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喫茶店、愛

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no.6

no.6

その喫茶店は入り口右側のショーケースがたまらなく洒落ていて、高さの違う円柱のお立ち台に、オムライスやハンバーグなどの食品サンプルが並ぶ。
扉のガラスはくもった色をしていて中の様子がよく見えない。良い喫茶店によく見られるギャンブル性のある入り口だ。

お店の中央には金色の円盤が無数に連なり吊り下げられたシャンデリア的なものがあり、エアコンの風を受けて定期的にカラカラと音を立てる。音楽は流れておらず、

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no.5

no.5

朝から暑い日。黒いワンピースが熱を吸収しているのを感じながら、今日も喫茶店の扉をひらく。

色のついたガラス戸で、やっているのか一瞬不安になる。中に入ると新聞を読む常連さんが1人。お店の奥さんがいらっしゃいと声をかけてくれる。奥の方が涼しいよと言われ、入り口近くのゲーム機つきテーブルに未練を感じながら奥に向かう。奥のスペースは一段高くなっていて、深緑色の絨毯みたいな材質の壁に水槽が埋め込まれている

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no.4

no.4

喫茶店ではなくケーキ屋さんだけれど、一度行ったらとてもファンになってしまったお店がある。

流れているのは平成ジャンプ浜崎あゆみ中島美嘉。
有名な人とそんなに有名でない人の色紙が並び、ホワイトボードには各々の思い出が記されている。
あまいアイスティーと背中のないショートケーキ、アクリル板の角の梱包材。

今ここにあるお店のこれまでがちらりと見えるとなんだか泣きたい気持ちになる。言葉にすると軽くなる

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no.3

no.3

汗をかきながら田んぼの間を30分ほど歩き、地図アプリで見つけた喫茶店にたどり着いた。派手な服装の外国人のポスターでコラージュされたえんぴつみたいな柱、エアコンの風に揺れる緑。年季の入った花模様のソファとオレンジ色の床。店の奥には金魚が泳ぐ大きい水槽と、壁一面の女の人の顔、時限爆弾みたいな赤い文字が大きく表示されているデジタル時計。
クリーム氷コーヒー
サイコロ状に凍らされたコーヒーにバニラアイスが

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no.2

no.2

朝の8時前、誰もいない喫茶店でモーニングを食べた
螺旋階段をのぼると大きめの音で音楽が流れていて、店の奥には電話ボックスらしいものが見える
朝ドラに出てきそうな穏やかに年季の入った空間にほっとする

窓際の席に座り交差点を渡る自転車の列を眺める
ガラスの縁が斜めにカットされているおかげで、横断歩道の途中で一瞬人々が消えて見える
ハリーポッターの9 3/4番線みたいだと思った

ゆっくりと運ばれてき

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no.1

no.1

いつも通りがかるだけで入ったことのなかった喫茶店に入った

そーっとドアを押すと、常連らしい元気なおばさま方と店主が楽しそうに話している
私みたいな客は珍しいのか、一瞬その場が静かになる
いつも少し申し訳ない気持ちになりながら、そのお店の空気を壊さないように、そっと席を探して端に座る

地域の人たちがいつも新聞を読んで、煙草を吸って、テレビを見ている、そんな喫茶店を尊敬しているし、そこに少しだけお

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