚悟で抜く

こうして書き出すとある程度キャッチーに聞こえるが、こうしたサバイバルものにありがちな、「サバイバルを頑張るぞモード」になったらコミカルな音楽が流れ始めて、「でもやっぱり上手くいかないね!」という失敗オチのSEが付くようなものはなかった。

無人島なので言葉は少ない。ただ淡々と無人島を生きていく様が描かかれる。そうこうするうちに淡々と「4年後」というテロップが流れる。

4年間、主人公を支えていたのは、2つのもの。
一つは恋人ケリーの写真。
もう一つは、バレーボールのウィルソン。

心の支え、ウィルソン

事故にあう前、主人公は運送会社の仕事中だった。島に漂着した時、同時に飛行機に積んであった荷物も漂着していた。最初はそれらの荷物に手を付けなかった主人公だが、ついに限界が来て、それらを開封してしまう。そのうちの一つがウィルソン社のバレーボールだった。ある時、バレーボールに血が付いてしまって、それがなんだか顔に見えた。それから主人公は彼を「ウィルソン」と呼び、話し相手にした。

ウィルソン相手に日々起こった出来事を話し、たまに喧嘩をして放り投げるが、すぐに謝って拾いに行く。4年間の主人公のさみしさが、淡々とウィルソンに刻まれていた。

そうして4年が経った時、あるきっかけから、一度は諦めた島脱出の希望を取り戻し、再び海原へ漕ぎ出す。もちろんウィルソンも一緒だ。

風に乗って島の脱出には成功する。けれど、大嵐でイカダはボロボロになってしまう。なんとか嵐はやりすごしたが、もう精も根も尽き果て、倒れ込んでしまう。

その時、イカダに繋いであったウィルソンが外れて、離れて行ってしまう。気付いた時には既に遠く、必死で漕いでも追いつかない。主人公が叫ぶ、
「ウィルソン!」
「ウィルソン!!」

タイタニックで、最後にローズがジャックの名を呼ぶシーンを思い出していた。まさかバレーボールで泣くとは思わなかった。淡々と丁寧に描かれた生活の中で、主人公がどれだけウィルソンに救われていたかを実感していたから、自分も辛くなってしまった。

恋人との再会

ウィルソンを失った主人公は、イカダのオールも海に流してしまい、死ぬのを待つだけの存在になったが、偶然通りかかった船に救出されることになる。

最初に書いた通り、恋人は既に結婚して子供もいる。現在の夫から「彼女は混乱しているから…」と会わせてもらえない。けれど、なんとか会いに行く。

一般的には、ここで感動の波を起こすために、もう少し過剰に「悲劇感」を演出するように思うのだが、そこも穏やかで良かった。

再会の感動で抱き合うけれど、既に子供がいる元恋人は、少しためらいがち。主人公も、どうでもいいアメフトの話をして時間を潰してしまう。一度は「愛している」と言うけれど、「家に戻った方が良い」と身を引く。

当たり前なのだ。既に幸せな家庭を壊す理由が一つもない。どちらが悪いわけでもないけれど、もう絶対に戻らない愛なのだ。

広くて遠いラストシーン

ただ、その悲劇の展開も淡々と終わり、最後は広い地平線が映る。主人公はたった一つ、運送屋のプライドとして開封していなかった荷物を、4年越しに届けるため、車を走らせていた。

ただ、荷物の送り主は留守で、結局会えない(こういうところがいちいちサッパリしている)。けれど、それっぽい人と言葉を交わすことはできる。

大きな十字路の真ん中で立ち尽くす主人公。台詞には無いけれど、「どこへ行こうか(どこへ行ってもいいな)」という言葉が伝わってくる。

この、「色々あったけど、結局生きてくんよな」という感じがとても良かった。一つ一つの事柄を過剰にドラマチックに盛り立てずに、ただ淡々と生きていく様を映しているのが良かった。

この映画に、それほどメッセージ性があるとは思わない。けれど、一つだけメッセージを感じるとしたら「この広い世界をただ生きていく」なのかも知れない。