【藤井風】死ぬのがいいわを考察したら、愛の闇が見えた。
藤井風も大好きな「死ぬのがいいわ」が、タイで大人気らしい。
「死ぬのがいいわ」がタイのSpotifyバイラルチャートでランキング1位!!この並びで「藤井風」の名前があるのうれしいね。
こういうのを見ると、音楽は国境を越えるってことを改めて感じる。
「死ぬのがいいわ」ってさ、改めて見ると強烈なタイトルよね。
最初に見た時、えっ…ってなったね。
生きろって思ったね。
「死ぬのがいいわ」は、藤井風の1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』収録曲。MUSICAインタビューで「あまり自分の曲は聴かないけど、死ぬのがいいわは結構聴いてしまう」って言ってたぐらい、藤井風のお気に入りの曲。
この曲が、
ドンキでゴマ入り厚揚げと千切りキャベツを買った帰りに、サビのメロディーと「あなたとこのままおさらばするより死ぬのがいいわ」というフレーズが降りてきた。
っていうのは、有名な制作秘話。
「死ぬのがいいわ」の セルフライナーノーツ(曲や歌詞に関する解説文のこと)で、藤井風本人がこう語っている。
曲にも歌詞の世界観にも昭和歌謡の影響を受けているって言ってたし、「愛憎や欲望をストレートに表現した世界観」っていう点では、昭和歌謡を意識した曲という説明はしっくりくる。
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「死ぬのがいいわ」を考察してみた
「死ぬのがいいわ」はメロディーがキャッチーだけど、私はそれと同じぐらい歌詞の世界観に興味を持った。
この「死ぬのがいいわ」は、藤井風の曲の中でもかなり異質だ。
そもそも藤井風の曲は「欲望や執着からの解放」が大きなテーマの一つになっている。
雑誌インタビューでは「何かを手放すことにフォーカスしたポップソングは、自分が表現できるテーマの一つ」と藤井風本人が語っていたし、実際に1st アルバム『HELP EVER HURT NEVER』内では「もうええわ」「罪の香り」「特にない」など、このテーマに沿った曲が多い。
それに対して、この「死ぬのがいいわ」は、欲望や執着を手放していないのだ。むしろ欲望と執着がむき出しになっている。
さらに、「死ぬのがいいわ」は、藤井風の曲の中では数少ないストレートな恋愛ソングに思える(「damn」「やば。」は恋愛ソングっぽいけど、藤井風本人は「恋愛の曲」とは言っていない)
藤井風の曲は、ある意味すべて「ラブソング」と言える。ただ、基本的に藤井風は「ラブソング」は歌うけど、色恋沙汰や生々しい男女間の「恋愛ソング」は歌わない。
そんな中で、一般的な恋愛ソングに近い直接的なニュアンスの曲が「死ぬのがいいわ」だと思っている。
そんな「死ぬのがいいわ」に心を奪われた私が、歌詞を考察してたどり着いた結論は・・・
「死ぬのがいいわ」は、
恋人を振り回す魔性の主人公の話だ。
「死ぬのがいいわ」を恋愛ソングと仮定すると、「このままおサラバするより」という文脈から、主人公は恋人から別れ話を切り出されていることがわかる。
ちなみに、この主人公の一人称は「わたし」であるが、これが女性であるとは限らない。藤井風はよく「わたし」という一人称を歌詞の中で使うし、藤井風自身も「主人公は女性である」とは明言していない。
サビだけを見ると、「相手のことが死ぬほど好きで、めちゃくちゃ執着している主人公」に見える。何度も何度も「死ぬのがいいわ」と繰り返し、愛を伝えている。正直、重い。
しかし、歌詞全体を見ると、面白いことに気づく。
実は相手側の方が、主人公への愛が強いのではないか。
それを紐解く上で、まずは冒頭部分に注目してほしい。
「指切りげんまん」は、何かを約束する時の決まり文句である。
※ちょっと怖い話:「指切りげんまん」の由来は、吉原の遊女が愛を誓う証として、好きな男性客に小指を切って渡していたことに由来するとされている。
では、何を約束したのか?
その答えのヒントは、後半の歌詞にある。
主人公には、浮気癖があるのだ。
「 浮つくMy Heart」は、文字通り「浮つく心」で、恋人以外に目移りしてしまうことだ。そして、「失って初めて気がつくなんてダサいことはもうしたくない」という言葉から察するに、主人公は過去に自分の浮気が原因で別れたことがある。
つまり、主人公が相手と指切りして約束したことは「浮気せず、あなただけを愛する」ということだ。
一方で、このような浮気癖がある主人公に対して、相手側は主人公を一途に愛していることが、この歌詞から分かる。
主人公自身は時々浮気するくせに、「相手は変わることのない愛をくれる存在だ」と言い切っている。主人公は相手から「愛されている」と自覚しているし、相手は「どんなことがあっても愛してくれる」という自信があるのだ。
もし主人公が盲目的に相手を愛し、相手にめちゃくちゃ執着しているのであれば浮気はしないし、ここの歌詞も「この世で一番変わることのない愛をあなたに与えられるのは誰 It's me (それはわたしだよ)」みたいになるはずだ。
浮気癖のある主人公を一途に愛しているのは、むしろ相手側なのだ。
ここまでの流れでわかるように、主人公はサビの部分で強烈な愛を表現しているものの、よくよく見ると実は相手に執着していない。執着しているどころか、甘い愛の言葉で相手をなだめて、手のひらで転がしている。
サビで何度も繰り返される「死ぬのがいいわ」という情念を感じさせる愛の言葉ですら、「愛されている」という確信と余裕から発せられる言葉に思えてくる。
そしてこの曲のラストは、こう締めくくられて終わる。
あれだけ何度も「死ぬのがいいわ」と言ってるくせに、主人公は「それでも時々心が浮つく」のだ。
ここであえてサビの「死ぬのがいいわ」で曲を終わらせないところに、主人公の闇を感じる。浮気はダサいし、失って初めて気がつくなんてことはもうしたくない。だけど、やはり浮気癖は「死んでも治らない」のかもしれないと感じさせる不穏さすらある。
まとめ
設定:
浮気癖のある主人公。浮気がバレて、恋人に別れを切り出されている。
歌詞の要約:
主人公「もう浮気しない。約束する。君だけを愛するから。別れるぐらいなら死んだ方がマシ (まあ、時々他の人に目移りしちゃうけどさ)」
まさに魔性。
でも、こういう人ってモテるんだよね。
ここから見えたのは、
浮気癖のある主人公に、ぶんぶん振り回されている恋人の姿だった。
愛の闇だね。
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これはあくまで私の解釈なので、聴き手によって全く別の見方になると思う。
藤井風はラジオや雑誌で各楽曲の説明をすることがあるけど、私が知っている限り、この「死ぬのがいいわ」の歌詞の世界観について詳しく語ったことはない。
もしかしたら歌詞に詳しい理由なんてないのかもしれないし、藤井風の言葉を借りるなら「メロディーに呼ばれた歌詞を紡いだ」だけなのかもしれない。
本人に聞いたら「え?そんな見方するんだ」って笑うかもね。
この曲の主人公は、実はとても一途かもしれない。文字通り、死ぬほど相手のことを愛しているのかもしれない。
それとも、実は恋愛とは全く関係なくて、「自分の中のパーフェクトな存在 (ハイヤーセルフ)」との別れを惜しむ主人公なのかもしれない。
色んな解釈があったっていい。
色んな解釈があるからこそ、面白い。
音楽って本来は、そんな風に自由なものだ。
それぞれの解釈で「死ぬのがいいわ」を愛していけたらいいね。
そして、こんな歌詞書いてるけど、藤井風本人はめちゃくちゃ一途だと思う。